世界のヘリコプター最近の話題

 

 

 先日、本頁の読者の1人から、最近はヘリコプターに関する話題が少ないといわれた。作者としてはそんなことはないと思うのだが、抵抗してもしようがない。もう一つ少ないといわれる理由は、今年1月末のヘリコプター界の話題を網羅し、HAIフォト・レポートとして『航空情報』誌4月号に8頁にわたって書いた。それを写真と一緒に掲載したのだが、その文章を入れたフロッピーが壊れてしまった。酣燈社もこちらから渡した原稿フロッピーを返してくれないので、うやむやのうちに本頁に掲載できないままになったためかと思われる。

 もちろん印刷された雑誌は手もとにあるのだが、一度タイプした文章をもう一度同じように打ち直すのはどうしても馬鹿ばかしい気がして、やる気がしない。これからはフロッピーだけではなくて、パソコン本体の中にバックアップを保存しておこうという反省はしたのだが、それきりになってしまった。

 そこで気を取り直して、最近のニュースの中から目についた話題を取り上げると次のようになる。

 

NH90に正式発注

 欧州4か国が共同開発してきたNH90軍用ヘリコプターが6月30日、正式注文を受けた。受注機数は下表の通りである。

NH90の製造契約一覧

国(出資シェア)

契約機種

機   数

備     考

イタリア(32%)

陸軍

TTH

60機

戦術輸送機

海軍

NFH

46機

NATOフリゲート・ヘリコプター

TTH

10機

空軍

TTH

(1機)

フランス(31.25%)

海軍

NFH

27機

ドイツ(31.25%)

陸軍

TTH

50機+(30機)

空軍

TTH

30機+(24機)

うち23機は捜索救難機

オランダ(5.5%)

海軍

NFH

20機

合      計

243機+(55機)

  上表の通り、今のところ確定受注は243機で、まず戦術輸送ヘリコプター(TTH)が2003年から引渡しに入る。加えて、55機の仮注文があり、受注総数は298機になる。最終的には各国各軍の要求機数を合わせると、595機になる予定。

 

 

A119コアラ、FAAの型式証明取得

 伊アグスタ社のA119コアラ単発タービン・ヘリコプターはこのほどFAAの型式証明を取得した。同機は昨年12月30日、イタリア政府の型式証明を取得しており、1月下旬のHAI大会では2月にFAAの型式証明も取れる見こみと語っていた。しかし何故か、実際は5月末になったもようである。

 ちなみにFAAの型式証明は航空機を輸出していくうえで大いに威力があり、水戸黄門の印篭のように、これがあるとないとでは売れゆきが全く異なる。ある航空機に耐空性があるかどうかは、その国の航空当局が判断すべきものである。にもかかわらず、FAAのお墨付きがないと他国の耐空性もなかなか認められない。

 その一方でFAAも無闇に型式証明を交付するわけではない。といって、別に勿体ぶっているわけではない。元来、FAAの証明は米国内で飛ぶ航空機に対して交付されるものである。米国製の航空機を除いては、米国内で飛行しない航空機のことなどFAAの知ったことではないというわけだ。

 したがって、たとえばわれわれが、FAAの型式証明のない航空機をイタリアから輸入したりすると、航空局の手続きは大変なことになる。トラック1台分の何トンという書類を日本語に訳して持ってこいなどといわれたのは昔のことで、今は日伊相互協定があったりしてもっと合理化されたかもしれぬが、そんなときにFAAの型式証明を取っていれば余りむずかしいことにはならない。悔しいけれども、日本に自主性がないのだからやむを得ない。

 ともあれコアラは、遅ればせながらFAAの型式証明を取得した。第三国への売りこみも活発になるであろう。

 エンジンはP&W.PT6B-37ターボシャフトが1基。離陸出力1,002shp、最大連続出力872shpで、トランスミッションの受容出力は900shpである。これで機内有効搭載量は1,290kg、機外吊り上げ能力は1,400kg。パイロット7人のほかに乗客7人をのせて、260km/hの速度で飛行できる。

 機体価格は1機180万ドル。最近までに20機の注文を受けているが、うち2機がアメリカからという。

 

米沿岸警備隊がA109を発注

 驚いたことに、伊アグスタ社が米沿岸警備隊からA109Eパワー双発タービン・ヘリコプターの注文を獲得した。MDエクスプローラーなどと競争の結果で、MDエクスプローラーはかねて2機が試用され、本命と見られていた。それをひっくり返したA109Eは今年9月に2機が引渡され、来年は6機が納められる予定。

 A109Eの任務は沿岸の麻薬密輸の取り締まり。高速ボートでやってくる密輸団を海上で追いかけなければならない。そこでA109の足の速さが買われたものと思うが、停船命令にしたがわない密輸船に対しては機上から大型スナイパー銃で狙撃し、船のエンジンを撃って停止させる作戦。ほかに同機には赤外線暗視装置(FLIR)なども装備する。

 米連邦政府にアグスタ機が採用されるのは、これが初めてという。

 

ロンドン救急にMDエクスプローラー

 英『エア・アンビュランス』誌(2000年5月号)の伝えるところでは、ロイヤル・ロンドン・ホスピタルの救急ヘリコプターが取り替えられることになった。現用機はヴァージン・グループの寄贈によるユーロコプター・ドーファンだが、これをMDエクスプロラーに変更するというもの。

 同機の選定理由について、運航を担当するヴァージン・ヘリコプター社は片発停止時の飛行性能、キャビン内部の大きさ、安全性、ノーター・システムによる騒音の小さいことなどを評価したらしい。運航開始は今年10月から。救急出動時の搭乗者は原則としてパイロット2人のほか医師とパラメディックの合わせて4人。

 昨年秋、私がこの病院の屋上ヘリポートを訪ねたとき、過去10年以上にわたってほとんど故障のなかったドーファンが、何故かこのときに限って故障し、屋上ヘリポートに姿を見ることができなかった。

 主ローター・ブレードに亀裂が見つかったとかで、本拠地のデナム飛行場の格納庫に入ったまま。じゃあ明日出直してきますと言ったら、ブレードは取り外してメーカーに送ったので、いつになったら戻ってくるか分からないという答え。

 予備品があれば、すぐに交換して飛べるはずだが、それもなかったらしい。何しろぎりぎりの寄付金でまかなっているので、予備のブレードなどという高価なものは持てないのだそうである。

 そのせいで、私のカメラにはロイヤル・ロンドン・ホスピタルのヘリコプターは遂に収めることができず、したがって本頁にも写真を掲載することができない。ただし同病院のホームページでは多数の写真を見ることができる。

 このドーファン機は1988年以前に飛びはじめ、毎年およそ450時間ずつ飛んできた。したがって飛行時間は5,000時間程度かと思われるが、1回平均8分以下の飛行を繰り返しているから、発着回数は大変なものになる。そろそろ取り替える時期だという話は昨年から出ていた。

 それがようやく決まって、MDエクスプロラーを選定したのであろう。これもヴァージン・グループの寄贈になるもようで、今年10月から同グループ特有の真っ赤な塗装で登場するにちがいない。ご同慶の至りである。

 余談ながら、英国のヘリコプター救急は現在、全国14か所でおこなわれている。しかし、警察の副次的に飛んでいる3か所を除いては、公的な費用はほとんど使われていない。政府や自治体が金を出さないのなら自分たちで出そうというのが英国民の心意気で、ロンドンを除いては住民の個々人がわずかずつの寄付を持ち寄り、ガレージセールをしたり、富くじを出したりしてつないでいる。しかし寄付金は人びとの善意と努力が頼りだから、必ずしも充分ではなく、安定もしない。

 この状態をロイヤル・ロンドン・ホスピタルのリチャード・アーラム博士は、サッチャー政権が国民の健康を無視し、医療政策に無関心だったからだという。そのため医師や看護婦の給与は、いまだに低く抑えられ、国の予算で救急ヘリコプターを買うなどは飛んでもないこと。国民から取り上げた高額の税金は兵隊に払うばかりで看護婦には払ってくれないと苦いユーモアで語っている。

 博士は、ヘリコプター救急の後進性は英国も日本も似ているというが、これには日本が気の毒というのを通り越して、お世辞が含まれている。事実は、英国の方がはるかに進んでいて、日本政府は高額の税金を土建会社に払うばかりである。

 

MDヘリコプターの改良

 MDヘリコプターの改良計画が進んでいる。MDエクスプローラーは現在のPW206Eエンジンを新しいPW207Eに換装し、高温・高地性能を引き上げ、片発停止時の条件も良くなる。これが完成すればMD903とでも改称するのかどうか、それはまだ報じられていない。

 またMD520Nは新しいロールスロイス250-C20+エンジンを装備、出力が3〜5%増加して、高温・高地性能が良くなる。ペイロードも増加するもよう。

 MD600NはMD520Nと同様の増安定システムを装備する。これでパイロットのワークロードが減る見こみ。完成は今年末の予定。

 

ヒンダスタンALHの生産開始

 インドのヒンダスタン・エアロノーティックス社(HAL)が開発してきたALH軽ヘリコプターの生産がようやくはじまったという。

 同機は昔、ドイツMBBの技術的な協力を得て開発がはじまり、1992年8月30日に初飛行した。けれども、いつの間にかドイツとの協力関係を断ち切り、独自で試験飛行を進めたが、なかなかうまくゆかず、遅れに遅れて今日に至ったもの。MBBまたは今のユーロコプター社との関係が続いていれば、もっと早くものになったのではないかと思うのは私ばかりではあるまい。

 チュルボメカTM333-2Bエンジン(1,000shp)2基を装備して、最大12人乗り。当面10機を製造し、インド軍と民間顧客に納めるという。が、果たして将来はあるのだろうか。

(西川渉、2000.7.18)

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