<HELI-EXPO 2017>

ヘリエクスポに見る
未来志向の開発プラン

 毎年恒例のヘリコプターショー「ヘリエクスポ」、今年は2月26日から3月1日までラスベガスで開催される。国際ヘリコプター協会(HAI)の主催になるもので、日本からも多くの人が出かけてゆくであろう。

 ところで、昨年のヘリエクスポは2017年3月、テキサス州ダラスで開催された。このときのもようを『航空情報』(2017年6月号)に書いたが、うっかりして本頁に掲載するのを忘れていた。今年のショーのことを考えていて、ふと思い出したので、ここに遅ればせながら記録を残しておきたい。

 2017年のヘリエクスポは、展示されたヘリコプターが62機、入場者はおよそ18,000人であった。大きな特徴は、未来志向の考え方を打ち出したメーカーが多かったこと。生産中の製品改良は当然だが、近い将来の新規開発、さらにその先の未来志向の開発構想がさまざまに公表された。ここに、その一端を見てゆきたい。

技術と美術の組み合わせ

 まず地元ベル社からは、流麗なスポーツカーにも似た未来型ヘリコプターの実物大モックアップが展示され、人びとの注目を集めた。FCX-001と呼ぶ同機は昨年9月以来、技術陣に美術デザイナーを加えた開発チームが、技術と美術の組み合わせから成るコンセプトにもとづいて構想したもの。大きさは長さ、幅ともに今のベル412をやや上回る。

 外観上の特徴は尾部ローターがないこと。その代わり、ベル社が「クロス・フロー・ファン」と呼ぶ一連の電動ファンをテールブームの中に埋めこんで、反トルク機構とする。外部に露出した尾部ローターと異なり、騒音が抑えられ、危険性も少ない。しかも尾部ローター用のギアボックスが要らないので、機体重量が軽減される。また水平安定板も、電動ファンによってテールブームの揺れを制御することで不要にしている。

 主ローターは5枚ブレード。展示されたのは通常のブレードだが、将来は回転につれて先端を変形させる。たとえば高速飛行中は前進側ブレードの先端に後退角をもたせ、飛行性能をさらに上げるという。

 エンジンはハイブリッド式。2基のタービン・エンジンを基本とし、それに電気モーターがつく。これで尾部のファンを動かす仕組みである。

 操縦席は最前方中央に1席。コクピットには通常見られるような操縦桿やディスプレイなどもなく、パイロットはヘッドアップ・ディスプレイに映し出された景色の中を飛ぶ。これは人工知能を組みこんだフライ・バイ・ワイアの一環で、自律性をもった操縦系統になっている。いずれは、無人ヘリコプターにもつなげたい、というのがベル社のひそかな狙いだ。

 主キャビンは前後4席ずつの乗客8人乗り。詰めれば12人乗りにもなる。機体は耐久性のある材料でつくる。降着装置は一種類に限らない。展示されたモックアップは車輪式だったが、使用者の希望によってスキッド式にすることも可能。

 このモックアップがそのまま現実のヘリコプターになるとは限らないが、こうしたコンセプトの研究と実験を重ね、15〜20年後には現実のものにしたいというのがベル社の意向である。

欧州2社も未来志向の構想

 ヨーロッパでも未来志向の新しい構想が計画されている。欧州連合(EU)の地球温暖化対策に呼応するもので、そのひとつがかねてからエアバス・ヘリコプター社で飛行実験をしてきたX3コンパウンド機の発展型「クリーン・スカイ2」(CS2)だ。

 大気汚染の悪化を防ぐために、低燃費のRTM322ターボシャフト・エンジン(2,100〜2,600shp)2基をそなえ、主ローターのほかに固定翼とプロペラを持つ。巡航飛行中はエンジン1基を停めて燃料を節約しながら、汚染ガスの排出量を減らす。それでも単発で350q/hの高速飛行が可能。

 この新世代機の研究と設計を、エアバス社ではこの夏までに完成し、今年6月のパリ航空ショーで詳細を発表することにしている。実機は2020年代初め頃に初飛行の予定。

新世代のレオナルド・ティルトローター機

 同様に、イタリアのレオナルド社でも大気汚染対策機が計画されている。これは完成間近いAW609に続く次世代の民間向けティルトローター機で、旅客20人乗り。2023年に初飛行し、2030年頃に実用化の計画という。このティルトローター旅客機にはいくつかの新しい技術が採用される。ひとつは主翼先端のエンジンを水平位置のまま固定し、4枚ブレードのプロップローターだけを垂直位置から水平にまでティルトさせる。

 さらに主翼の先端部分を可動式のティルトウィングとし、垂直飛行中に翼に吹きつけるローターダウンウォッシュの圧力を軽減する。ちなみに主翼に対するダウンウォッシュの影響は、オスプレイやAW609の場合、垂直飛行能力を1割ほど損じるほどである。

 操縦系統はフライ・バイ・ワイア。このシステムでエンジンのディジタル・コントロールもおこなう。巡航速度は500q/h以上。

 レオナルド社は、こうしたティルトローター計画を今年中に固め、風洞試験を終える予定。また2018年にはエンジンの選定を経て、予備設計に入るという。

空飛ぶ無人タクシー

 ところで、運転士のいない乗り物は、エレベーターやエスカレーターなど乗り物と言えるかどうかは別として、われわれはいつも利用していて何とも思わない。しかし、かつて神戸のポートライナー(1981年)や東京のゆりかもめ(1988年)が開通した当時、運転士が乗っていないので走行中に事故が起こったときはどうなるかといった不安が人びとの間で問題になった。それが今や、航空の世界でもパイロットのいない機体がタクシーとして旅客輸送に当たろうとしていることが、ヘリエクスポ会場で報道された。

 ひとつはエアバス社が進めている電動VTOL機の開発である。「シティエアバス」と呼ぶ4人乗りの機体で、胴体前後にティルトウィングをもち、それぞれに2つずつ、合わせて8基のプロップローター、エアバス社のいう「ファン」がつき、翼をティルトさせて垂直離着陸をおこなう。すでに模型実験が進んでおり、2019年にはパイロットが乗って飛行試験を開始、将来はパイロットを降ろして実用化する構想という。

 その際、無人の空飛ぶタクシーとして道路の混雑した大都市で使えば目的地までの時間を短縮し、環境にもやさしいという効果が期待される。それに4人乗りの機体だから1人当たりにすれば、地上のタクシー料金と同じくらいの安さになるというのがエアバス社の試算。たしかにパイロットがいない分だけ人件費もかからないであろう。


ティルトウイングと8基のプロップ・ローターを持つシティエアバス

 もうひとつは中国のドローン・メーカーが構想中のEhang 184無人機。もとよりドローンを大型化しただけで人を乗せられるとは限らないが、操縦系統に人工知能を組みこんだ自律制御によって安全かつ正確な飛行を可能にする。搭乗するのは乗客のみ。パイロットがいないので、離陸前にスマートフォンで目的地を指示する。飛行状況は地上の運航管理センターが常に監視していて、乗客との無線通話も可能。また異常が発生したときは、自律的に着陸できる。動力は電気モーターで、4基のローターを駆動する。


中国のイーハン184

 もっとも、これらの無人機による旅客輸送を実現するには、安全性を初めとして、いくつもの課題が存在する。日本の航空法では、無人航空機とは「構造上人が乗ることができないもののうち、遠隔操作又は自動操縦により飛行させることができるもの」とされ、そもそも人を乗せないことが前提となっている。さらに「人又は家屋の密集している地域の上空」を飛行させてはならず、「周囲の状況を目視により常時監視して飛行させること」などの条件がいくつもあり、これではタクシーにならない。

 したがって将来、無人タクシー機が実現するには、機体そのものがよほど優れた安全性を備えるのは当然、法律上も新たな規定が必要となろう。

当面の開発計画と実用化予定

 最後にもう一度現実に戻って、ヘリエクスポで明らかにされた具体的な開発計画もしくは実用化の予定を見てゆきたい。

 ひとつは、スイスのマレンコ・ヘリコプター社が新しいSKYe SH09ヘリコプターの実物大モックアップを展示すると共に、初の注文獲得を発表した。同機は2014年10月に原型1号機が初飛行したのち、ローター系統に修正が加えられ、2016年2月から本格的な飛行試験が始まった。すでに2号機も飛んでおり、まもなく3号機も飛行する。

 総重量は2,650kg。機体は複合材製で、操縦席はフル・グラスコクピット。パイロット1人のほか乗客7人乗り。後部には貝殻ドアがつく。エンジンはハニウェルHTS900-2ターボシャフト(1,020shp)が1基。主ローターは5枚ブレード。尾部ローターはフェネストロンに似たシュラウド式。巡航速度260q/h、航続距離800km。最大1トン半の貨物吊り下げも可能で、このときは総重量が2,800kgまで増える。型式証明の取得目標は2018年。これまでに90機ほどの予約注文を受けている。

 ヘリエクスポの会場では、さらに具体的な動きがいくつか見られた。そのひとつは、ベル社による新しいジェットレンジャーX量産1号機が引渡された。モデル505と呼ばれる同機は、5人乗りの単発タービン・ヘリコプターで、エンジンはフランスのアリウス2Rターボシャフト(504shp)が1基。コクピットには最新のガーミンG1000Hアビオニクスが装備され、エンジン制御もこれでおこなう。機体はコストを抑えるために金属製で、ローター系統も旧206L-4ロングレンジャーと同じものを使っている。

 基本価格は100万ドル余。最近までの仮注文は350機以上。今後は年間150機の量産が計画されている。総重量800kg、巡航速度230q/h、航続3.5時間。

 ベル社ではもうひとつ、モデル525リレントレスの開発作業が再開されつつある。同機は昨年7月、試作1号機が事故を起こして試験飛行が中断していたが、まもなく3号機が飛ぶ。さらに4〜5号機の製作も進んでおり、2018年中に型式証明を取る予定。乗客16〜20人乗りの大型機で、総重量9.5トン。2,000shp級のエンジンGE CT7ターボシャフト2基を装備する。発注意向は最近までにおよそ80機分が寄せられている。

 エアバスH160は原型2機が試験飛行中。最も目立つのは主ローターの特異な形状で、性能向上と騒音軽減のためブレードが途中から折れ曲がったような形状になっている。今年末には3号機も飛び、2019年初めまでに型式証明を取得するという。

 MDヘリコプター社は新しいMD6XX単発タービン機のモックアップを展示した。5枚ブレードの主ローターと4枚ブレードの尾部ローターを持ち、ロールスロイスC47ターボシャフト・エンジンを装備する。操縦席はグラス・コクピット。今年末までに初飛行して2018年末には型式証明を取得する予定。巡航260q/h。航続4時間半で900km。救急機や警察機などの用途をめざしている。総重量は2.5トン。

 さらに同社ではMD902双発ヘリコプターの発達型MD969の開発が完成に近づいている。4軸の自動操縦装置をそなえ、PW206Eエンジンを強化して、この6月にも型式証明を取得する見こみ。

 トルコ・エアロスペース社(TAI)のT-625は総重量6トン級の中型ヘリコプターで2018年に初飛行する。エンジンはLHTEC T800。市場目標は警察や消防などのパラパブリックと軍用。

 レオナルド社ではAW209軽双発ヘリコプターの開発構想が進んでいる。AW109の後継機となるもので、まずはスキッド脚をもつもよう。

 2018年のヘリエクスポではラスベガスでは如何なる未来が描かれるだろうか。ヘリコプター技術の新たな進展を楽しみに待ちたい。

(西川 渉、航空情報2017年6月号掲載)

 

    

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