<HAI年次大会>

ヘリコプターの安全と計器飛行

 

 

 アメリカのヘリコプター事故がわずかに減少した。ワシントンに本部を置く国際ヘリコプター協会(HAI)では近年、ヘリコプターの安全性向上のために訓練の強化、安全手順の励行などを呼びかけてきたが、予備的な集計によると、2007年の実績は78件で、08年の80件にくらべてわずかながら減少した。ただし死亡事故は増加している。また石油開発に従事する洋上飛行の事故も増加した。

 78件のうち双発機の事故は9件で、前年の15件から4割減となった。しかし単発機は65件から69件に増えている。

 HAIのマシュウ・ズッカーロ理事長は「事故はわずかに減っただけだが、ヘリコプター界全体としては、運航者もメーカーも利用者も安全意識が向上してきた。今後の努力によってヘリコプターの安全性はさらに大きく改善されるにちがいない」と語った。

 またHAIの運航安全委員長をつとめるスティーブ・ヒコック氏は「ヘリコプターの事故が多いのは、計器飛行のためのインフラ整備が不充分だからだ。救急飛行でもビジネス飛行でも、計器飛行のインフラがない地域で気象条件が悪化したときに多く発生している」と語った。

 

 なお、ヒコック氏は日本でも昔、筆者の勤務先で招聘し、ヘリコプターの計器飛行に関する講演を聴いたことがある。経歴はFAAのお役人だった。ヘリコプターの計器飛行方式を担当したのち、独立して自ら計器飛行のインフラ整備を推進してきた。パイロットの資格も持つ。

 アメリカでは現在およそ300ヵ所のヘリポートが計器進入の可能な空域設定をしているが、そのほとんどはヒコック氏が手がけたものである。最近の実積はニューヨークのマンハッタンにある4ヵ所の公共用ヘリポート、ダラス周辺17ヵ所の病院に設けられたケアフライト用ヘリポート、オハイオ州救急ネットワーク20ヵ所など。

 つまり大半が病院の救急用ヘリポートで、GPSを使うために地上施設が要らず、経済的でもある。これで飛行の頻度が増えるばかりでなく、安全性も高まる。昨年秋アメリカで出会った折り、わざと貴殿の設定した計器進入方式で事故が起ったことはないかと訊いたところ、むろん1件もないといって胸を張った。

 ところで、ヒコック氏は昨年来、スイスのヘリコプター救急組織REGAの計器進入方式について設定作業を進めている。病院ヘリポートの周囲の地形や建物の状況から、霧がかかったような天候でも障害物を避けて着陸可能とするもので、救急患者の搬送飛行に使われる。

 この作業はスイス連邦航空局(FOCA)の協力を得て、REGAのEC-145ヘリコプターを使い、昼夜間の実証飛行をおこなう。REGAは昼夜間の救急出動態勢をとっている。

 完成すればスイスで初めてのヘリコプター計器進入方式となるが、基本的にはICAOのPANS-OPS(Procedures for Air Navigation Services - Aircraft Operations)の国際的な規定に準拠しており、2008年なかばにはFOCAの最終承認が得られる見込み。

(西川 渉、2008.2.26)

(表紙へ戻る)