国際ヘリコプター協会(HAI)は今年、創立50周年を迎えた。その記念の年次大会は去る2月15〜17日の3日間、ロサンゼルス郊外のアナハイムで開催された。
その2日前、参加のために成田を飛び立った飛行機の中で配られた夕刊には、早くも波乱含みのニュースが報じられていた。ボーイング社が民間ヘリコプター事業部門を売りに出すというのである。ベル社との間で進めてきた民間型ティルトローター機、モデル609の共同開発からも手を引くらしい。
おまけにロサンゼルス国際空港はエルニーニョの影響で大雨が続き、飛行機の欠航や延着が相次いだ。HAIのフランク・ジェンセン理事長も、これじゃ「ヘリ・エキスポではなくてヘリ・ニーニョになるかもしれない」と冗談を飛ばすほど。前の週から降りつづいた雨はカリフォルニア各地で洪水をもたらし、州軍のUH-60ブラックホークやCH-47チヌークなど多数のヘリコプターが出動して住民の救助に大わらわだったらしい。
しかし「ヘリ・エキスポ98」の3日間は荒れ模様がおさまり、約13,000人の参会者も年に一度のヘリコプターの祭典をエンジョイした。これが、世界のヘリコプター界にとって一時的な小康状態に終わらなければいいがと思うばかりである。
ボーイング社が民間ヘリコプター事業を中止するという発表をしたのはHAI大会の直前、2月12日のことである。昨年のマクダネル・ダグラス社との合併で取得したMDヘリコプター事業のうち民間機に関する部分を売却し、モデル609ティルトローター機の開発からも手を引くという。
言い換えれば、従来からのチヌーク大型機、V-22軍用ティルトローター機、シコルスキー社と共同開発中のRAH-66スカウト機、そしてAH-64アパッチ攻撃機に関しては、今後も生産と開発をつづけてゆく。つまり政府との安定的な契約が得られるものは残したといえば、やや言い過ぎになるかもしれないが、経済合理性を求めたことは確かであろう。
ボーイング社のこうした発表を受けて、ベル社は単独でもモデル609の開発をつづけるという基本方針を明らかにした。これまでボーイング社が負担してきた49%の参加比率を引き受け、100%のリスク負担も辞さないというのである。ただし、できれば誰かパートナーを見つけたいという考えもあり、いくつかのメーカーと話をしているらしい。またボーイング社も今後、部品の下請けメーカーとして609の製造に協力するとしている。
さらに民間向けMDヘリコプターの生産も、ベル社が引き受けるのではないかという憶測が流れた。ベル社の記者会見でもその点に質問が集中したが、答えはボーイング社と話し合いをしていることは確かだが、まだ何ともいえない。しかし2週間以内にはっきりするとのことであった。
余談ながら、MDヘリコプターをベル社が買い取ればどうなるか。MDの3機種に競合する機種がベル社の方にも存在する。モデル206Bや新しい407、427がそれで、MD機をそのまま生産を続けるのはむずかしいのではないか。ベル社としては、その点にこだわりはないというが、果たして長つづきするのだろうか。
現実には3機種の生産を取りやめ、ノーター原理だけを今後のベル・ヘリコプターに生かしてゆくといったことになるかもしれない。ベル社の方にもこれまで、むき出しの尾部ローターを囲いこみたいという考えがあった。いくつかの実験や試作もおこなわれたが、まだ実用にはなっていない。MDヘリコプターを買い取ることによって競争相手をなくし、同時にノーター技術を採り入れることができれば、一石二鳥の好都合というもの。もっとも、それでは独占禁止法にひっかかるという見方もある。
もう一つ余談を重ねると、このHAI大会の途中でMD600Nに試乗させてもらう機会があった。アナハイム・スタジアム横の駐車場を臨時のヘリポートにして、各メーカーそれぞれに試乗会を催しているのだが、MD600Nはわれわれをのせると南の方のサンタ・アナ山地へ向かい、人里離れた山中でさまざまな飛行を体験させてくれた。
高速横進や後進はもとより、山の斜面に沿って超低空の匍匐(ほふく)飛行――いわゆるナップ・オブ・ジ・アース(NOE)をやったと思ったら、木立の中に入って行く。つまりノーター機は尾部ローターがないから、パイロットは尾部の心配をする必要がない。頭上の主ローターを気にするだけで、安心して木立の中を飛べるというのである。
そういいながら、ついに狭い樹木の間に着陸してしまった。心配ないとはいうものの、主ローターが回っている。本当に大丈夫かと思ったのは私ばかりではないだろう。無論そこからうまく抜け出してくれたが、まことに勇ましい飛行ぶりであった。MD600Nは単発とはいえ、強力なアリソン250-C47エンジン(790shp)をそなえ、すぐれた飛行性能をもっている。
一方MDエクスプローラーはHAI大会の直前、2月11日にFAAからカテゴリーAの飛行を認められた。片発停止の場合も安全な飛行が続けられるというわけである。このためMD902は、エンジンをPW206B(650shp)から206E(676shp)に換装して出力を上げ、トランスミッションを強化した。ほかに計器ディスプレイ・システムや、エンジン・コンパートメントの消火機構も改善された。飛行性能に関しても航続距離が520kmから560kmへ伸び、速度は3kt増の135ktとなった。また燃料系統を改め、106リッターの補助燃料タンクが追加搭載できるようにもなっている。
ベル社はモデル609ティルトローター機の受注数について、現在までに36社から61機を受注したと発表した。本機は1996年11月に開発計画が発表され、昨年2月のHAI大会から注文を取りはじめたもので、61機というのはこの1年間の営業活動の成果である。
途中、昨年6月のパリ航空ショーでは29機の受注が発表され、9月のNBAAビジネス航空ショーでは40機余りと発表されていた。したがって、この受注数は順調に伸びてきたといってよく、新しい発注者の中にはゴルファーのグレッグ・ノーマンも含まれる。
また今回、HAI大会の会場では英ブリストウ・ヘリコプター社の2機発注が発表され、参会者の前で両社調印の握手が交わされた。ブリストウは、このティルトローター機を北海の石油開発に使うことにしている。同じように海底油田の開発に使う目的で発注しているのはカナディアン・ヘリコプター社やノルウェーのヘリコプター・サービス社などがあり、いずれも2機を発注している。また米ペトロリアム・ヘリコプター(PHI)も1機を発注した。
このようにティルトローター機にとって石油開発市場が有望なのは、長航続の飛行性能にある。乗客数はわずか9人でも、洋上遠くまで飛べる点がヘリコプター会社にとっても魅力のあるところ。北海の石油開発に大型機が多いのも、搭載可能な人数が多いからというよりも、実は航続距離が長いからであった。しかもティルトローター機はどんな大型ヘリコプターでもかなわない高速飛行ができることはいうまでもない。
この高速・長航続の飛行性能を考えるならば、同機はビジネス機、捜索救難機、救急搬送機としても希望をもってよいであろう。その一方で定期路線を飛ぶコミューター機にもなり得る。
モデル609の飛行性能は乗員2人のほかに最大9人の乗客をのせ、500km/hの巡航速度で航続距離が1,400km。補助燃料タンクをつければ1,850kmを飛ぶことができる。パイロットと燃料を含む有効搭載量は2,500kg。全天候性能をもち、氷結気象状態でも飛行可能。
今後の開発日程は、原型4機が製作され、1999年末に初飛行、24か月後に量産機の引渡しに入るという。1機当たりの価格は800〜1,000万ドルである。
なお軍用型ティルトローター機、V-22オスプレイはボーイング社との共同開発が続くことになっており、1999年から量産機の引渡しがはじまる。
ベル社の話題はもう一つ、モデル427軽双発タービン機が昨年12月11日に初飛行した。以来2か月間で20時間の試験飛行をして、最大277km/hの速度を記録している。同機はモデル407を基本として胴体を33cm引き延ばし、PW206Dターボシャフト(600shp)2基を装備したもの。エンジンの双発化に伴い、トランスミッションも新しい設計になった。
今回は飛行がはじまったばかりで、モックアップしか展示されなかったが、機内はパイロット1人のほか乗客7人の搭乗が可能。左右3人ずつの座席を向かい合わせてもいいし、全席前向きに取りつけることもできる。また救急機として患者搬送用のリッターを2台まで搭載できる。
主ローターはOH-58Dを基本とする407と同じ構造で、複合材製の4枚ブレード。ハブも複合材製のフレックスビーム・ヨークとエラストメリック・ベアリングから成り、潤滑不要。今後の開発日程は今年6月から2機の前量産型を加え、年末までに1,000時間の試験飛行を経て型式証明を取り、99年初めから量産機の引渡しに入る予定。最近までの受注数は75機を越えた。基本価格は199万ドルである。
ベル社は、この2年ほどの間にモデル430双発機と407単発機の開発を完成した。いずれも1996年から引渡しに入ったもので、それに427を加えた3機種の主要データは表1の通りである。
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407 |
427 |
730 |
乗員+乗客 エンジン エンジン離陸出力 機内搭載時総重量 機外搭載時 総重量 有効搭載量 燃料搭載量 最大速度 巡航速度 航続距離 実用上昇限度 ホバ地面効果内 ホバ地面効果外 |
1+6人 250-C47B 813shp×1 2,268kg 2,495kg 1,170kg 126gal 259km/h 237km/h 577km 6,096m 3,688m 3,170m |
1+7人 PW206D 600shp×2 2,722kg ―― 1,141kg 190gal 250km/h 240km/h 663km ―― 4,938m 4,237m |
1+9人 250-C40 808shp×2 4,082kg 4,218kg 1,685kg 295gal 277km/h 257km/h 607km 5,760m 4,175m 2,438m
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これらの新しい機材に加えて、ベル社はさらに新機種の開発を検討中。ひとつは現用412の後継機となる中型双発機で、412よりも速度がはやく、航続距離が長く、競合機種に負けない経済性を有するというもの。おそらくは後にご紹介するEC155への対抗を意識したものとなろう。
もうひとつは206Bの後継機となる小型単発機で、206の発達型とするか、全く新しい機種とするかを検討中。いずれにしてもエンジンとトランスミッションの出力を上げ、主ローター機構を改善し、尾部ローターにフェネストロンのような構造を採用するという。ここでMDヘリコプターの買い取りが決まれば、ノーター機構の採用があるかもしれない。
また、この小型機は複合材を多用することになるもよう。構造が簡単で、信頼性が高く、費用のかからない経済的なヘリコプターを実現させ、後述するユーロコプターEC120Bの出現を迎え撃つのがベル社の目的である。これら新しい2機種の詳細は半年後に公表予定というから、たぶん今年9月のファーンボロ航空ショーで発表されるであろう。
なおベル・ヘリコプターの1997年中の引渡し数は新製機が320機であった。
ベル社に次いで、1997年中に210機のヘリコプター新製機を引渡し、18億7,000万ドルの売上げを上げたのがユーロコプター社である。受注数はさらに伸びて総数315機、25億2,000万ドルに相当する。これは前年比14%増に当たるらしい。
ユーロコプター社の計画の中で今回、最も注目を集めたのがEC155の登場であった。昨年6月のパリ航空ショーでAS365N4として公開されると同時に初飛行したものだが、ここで呼び名が改められた。HAI大会では、ユーロコプター社の展示会場中央に実物大のモックアップが飾られ、初日正午に除幕式がおこなわれた。集まった人びとにはシャンペンが振る舞われたものである。
EC155の特徴は、現用ドーファンN2の経済性、N3の高性能に対して、旅客輸送機としての快適性をねらったものという。そのためキャビンを大きくして機内容積を4割増とし、要人輸送のためにはパイロット1〜2人のほかに乗客5〜8人がゆったりと乗り、旅客輸送のためには最大12人の搭載が可能。これはS-76と同数で、明らかに同機との競合をねらっており、基本価格もS-76を意識して、550万ドルと設定している。
また防災機としてはベンチ・シートにして13人の搭乗ができるし、医師や救命士2人のほかに最大6人分の担架搭載が可能。総重量は4,800kg、自重は2,583kgである。
エンジンはチュルボメカ・アリエル2C1(851shp)が2基。これに最新のFADEC(完全自動ディジタル・エンジン・コントロール装置)がつき、N2やN3に対して出力が増え、速度が増した。最大速度は281km/h、巡航速度は260km/hだが、これを252km/hまで落としたときの航続距離は890kmになる。
さらに主ローターが5枚ブレードに増え、振動が減って、乗り心地が改善された。尾部には10枚のブレードが非対称的に植え付けられたフェネストロンを装備、安全性を上げると同時に騒音を減らしている。加えてローター回転数を自動的に減らす機構を持ち、騒音のいっそうの軽減をはかった。機首は長く伸びて、内部に電子機器を集中搭載する。
こうしたEC155は今年末までに型式証明を取り、1999年初めから量産機の引渡しに入る予定。すでにノルウェーのヘリコプター・サービス社から確定6機、仮6機の注文を受け、ドイツ国境警備隊からも軽輸送用ヘリコプター(LTH)として13機を受注した。2002年までに全機引渡される。
項 目 |
数 値 |
主ローター直径 全長 胴体長 全高 エンジン 片発緊急出力 離陸出力 最大連続出力 最大離陸重量 高速巡航速度 経済巡航速度 航続距離 |
12.60m 14.30m 12.73m 4.35m アリエル2C1 977shp 851shp 800shp 4,800kg 268km/h 260km/h 890km
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ユーロコプター機は、EC120Bも新しい。今年から量産機の引渡しに入ったもので、1号機は1月末、野崎産業に引渡された。会場にはその機体が社名入りで展示されたが、間もなく日本に輸入され、各地でデモ飛行に入る予定。最近までの受注数は100機に達し、1998年は30〜35機を生産、ベル206の市場蚕食を狙っている。基本価格は785,000ドル。
もうひとつのEC135は昨年末までの受注数が115機に達した。この中にもドイツ国境警備隊向けの9機が含まれ、計器飛行も可能で連絡と監視に使われる。EC135はすでに日本でも飛んでいるが、同機はカテゴリーAの飛行能力をもつ。
なお、これら3機種に共通するのは、いずれも尾部にフェネストロンを有し、騒音が小さいことである。
ところで、EC120,EC135ときて、EC155へ飛ぶのは何故か。当然EC145があるはずだが、これがBK117の後継機になるらしい。詳細は不明だが、BK117の発達型として来年初めにも計画が公表されるもよう。
欧州勢ではイタリアのアグスタ社がA109Eパワーを展示した。展示された機体の特徴は完全なグラス・コクピットになっていることで、最新の電子機器を搭載、正面の計器パネルには4面の表示スクリーンがついている。
また同機の横には同じA109の救急装備をしたキャビン・モックアップが置いてあった。今やアグスタ社はA109パワーの救急市場開拓に力を入れているもようで、同機の小型、軽量、高速という特徴に加えて、ここに展示された「ライフセイバー・インテリア」を売り出している。この新しい救急内装をもったA109は、先ずスペインのスレステ・ヘリコプター社から3機を受注、すでに1機が引渡された。
A109はさらに、アナハイム・スタジアムの駐車場で試乗会をおこない、筆者も乗せてもらうことができた。先のMD600Nのような勇ましい飛行ではなかったが、高速、快適な飛行を体験することができた。なおA109パワーは1996年5月の型式証明取得以来、最近までに40機の注文を受けている。
もうひとつ、アグスタ社ではA119コアラ単発機の開発作業がつづいている。原型機は2年前の95年2月、チュルボメカ・アリエル・エンジンを装備して初飛行したが、2号機と量産型はPT6B-37を装備している。全機合わせて約300時間の飛行をしており、今年7月には型式証明を取って、9月から引渡し開始に入る予定。
その特徴はA109の胴体を使っていて、単発機としては機内が広いこと。競合機の3割増というのがアグスタ社の主張である。最大巡航速度は260km/h、航続距離630kmで、パイロット1人のほかに7人の搭乗が可能。最近までの受注数は20機という。
アグスタと英ウェストランド社とが共同で開発したEH-101は、英伊両国軍に加えて、最近カナダ政府から15機の注文を獲得、軍用機としての受注数は100機近くなった。すでに両社の量産体制も確立され、カナダ軍向けの15機は2000年に引渡しがはじまり、2002年に終了の予定。
民間機としては東京警視庁が1機を発注、間もなく日本へ入ってくる。加えてメーカーとしては北海の石油開発市場をねらっており、長距離の輸送能力を上げるために今の最大離陸重量14,600kgを15,500kgまで1トン近く増やすことを検討中。すでにイタリア国内では重量を上げたデモ飛行がおこなわれ、ヘリコプター会社の関心を惹いた。
こうした動きは、まさしく先のティルトローター機のところで述べたようにヘリコプターの航続性能が問題であることを示している。とすれば、意外にも大型ヘリコプターとティルトローター機の競争がはじまるかもしれない。
なおEH-101の民間向け基本価格は1,800万ドルである。
シコルスキー社からはS-92の話題が出てきた。同機について、シコルスキー社はこれまで多くを語らず、そのため果たしてうまくゆくのかという疑問を発する向きもあった。だが、これからはもっと積極的に説明し、本格的な営業活動に乗り出すらしい。すでに40社の顧客と話をしており、近くその結果を発表するという。
S-92は5機の原型機を製作する計画だが、すでに2機が完成した。1号機は4月にウェストパーム・ビーチへ送り出され地上試験機となる。2号機は今年末に初飛行の予定。
旅客は19〜22人乗り。この大きさは、いうまでもなくAS332スーパーピューマに対抗するものだが、シコルスキー社は「同級機にくらべて整備費も運航費も安くする」ことを約束している。
総重量は11,430〜12,000kg。機体には複合材が多用され、機内は旅客機なみの内装を持つ。したがって用途は旅客輸送が主目的だが、ほかに石油開発のための人員輸送、要人輸送、捜索救難、救急などに使える。また貨物輸送機としてはLD-3コンテナ3個の搭載が可能。
巡航速度は287km/h、航続距離740km。エンジンはGE CT7が2基。原型機は最初の2機にCT7-6Dが取りつけられるが、次の3機はCT7-8を装備する。装備内容は民間型と国際軍用型の2種類があり、民間型は2000年に型式証明を取って、2001年から引渡しに入る予定。
このS-92の基本になっているのは現用ブラックホークとシーホークで、これらの軍用機はこれまで400万時間以上の飛行実績を重ねている。
機体価格は1999年の物価水準で1,250〜1,300万ドル。シコルスキー社としては顧客の価格または運航費の望ましい要求水準に合わせて決めたものであるという。
この開発には日本からも三菱重工が参加、主キャビンの開発と製作にあたっている。ほかに中国のCATIC、台湾エアロスペース、ブラジル・エムブラエル社、スペイン・カメサ社などが参加している。生産計画は2001年に6機、ピーク時には年間48機を製造し、最終的に700機をつくるという目標。
シコルスキー社はまたS-76C+について重要な顧客から1機を受注したと発表した。受注先は英国王室で、女王の乗用機となる。運航はエア・ハンソン社に委託されるが、操縦は王室雇用のパイロットがおこなう。運航開始は今年末だが、それまでのつなぎとして4月からS-76Bの臨時運航がはじまる。英王室の現用ヘリコプターは2機のウェストランド・ウェセックスで、1969年から30年近く使われてきた。この2機を1機のS-76に取り替えることで、180万ポンドの節約になるという。
ところで、本稿を書き終わった直後、大きなニュースが飛びこんできた。HAI大会の1週間後、2月24日からシンガポール航空ショーがはじまったが、その会場でベル社が二つの発表をしたのである。
ひとつはMD500とMD600の製造権ならびにノーター技術を買い取ることになったというもの。これでベル社は民間ヘリコプター工業界における絶対の地歩を固めることになる。具体的にはMD500E、520N、530F、600Nの製造をベル・カナダ社へ移してつづけることになるもよう。加えてノーター技術がベル社の手に入ることになり、これでヘリコプターの騒音軽減をはかることができるとしている。
ただしMD900については買い取らず、ボーイング社としては新たな買い手を探すもよう。
もうひとつのニュースは日本の三井物産が609ティルトローター機を3機発注したというもの。この発注は、すでにHAI大会の時点では決まっていたらしく、したがって受注数の61機は変わらない。発注企業36社のうち社名未公表の中に三井が入っていたのである。いよいよ日本にもティルトローター機の登場することが現実味を帯びてきた。
ロータークラフト世界の今後の拡大が楽しみである。
(西川渉、『航空情報』98年5月号掲載)