<HELI-EXPO 2006>

クレーン・ヘリコプター

 今年の展示会場には大型クレーン・ヘリコプター2機が展示され、見るものを圧倒した。米陸軍の旧S-64クレーン機を、エリクソン社が改修、再生した機体で、展示された2機はいずれもイタリア向け。搭載量は25,000ポンド(約11トン)。


この大型機を見る者はつい腰に手を置く恰好になる。
そうしないと、何か押し倒されるような気がするのだ。

 会場に展示された消火用の機体は、2,650ガロン(×3.7853リッター=10,031リッター=10トン)入りの巨大なタンクをつけ、吸水管がつく。吸水管の先端には水中翼がついているので、ヘリコプターが管を降ろし、水面上1.8mほどの高さを35〜40ノット(70km/h前後)の低速で飛ぶと、管の先に水圧がかかって急速に水をすくい上げることができる。海面の広いところで海水をくみ上げるには、この方法がおこなわれ、わずか30秒で満タンになる。この超低空飛行を精密に維持するため、クレーン機は電波高度計をつけている。

 このように移動しながらの吸水は、特に海上では機体にも都合がよい。吸水のために低空でホバリングを続けると海面から水しぶきが上がって機体にかかり、エンジンに吸い込まれるので、塩水が悪影響を及ぼす。

 一方で、池などの狭い水面からシュノーケルによって水を吸い上げることもできる。


吸水管と水中翼

 こうした大型水タンクとは別に、70ガロンの泡消火剤を入れる小さなタンクもあって、消火剤を少しずつ水に混入して散布する。

 水の散布はタンク下面から直接落とすほかに、コクピット左下に取りつけた水鉄砲から放水することもできる。大都会での消火やせまい範囲の消火に使用する。

 S-64は、こうして1時間に25,000ガロンの水をまくことができる。

 このようなクレーン・ヘリコプターについて、エリクソン社はこのほどロサンジェルス市消防局に対しデモ飛行をおこなった。12月の3日間、クレーン機は水鉄砲から消火剤のまじった水を放って、高層ビル火災の消火能力を誇示した。また水中から遭難者をバスケットで吊上げたり、救急治療装備をしたメデバック・ポッドを取りつけて大災害の現場に病院施設の再現をして見せた。バスケットによる水難救助は一度に29人をすくい上げる大型バスケットを長吊りしておこなう。

 また破損した送電線や電話線の敷設工事、貨物船へのコンテナ輸送、重量物の大量輸送なども可能。


海難救助用の籠(手前)と、機体下面に取りつけられた重量物吊り下げ装置

(西川 渉、2006.3.16)

(表紙へ戻る)