<HELI-EXPO 2006>

MDヘリコプター

 MDヘリコプター社は、かねて資金難におちいっていたが、昨年夏、ニューヨークの投資会社パトリアーチ・パートナー社に買収された。そして同社のトップ、リン・ティルトン女史みずからMDのCEOに就任し、再建の熱意を示している。

 以来半年、ティルトンは世界で最も安全なヘリコプターと最も行き届いた顧客サービスをめざしてMDヘリコプター社の立て直しををしてきた。しかし一方で、そうした目標が決して容易ではないことも感じはじめたらしい。HAI大会の会場で、彼女は「旅はむずかしい」と語った。「この事業は、私の勇気と気力と強さを試すものでもあります」。ここでヘコたれてはならないというのであろう。


MD500E警察機

 1年ほど前、MDヘリコプター社の病状は極めてきびしく、重態といってもいいほどだった。部品補給などの顧客サービスが不充分で、運航者の多くが同社を見捨てはじめていた。航空機の運航にとってピン一つがなくても飛べないことを思えば、部品の補給が途絶えることはもはや致命的なことである。

 それというのもMDヘリコプター社の財務状態が薄皮1枚の状態だったからで、わずかな日銭が入るたびに銀行に取り上げられ、完全に破綻していた。そんな死んだような状態のところへパトリアーチという白馬の騎士が現れたのである。救ってくれた騎士は、王子ならぬ女性だった。

 パトリアーチ本来の事業は、どこかの企業が製品が良くても財務的に行き詰まったようなとき、それを買い取り、立て直して高く売ることである。しかしティルトン女史はMDヘリコプター社に限って、再建と売却が目的ではなく、自分でその事業をやりたいという意欲を見せた。それが自らMD社のCEOに就任した理由でもある。

 買収にあたっては、同社のそれまでの債務を肩代わりし、5,000万ドル(約55億円)を投じて会長に就任すると共に、パトリアーチの方から経営陣を送りこんだ。


救急業務に使われるMDエクスプローラー

 最大の問題は顧客の信頼を取り戻し、相互の関係を修復することである。そのために、いま彼女は1軒ずつ顧客めぐりをしている。しかし顧客の方も、これまでの痛手がなかなか忘れられないところが多い。そんな中でMDヘリコプター社の新しい資本と新しい経営陣を暖かく迎えてくれるところもある。事実、昨年夏にくらべるならば、補用部品の8割は正常に補給されるようになり、AOG機は7割減となった。たとえばエアメソッドのMDエクスプローラーは2004年8月6日以来1年以上飛べなかった。再び飛んだのは今年1月18日である。

 こうして、顧客の信頼は少しずつ回復してきたとティルトンはいう。次は機体の生産体勢だが、今年の製造計画は20機、2007年は50〜60機、2008年は150機の引渡しをめざしている。すなわち2008年には正常に戻したいというわけである。

 そのうえMDヘリコプター社は米陸軍のLUH競争にも参加している。4月末までには結論が出る予定だが、これに採用されるならば、MD社の回復は大きく早まるであろう。

 従業員数は今のところ185人だが、2年前の170人よりもすでに増えている。これに米陸軍のLUH契約が取れるならば、250〜300人に増えるだろう。

 そんな計画というか希望というか、果たして実現できるだろうか。ティルトンは女性であることを十二分に生かして、みずから「歩く広告塔」と称しているようだが、イメージだけが先行し過ぎるとつまずく恐れがある。航空機の製造はマネーゲームにはしゃぐ投資事業とは異なる。

 尾部ローターのないノーターの原理を実現したヘリコプターが、消えてしまわないように願うばかりである。


米陸軍の軽多用途機LUHに提案されているMDエクスプローラー

(西川 渉、2006.3.17)

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