ヘリコプター最近の話題

 

 今年の国際ヘリコプター協会(HAI)年次大会は2月21日から23日までの3日間、テキサス州ダラスのコンベンション・センターで開催された。その屋上には、世界唯一のヴァーティポートがあり、背後にはダラス市街地の高層ビルが建築技術の粋をこらして建ち並ぶ。そうした超近代的な景観の中、HAIの会期中には多数のヘリコプターが、ベルXV-15ティルトローター実験機も含めて、デモ飛行と試乗飛行をおこなった。

 階下のコンベンション会場では、最新のヘリコプターが展示され、さまざまな関連技術を併せて妍を競い合った。その中から、いくつかの話題を、ここにご紹介したい。

ヘリコプター界のフォード

 話題のひとつはロビンソン・ヘリコプター社の快挙である。同社のR22小型機は今年、型式証明の取得20周年を迎えたが、それよりも昨年の同社生産数がベルやユーロコプターなどの大手メーカーを抜いてしまったのである。

 2人乗りの小型ピストン・ヘリコプターR22が型式証明を交付されたのは1979年3月。以来最近までの生産機数は2,900機を超えた。また4人乗りのR44は1992年に型式証明を取り、最近までに約500機が引渡された。

 この両機の昨年の引渡し数は、R22が117機、R44が134機で、合計251機。他方ユーロコプター社の生産数は好調のEC135を中心に216機、ベル社のそれは人気の高い407軽単発機など205機であった。これで金額面ではともかく、機数では「世界最大のヘリコプター・メーカー」といえるかもしれない。

 注目すべきは、R44の引渡し数がR22を上回ったことであろう。2人乗りR22の用途が操縦練習と個人的な自家用機に限られていたのに対し、4人乗りのR44は警察パトロール、報道取材、ビジネス利用など、多用途に使うことができる。それでいて機体価格は50万ドル。ジェットレンジャーの半分程度で、飛行性能は速度を含めて、遜色がない。つまり安くて性能の良いヘリコプターならば使いたい人は多いはずで、そうした潜在需要を引き出した点、フランク・ロビンソン社長の慧眼には脱帽せざるを得ない。

 おまけに今後、R44はターボチャージャーをつけて高温高地性能を引き上げたり、操縦系統に油圧装置をつけたり、緊急用フロートも装着できるようにするというから、ますます伸びる可能性が出てくるにちがいない。今やフランク・ロビンソンは、かつて自動車を大衆のものにしたヘンリー・フォードにもたとえられるようになった。

MDヘリコプター社の誕生 

 もう一つの話題は、MDヘリコプター社の誕生である。発端となったヒューズ・ヘリコプター社は1950年代なかば、これも2人乗りのモデル300小型ヘリコプターを売り出し、軽観測用ヘリコプターLOHの開発競争に勝ってOH-6(モデル500)に発展したが、1983年モデル300の製造権をシュワイザー社に譲り、84年には本体もマクダネル・ダグラス社の傘下に入った。

 のちに親会社と共にボーイング社に買収され、昨年初めにはベル社へ譲渡されることになった。しかし独占禁止法に触れるというので、今年初め改めてボーイング社からオランダのRDM社へ売り渡されたのである。そのためRDMは米国内に新しいMDヘリコプター社を設立、MD520N、MD600、MD902エクスプローラーといった3種類のノーター機と、MD500Eおよび530Fをこれまで同様アリゾナ州メサの工場で製造することになった。ただし、今後1年以内に新しい場所へ工場を移す予定という。

 これでMDヘリコプターの製造・販売権は新会社のものになるが、今年の製造目標は、昨年実績の36機に対して50機を掲げている。また販売力を高めるために、新会社はMDエクスプローラーの基本価格を50万ドル引き下げ、300万ドル程度にすると発表した。

 なお、ノーター機構に関する特許権は今後もボーイング社が保有し、MDヘリコプター社は特許料を払って使用する。またノーター・ヘリコプターは1991年の実用化以来、これまで3機種合わせて15万時間以上を飛んでいるが、ノーター機構に起因する事故は1件も起こしていないという。

S-92とファイヤホーク

 シコルスキーS-92も、実機の展示はなかったけれども、原型機が昨年12月23日に初飛行したことはご承知の通り。HAI大会までの2か月間に最大速度287km/hで飛び、148km/hのオートローテイションも経験している。その背景にあるのは400万時間に及ぶブラックホークの飛行実績で、トランスミッションやギアボックスは改良されて、出力吸収能力が21%大きくなっている。機内は「ヘリバス」の愛称が示すように旅客輸送が基本仕様で、HAI大会に展示されたモックアップは乗客20人乗りのキャビンであった。

 今後は原型5機で1,400時間の試験飛行をしたのち、2001年末から引渡しに入る。機体価格は1,250万ドル。正式発注はまだない。

 HAI大会では、これも旅客輸送用のキャビンをもったS-76C+が展示された。香港の亜太航空向けの機体で、同航空は香港〜マカオ間で3機のS-76による定期旅客便を運航している。

 またシコルスキー社からはHAI大会後、ロサンゼルス・カウンティ消防局がファイヤホークの購入を決めたと伝えられた。同機は米陸軍のUH-60ブラックホークを基本として消防用に改造したもの。機体下面に3.7トン入りの水タンクを取りつけ、火災現場の上から放水し、消火に当たる。

 ロサンゼルス・カウンティは昨年夏、このファイヤホークを借りて試験運用をしたが、その結果3機を購入することになった。用途は山林火災ばかりでなく、市街地の火災にも使用するという。

K-MAXにIFR装備

 将来に向かってはカマン社からも新しい提案が出ている。それはK-MAXで石油掘削リグや船舶へ貨物輸送をするため、同機にIFR装備をつける。乗員1人乗りの物輸機で計器飛行をするという特異なアイディアである。背景にあるのは昨年、米海軍でおこなわれた艦船への空輸テストで、飛行時間は680時間に及びながら、整備のための地上作業時間は1飛行時間あたり1.9マンアワーしか要しなかった。この中には毎日のエンジン洗浄、ブレードの折りたたみ、格納庫への搬入作業なども含まれる。

 さらにカマン社は米海軍に対してK-MAXの無人化も提案中。洋上でのリモート・コントロールによって機雷掃海に使うというのである。

 なお物輸機としてのK-MAXは最大2.7トンの吊り上げ能力を持ち、日本でも2機が飛んでいる。4年前の実用化いらい生産数は26機。同じ量の物資輸送をするならば、他のどの機種よりもコストが安いという特徴を持っている。

ベル427とA119コアラ

 ベル427とアグスタA119コアラは、どちらもHAI大会としては初めて実機が展示された。

 427軽双発機はかねて韓国との共同開発を進めてきたもの。このHAI大会で初号機引渡しのセレモニーをおこなう予定だったが、新しい技術がいくつか採り入れられ、膨大な書類手続きがあったりして、型式証明の取得が遅れ、引渡し開始は5月に延期された。

 しかしベル社は、427の実機を展示すると共に、別の1機でコンベンション・センター屋上から試乗会を催した。これまでの受注数は85機以上で、同級機よりも価格が安い。エンジンはPW207D(710shp)が2基。ちなみに427の前身となった単発型407も人気が高く、1996年初めの引渡し開始以来3年間に350機をこえる注文を取り、300機を引渡している。

 一方、8人乗りのA119コアラは黄色い塗装の実機が展示された。これも5月に型式証明を取る予定。エンジンはPT6B-37(1,002shp)が1基で、単発機としては世界最速の飛行性能を持つ。また同級機の中では最もキャビンが広いというのがメーカー側の主張である。米国での公開はこの大会が初めてで、値段は185万ドル。これまでに20機以上の注文を受けている。

 この両機がそろって5月に型式証明を取得できる見こみといっても、別に時期をそろえたわけではないだろう。が、両社は昨年モデル609ティルトローターとAB139の共同開発のために合弁会社を設立している。

 609はまさに、ダラス・ヴァーティポートでデモ飛行を見せたXV-15と同程度の大きさで、乗客9人乗り。PT6C-67Aエンジン(1,940shp)2基を装備して2000年末に初飛行、2002年から実用になる。最近までの受注数は約70機。なおティルトローター機は軍用向けV-22オスプレイが1989年3月19日の初飛行から丁度10年目を迎えた。この夏にはいよいよ量産機の引渡しが始まる。

 アグスタ側のAB139は、まだ詳細が公表されていないが、A129軍用機のトランスミッションを中心に、PT6C-67Cターボシャフト(1,850shp)2基を装備、主ローターは5枚ブレード、尾部ローターは4枚ブレードになる。機内は広くて、邪魔な突出部分がなく、乗客15人または救急用のストレッチャー6人分の搭載が可能。降着装置は3車輪式の引込み脚。最大巡航速度は300km/hに近い。

 こうした仕様で見る限り、AB139はベル社の現用412にくらべて機体もエンジンも少しずつ大きい。にもかかわらず価格は412より安いというから、412の前途はどうなるのか。ベル社の方にも412プラスと呼ぶ後継機の開発構想があるようだが。 

 なおアグスタ社はベル社と手をつなぐ一方、英ウェストランド社との合併計画も進めつつあり、3社の関係は微妙になってきた。これでアグスタ社は将来に向かってベル、ユーロコプターと並ぶ世界3大ヘリコプター・メーカーの一つになることをめざしている。

EC120とEC135

 ユーロコプター機は、このHAI大会でEC120がちょっとした仕掛けで記者団を驚かせた。会見室に大勢の報道陣を集めておいて窓のカーテンを開けたところ、外側でEC120がエンジンの地上運転をしていたのである。カーテンを開けるまでは誰も気づかなかったというから、静けさの程度も想像できよう。最大離陸重量での離陸時の騒音は78.7デシベルである。

 EC120は1997年6月に型式証明を取得、売れゆきも好調で、米国でもベル407の対抗馬として7機がメキシコ湾の石油開発に使われ、HAI大会ではサンバーナディノ警察へ1機が引渡された。視界が広く、高速で、快適な乗り心地が利用者の評判を呼んでいる。

 同様にEC135もよく売れている。とりわけ救急専用機として利用が多く、欧州諸国はもとより、米国でも数が増えてきた。最大離陸重量で離陸するときの騒音は80.2デシベル。同級機より10デシベルほど少ないという。

 今年からはAS365N3の発達型、EC155も登場する。HAI大会では実機がなかったが、乗客12人乗りの同機は3月から引渡しがはじまった。アリエル2C1エンジン2基で、新しいスフェリフレックス機構をもつ5枚ブレードの主ローターと改良型のフェネストロンを駆動する。操縦系統にはGPSを基本とする4軸のオートパイロットがつき、13機を発注しているドイツ国境警備隊は暗視ゴーグル、赤外線カメラ、サーチライト、防氷装置、レスキューウィンチなどを装備して警備に当たる。将来はシコルスキーS-76+に対抗して、石油開発などの人員輸送市場をめざしている。

 ほかにも意欲満々のユーロコプター社にはBK117の後継機となるEC145や、S-92に対抗するスーパーピューマVといった構想がある。そして米国製ティルトローターがいよいよ実現するのに刺激されたか、新たなティルトローター機の研究にも取組む姿勢を見せはじめた。

 ロータークラフトの世界はますます大きく広がろうとしている。 

 (西川渉、『航空情報』99年6月号掲載)

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