<HAI Heli-Expo 2006>

ヘリコプター・メーカーの動向を探る

  

 今年の国際ヘリコプター協会(HAI)年次大会「ヘリエクスポ2006」は去る2月26〜28日の3日間、米テキサス州ダラスで開催された。出展企業と団体は521、地上展示のヘリコプターは48機、参会者は3日間で16,629人を数え、いずれも従来の記録を上回った。

 ほかに、会場となったダラス・コンベンション・センターの屋上ヴァーティポートでは、さまざまな小型ヘリコプターが顧客や報道陣をのせてデモ飛行をおこなった。筆者もユーロコプターAS350にのせて貰い、建築デザインのコンペのような高層ビルが林立するダラス市街地を上空から見ることができた。

 以下、コンベンションの会場で拾った民間ヘリコプター・メーカーの最近の開発動向を見てゆこう。


AS350の風防から望見したダラス市街地

アグスタA109とAW139

 アグスタウェストランド社はイタリアのアグスタ社とイギリスのウェストランド社が2000年に合併した国際合弁企業である。しかし、このほどイギリス側の株式をすべてイタリア側が買い取り、ウェストランドの名前を付けたまま、純イタリア企業となった。

 2005年実積は、受注数が162機で、金額にして前年の2倍。引渡し数は121機であった。

 会場には依然人気の衰えないA109が2機と、AW139が展示された。そのA109のキャビン内部を広げ、大きなスライディングドアを取りつけて、窓も大きくした改良型がA109Sグランド。昨年6月1日に型式証明を取得した。最近までの受注数は60機以上。グランドはキャビンの広いところから、救急機や要人乗用機に好適である。


フェニックス警察向けのA109パワー

 AW139は、これも人気の上がってきた中型双発機。見るからに落ち着いた形状で、信頼感を覚える。これまではベル社との共同開発でAB139と呼んできたが、昨年末イタリア側単独のプロジェクトになってAW139と改称した。

 AW139はこのほど、三井物産エアロスペース社から12機の予約注文を受けた。金額にして、およそ1億ドル(約120億円)。来年から引渡しがはじまる。ほかに3機の警視庁機が発注されている。これでAW139の受注数は170機に近づいた。うち30機が引渡しずみという。


米ERAヘリコプター社向けのAW139
 ERAはAW139を20機発注しているが、これは3機目。
いずれもメキシコ湾の石油開発に飛んでいる。

ベールを脱いだベル417

 ベル・ヘリコプター社はヘリエクスポ会場でモデル417軽単発タービン・ヘリコプター(7席)を披露した。今回のショーで唯一の新規発表である。モデル407を基本とする発達型で、米陸軍の武装偵察ヘリコプターに採用されたARHと同じHTS900エンジン(925shp)1基を装備する。

 しかし単なるエンジン強化だけではなく、モデル430のローターシステムを採用、高温・高地での離着陸性能やホバリング性能の向上をはかる。最大速度は260km/h。最大離陸重量は2,500kgで、407よりも110kgほど重い。417原型機はこの4月に初飛行し、2008年初めに型式証明を取得する予定。基本価格は211万ドル。

 417と並んで展示された429軽双発機は1年前のHAI大会で公表されたもの。原型機は今年秋に初飛行し、ほぼ1年後に型式証明取得の予定。受注数はHAI大会開幕前の時点で149機だった。


 新しく公開されてベールを脱いだ瞬間のベル417単発機。
このモックアップは警察仕様で、機体後部にサーチライト、
機首下面に赤外線暗視装置(FLIR)がついている。

BA609ティルトローター

 ベル社とアグスタウェストランド社が共同開発中の民間型ティルトローター機BA609は昨年7月22日、飛行機モードへの遷移飛行に成功した。最近までに高度5,400mで516km/hの速度性能を記録している。原型2号機はすでにイタリアへ送られ、目下飛行準備中だが、今年秋には初飛行する。アグスタ社の開発負担は40%。

 なお、コンベンションの3日目午後、ダラス近郊のベル社第6工場 XworX(秘密工場エクスワークス)を訪ね、試験飛行を続けているBA609原型1号機を見せて貰った。格納庫の中で明日のテスト飛行に備えて整備点検中だったが、前日にはHAI大会に参加した人を招いて、実際に飛んで見せたらしい。その催しを知らずに、見逃したのは残念至極である。

 ベル社では、もうひとつ無人ティルトローター機の開発が進んでいる。モデルTR-918イーグルアイと呼ばれ、今年1月26日に初飛行した。本来は米沿岸警備隊向けだが、民間機としても米エバグリーン社が調査飛行に使う予定で、1機を発注している。


BA609のモックアップ

世界最高の離着陸記録

 ユーロコプター社は2005年、401機の注文を獲得した。金額にして17億ドルに相当する。また引渡し数は334機であった。機種別の内訳は下表のとおりである。 

ユーロコプター機2005年実積

機   種

受注数

引渡し数

タイガー

6

12

NH90

12

0

スーパーピューマ/EC225

14

18

ドーファン/EC155

25

28

エキュレイユ・ファミリー

193

153

EC145

20

17

EC135/EC635

87

76

EC120

44

30

合    計

401

334

 ヘリエクスポ会場には、AS350B3、EC120、EC135、EC145が展示された。AS350は昨年5月14日エベレスト山頂に着陸して、国際航空連盟(FAI)から航空機として最も高い場所での離着陸という公式認定を受けた機体。この標高8,850mでの記録は当然のことながら、永久に破られることはない。これ以上に高い場所が地球上に存在しないからで、絶対記録ということにもなる。

 会場では一段高い場所に同機が飾られ、その前でFAIからユーロコプター社へ認定証が手交された。


エベレスト着陸の記録をつくったAS350B3

 EC135は、なぜか青と白の迷彩塗装をほどこした機体が展示された。別に軍用機というわけではなく、ニューオーリンズのテイラーエネルギー社の作業用のヘリコプターという。この会社はメキシコ湾の油田開発にあたっており、迷彩塗装で沖合プラットフォームへの人員輸送に使うらしい。しかし、この色合いでは海上に不時着するなど、万一の場合は見つけにくいのではないかと心配になる。

 余談ながら、メキシコ湾では現在、650機近いヘリコプターが使われており、毎日9,000回の飛行がおこなわれている。油田開発のために海上で働く人は35,000人。最近の原油価格の高騰で石油開発も活発になり、ヘリコプターの仕事も忙しくなってきた。

 なお、EC135は目下、出力増強作業が進んでいる。今のエンジンをターボメカ・アリウス2B2またはPW206B2に換装するもので、EC135T2iまたはP2iと呼ぶことになる。旧来のT2またはP2からの換装も可能。これで最大離陸重量は75kg増の2,910kg。逆に機体重量が減って、有効搭載量は80〜90kg増加する。新しいEC135の引渡しは今年9月からはじまる予定。

 EC135は最近までの総受注数が500機を超えた。


迷彩塗装のEC135――メキシコ湾の油田開発に使われる

 

中国および韓国と共同開発

 EC145は最近までの累計受注数が約95機で、そのうち75機が引渡されている。今年は25機の生産予定だが、ほとんどが救急医療に使われる。ほかに警察や政府機関のテロ対策といった任務にもついている。

 ところでユーロコプター社は、中国および韓国との間で新しい中・大型ヘリコプターの共同開発を進めることになった。中国との開発計画は昨年12月に調印されたEC175で、総重量6〜7トン。中国名Z15と呼ばれる。乗客数は最大16人。主ローターは5枚ブレードで、胴体は衝撃吸収能力を持つ。要人輸送、救急搬送、石油開発、消防活動などの多用途機として、上述のアグスタAW139と競合する。

 今後の開発費は両国半分ずつ負担。開発作業は去る1月9日南仏マリニアンヌに設計オフィスが開設され、フランスと中国の技術者60人が配置された。開発段階は5年間で、2009年に初飛行し、2011年までに型式証明を取る予定。なお中国側Z15は翌2012年に型式証明を取得する。

 量産は両国でおこなうが、中国内だけで20年間に280機の需要が見込まれている。またそれ以外の国では400機の需要が予測され、合わせて680機の総需要というのが、ユーロコプター社の見方である。

 もうひとつ、韓国との共同開発は、韓国ヘリコプター・プログラム(KHP)と呼ばれる陸軍向け8トン級のヘリコプター。ユーロコプター社と韓国エアロスペース工業(KAI)との共同作業で、2005年12月13日に調印された。

 開発期間は6年間。韓国からマリニアンヌに40人の技術者が派遣され、間もなく作業がはじまる。ユーロコプター社は現用AS532L1クーガーを基本として、ドライブ系統とオートパイロットを開発する。2011年までに原型6機を製作するが、1号機は2009年に初飛行の予定。韓国陸軍は245機の調達を予定している。


救急仕様のEC145

S-76でニューヨーク旅客輸送

 シコルスキー社はS-92と2種類のS-76を展示した。一つはエアロジスティックに引渡されたS-76C++で、受注35機のうちの1機。S-76C++はターボメカ・アリエル2S2エンジンを装備して出力が強化され、カテゴリーAでの離着陸に際してはペイロードが160〜200kgほど増加、高温・高地での飛行性能も良くなった。主ギアボックスは音が静かになっている。今年1月3日、FAAの型式証明を取得。最近までに60機以上の注文を受けている。

 このS-76C++は、ニューヨークに新しい旅客輸送路線を開設するUSヘリコプター社からも4機の注文を受けた。同社は、この3月からアメリカン航空と組んで、マンハッタンとケネディ空港との間でヘリコプター定期便を飛ばす計画。当面はS-76Bを使うが、来年からS-76C++の引渡しにともない、機種を切り替える。

 このヘリコプター路線の開設で、アメリカン航空の乗客はウォール街ヘリポートで搭乗手続きをすませ、最終目的地までのボーディングパスや荷物の引換証を貰ってケネディ空港の旅客ターミナルまで直接8分間で飛行し、そのまま旅客機に乗り込むことができる。 4月からはマンハッタンの34丁目ヘリポートからも飛び、空港もラガーディア空港やニューアーク空港へ広げる予定。

 もうひとつのS-76DはS-76C++を基本として、PW210Sエンジン2基を装備、新しい複合材製の主ローターブレードを取りつけ、尾部ローターも騒音が小さくなる。防氷装備も充分で、既知の氷結気象条件の中でも飛ぶことができる。2008年に実用化の見こみ。

 なお、S-76の生産数は今年1月末、1979年の引渡し開始以来、各型合わせて600機となった。


海底油田開発の使用が増え始めたシコルスキーS-92 

クレーン・ヘリコプターも2機登場

 シコルスキーS-92は乗客19人乗り。目下メキシコ湾のPHIと北海のノルスク・ヘリコプター社で石油開発の支援に使われている。PHIはすでに6機を運航中。ノルスクも1月から3機目の運航を開始、防氷装備が完備しているため北海の寒冷地でも安全に飛ぶことができる。

 またカナダ政府は28機を発注しており、CH-148サイクロンの呼称で、捜索救難、人員輸送、貨物輸送、戦術輸送、救護搬送などに使う。同じHH-92をシコルスキー社は米空軍にも戦闘救難機として提案している。

 エリクソン・エアクレーンは、米陸軍が使っていたシコルスキーS-64クレーン機を改修、再生した機体で、2機が展示された。いずれもイタリア向けの機体で、山火事の消火や海難救助、緊急物資輸送などに使われる。搭載能力は約11トン。

 消火用の機体は、10トン入りの巨大な水タンクをつけ、わずか30秒で水を吸い上げ、火災現場の上空から投下することができる。また胴体側面から前方へ突き出した放水管を使って大都会の消火やせまい範囲の消火に当たることも可能。 水難救助用のバスケットは、一度に大量29人をすくい上げる。

再建なるかMDヘリコプター

 MDヘリコプター社は今、懸命の再建が続いている。立て直しに当たっているのはニューヨークの投資会社パトリアーチ・パートナー社で、同社のトップ、リン・ティルトン女史みずから昨年夏CEOに就任、陣頭指揮がはじまった。以来半年間の基本方針は、世界で最も安全なヘリコプターと最も行き届いた顧客サービスをめざすというものだが、道は決して平坦ではない。

 1年ほど前MDヘリコプター社は、部品補給などの顧客サービスが不充分で、運航者の多くが同社を見捨てはじめていた。航空機の運航にとってピン一つがなくても飛べないことを思えば、部品の補給が途絶えることは致命的なことである。それというのもMD社の財務状態が完全に破綻していたためだ。

 パトリアーチ本来の事業は、財務的に行き詰まった企業を買い取り、立て直して高く売ることである。しかしティルトン女史はMDヘリコプターに限って、再建と売却が目的ではなく、自分でその事業をやりたいという意欲を見せた。それが自らMD社のCEOに就任した理由である。

 最大の課題は顧客の信頼を取り戻すことだが、今のところ昨年夏にくらべて補用部品の8割は正常に補給されるようになり、飛行不能機(AOG)は7割減となった。顧客の信頼は少しずつ回復してきたとティルトンはいう。次は機体の生産体勢だが、今年の製造計画は20機、2007年は50〜60機、2008年は150機の引渡しをめざし、2008年には正常に戻したいとしている。

 不調のMDヘリコプター社を尻目に、ロビンソン・ヘリコプター社は2005年も世界最多のヘリコプター製造メーカーとなった。4人乗りのR44を563機、複座のR22を243機生産し、合わせて806機の新製機を引渡した。

 現在の生産体制は、毎週16機。創業以来の生産機数は最近までに6,500機を超えた。2005年末には4,000機目のR22が出荷されたばかりである。


MDエクスプローラー

 来年のヘリエクスポ2007は3月1日から3日まで、フロリダ州オーランドで開催される。

(西川 渉、『エアワールド』誌2006年6月号所載に加筆)

(表紙へ戻る)