Disaster Releaf by Helicopter

and Japanese Air Law

Wataru Nishikawa

Regional Airlines Institute Corporation

 

Helicopter is one of the best means on the occasion of a great disaster includg earthquake, fire, flood, and so on. Especially in Japan it was fully realized during Hanshin Great Earthquake.

However, at this time after 3 years have passed from that disaster, helicopter dispatching system in case of emergency has not yet established in Japan. Only the number of helicopters has increased, and many committees and council established in the governmental organization have discussed and performed in vain an examination, research, experiment, report and so on. Also during this 3 years, there is no house fire which was extinguished by a helicopter, and some rescue transportation which was just performed as a kind of special case in isolated islands.

There may be various reasons for this situation. It is frequently said that Japanese air law is too restrictive for the helicopter to perform such an activity in disaster area. For example, helicopters are prohibited by the article 79 of air law to take-off and land outside the airfields. But, has the law to be observed even in the emergency which seems to be related to life and death of people?

In fact, the air law itself has an exemption article 81-2 which stipulates "the special case for a search and rescue". In other words, the provision of prohibiting to take-off and land outside the airfields "is not applied for the operation for search and rescue on the occasion of a disaster at sea and other accidents". In this article, the aircraft recognized for exemption are "the aircraft of the Ministry of Transport, the Defense Agency, the Police Agency, and police and fire department of local governments that are performing duties of search and rescue".

Therefore, if this provision is applied, the helicopter can be active freely for any disaster. At the present time, such a operation is performed as a special case approved each time.

The helicopter for disaster prevention, however, should not be dealt as a special case or an extraordinary approval, but as an usual case and routine work for the life saving, fire fighting and crime prevention, which lead to the true prevention of great disasters.

 A disaster does not come over merely forget definitely.

(Wataru Nishikawa, April 21, 1998, at Heli Japan 98)

 


ヘリコプター防災と航空法規

 

 地震、火災、洪水、山崩れ、交通事故など、大災害の発生に際して、ヘリコプターは最も有効かつ適切な対応手段の一つである。このことは先の阪神大震災で深く痛感させられたものだった。

 ところが、あれから早くも3年を経過して、日本では未だヘリコプターの災害出動体制が確立されていない。防災のためのヘリコプターは機数だけが増え、中央省庁や自治体ではこの3年間さまざまな委員会や審議会が設置され、数々の論議、検討、研究、実験、報告などがおこなわれた。しかし今日まで、ヘリコプターで消し止められた家屋火災は1件もなく、急患搬送は一種の特例として、わずかな離島でおこなわれているに過ぎない。

 これにはさまざまな理由や事情があろう。しばしば言われることは日本の航空法規がきびしく、ヘリコプターの運航に制約が多すぎるということである。たとえば被災地や交通事故の現場に着陸しようにも、飛行場外の離着陸は航空法第79条によって禁止されているという。もしもそうであるとすれば、人命救助が人為的な法律によって阻まれることになるが、果たしてそうだろうか。改めて航空法規を見直し、改めるべき点は何であるかを考えてみたい。

 

航空法の目的

 航空法の目的は何か。第1条(この法律の目的)には「この法律は……航空機の航行の安全および……航空機を運航して営む事業の秩序を確立し、もって航空の発達を図ることを目的とする」と書かれている。すなわち航空法の目的は「航空の発達」にほかならない。

 そこで目的を達成するには、運航の安全と事業の秩序、ひいては業界の秩序といった条件が必要というわけである。ここで「業界の秩序」と言い換えるのは、たとえば航空法第105条(運賃および料金の認可)に、認可基準のひとつとして「他の航空運送事業者との間に、不当な競争をひき起こすこととなるおそれがないものであること」といった規定が定められているからである。

 たしかに、この法律が施行された昭和27年当時は安全と秩序という二つの条件によって航空の発達が望み得たのかもしれない。しかし時代の変遷にともなって、規制緩和や市場開放が必要になってきた現在、この二つの条件が満たされただけで、航空の発達が実現するとは思えない。業界の秩序はむしろ邪魔な規定とすらいえる状況になってきたのではないか。秩序よりも競争が求められる時代に入ったのである。

 したがって現在、ここには「事業の秩序」という文言を残すか除くかは別として、利用者の便益に関する規定を加えるべきではないだろうか。いかに安全と秩序が保たれていても、利用者がいなければ発達はないであろう。むしろ第1条の法文から「航空の発達」という言葉を取り除いて「利用者の便益」という言葉に置き換えた方がいいかもしれない。

 ここでいう「利用者」とは、単に旅客機の乗客ばかりではない。小型航空機を利用して写真撮影をするカメラマンや、ヘリコプターの農薬散布を利用する農家、宣伝放送を依頼する商店も入る。そして当然のことながら、ヘリコプター救急の対象となる救急患者も含まれる。

 何もそこまでこだわる必要はないかもしれぬが、航空法はもとより、航空機も航空会社も航空界も、定期便の利用者だけが航空の対象であるかのような錯覚に陥っているからである。そのことが阪神大震災の悲劇を招いたといっても言い過ぎではあるまい。

 

航空機の運用主体

 ヘリコプター防災を考える上で、航空法上の基本的な問題となるのは航空機の運用主体が誰かということである。

 運用主体が国または地方自治体の公的機関であれば、法規上の規制や制約も比較的少ない。けれども民間事業会社がおこなう場合は、さまざまな規制がかけられる。それならば防災は公的機関だけにまかせておけばいいではないかという論議が出てくるかもしれない。けれども阪神大震災の実情から見て、それだけでは不充分であることがはっきりしている。普段から官民一体となった体制づくりができていなければならない。

 そこで大災害に際して考えられる航空機の運用主体は次の4種類となる。

  @消防、警察、海上保安庁、自衛隊などの公的機関

  A航空会社

  B病院、アシスタンス会社等

  C自家用機(ボランティア)

 @は、市町村の消防機関の運用する航空機、都道府県の防災ヘリコプターおよび警察ヘリコプター、そして海上保安庁や自衛隊などの国家機関がおこなう防災活動業務で、この場合は法規上適用される条項も比較的少ない。

 Aは、民間ヘリコプター会社や航空会社が自らの航空機を使用して、救急搬送や緊急物資の輸送などを有償でおこなう場合に当たる。また病院所有機などの運航委託を受ける場合もこれに当たり、航空法上の事業とみなされ、事業免許がなければならない。

 Bは、病院やアシスタンス会社が自ら航空機を保有し、パイロットや整備士などの航空従事者を雇用して運用する場合である。これを航空事業とみなすかどうかは未だ実例がないが、一種の事業として有償でおこなう場合は、事業免許が問題になろう。

 Cは、自家用機の保有者がボランティア活動として航空機を飛ばす場合である。無償ならば法規上の制約も比較的少なくてすむであろう。

 

航空事業免許

 上のような運用主体の違いによって最大の問題となるのは事業免許である。防災業務という現実から定期航空運送事業の免許はさておき、航空法第121条(不定期航空運送事業)には「不定期航空運送事業を経営しようとする者は、運輸大臣の免許を受けなければならない」とあり、航空法第123条(航空機使用事業)には「航空機使用事業を経営しようとする者は、運輸大臣の免許を受けなければならない」と定められている。したがって、こうした免許を受けずに有償で航空機を飛ばすと、いわゆる「白タク」とみなされ、航空法違反に問われる。

 そこで航空機の運用主体が前項Cのような自家用機のオーナーであって、たとえば「被災地から病院まで、お金はいくらでも出すから怪我人を運んでもらいたい」と頼まれても、事業免許がない限り有償で搬送することはできない。

 前項Bの病院やアシスタンス会社も、自らの航空機を飛ばす場合に事業免許が必要かどうか、法規上の解釈について事前に充分な調整をしておく必要があろう。そして前項Aのように航空会社が主体となる場合、当然に事業免許を持っていても、いざ実行となると飛行経路や離着陸場の問題など、きわめて煩雑な手続きを取らなければならない。したがって緊急事態にはほとんど対処できない恐れが出てくる。事実、阪神大震災では患者搬送の依頼を断った事例も少なくなかった。

 というのは、航空法の解釈の上で、患者搬送を不定期旅客輸送とみなすかどうかである。もしも不定期旅客輸送ならば、事業免許の取得はもとより、事業計画、運航規程および整備規程、運賃および料金、運送約款といった基本体制についてあらかじめ認可を受けておき、しかる後に路線ごとの免許を受けなければならない。そうなると膨大な時間と手間がかかって、とうてい緊急事態には間に合わないからである。

 最近は、以上のような航空法規にもかかわらず、航空事業の規制緩和を推進するという意味から、路線ごとの需給調整を取りやめ、新しい航空会社の新規参入を認める動きが運輸省に出てきた。こうした新しい運輸政策によって普段の定期航空の利用者の便益をはかるのは、もとより重要だが、一方で人命救助にかかわる規制こそ優先的に緩和し、問題解決をはかる必要があろう。

 

飛行場外の離着陸

 災害出動をする航空機にとって、もうひとつ大きな問題は航空法第79条(離着陸の場所)である。それには「航空機(運輸省令で定める航空機を除く)は、陸上にあっては飛行場以外の場所において、水上にあっては運輸省令で定める場所において、離陸し、または着陸してはならない。但し、運輸大臣の許可を受けた場合は、この限りでない」と定められている。

 すなわち、わが国では航空機は、運輸省令で定める滑空機を除いては、飛行場以外の場所で離着陸してはならない。そのため飛行場以外の場所に着陸しようとするときは、上の但し書きによって運輸大臣の許可を取ることとなる。

 この場外離着陸の許可を受けようとする者は、事前に当該地の現場調査をおこない、航空法施行規則第172条の2にもとづき、次のような事項を記載して「飛行場外離着陸許可申請書」を運輸大臣に提出する。提出から許可までの審査期間は、通常1〜2週間である。

 @氏名および住所

 A航空機の型式並びに航空機の国籍及び登録記号

 B離陸し、または着陸する日時および場所(当該場所の略図を添付すること)

 C離陸し、または着陸する理由

 D事故を防止するための措置

 E飛行計画の概要(飛行の目的、日時および経路を明記すること)

 F操縦者の氏名および資格

 Gその他参考となる事項

 また、許可は原則として着陸の1回ごとに受けることとなっているが、場合によっては2週間とか1か月間の許可が出ることもあり、さらに実績を重ねて半年間の継続許可を得られることもある。

 阪神大震災で真っ先に問題となったのがこの場外離着陸の手続きであった。ヘリコプターが救出活動をしようにも、法律違反を覚悟しなければ、被災地の現場に着陸できない。結局、ヘリコプターで救出された被災者はきわめて少なく、初日1人、2日目6人、3日目10人だけであった。一方で約5,000人の人びとが現場で死亡し、最終的に6,300人を越える犠牲者が出たことは周知の通りである。

 こうした事態を受けて、地震発生の当日ヘリコプター運航事業者が運輸省に対し、場外離着陸の特例を認めて貰うよう要請した。結果として数日後には電話やファクスで場外離着陸の申請を受け付けることとし、あとで書類を提出して事後処理をするという便法が講じられることになったが、最初の2〜3日間、八尾空港には日本中から多数のヘリコプターが集結したながらほとんど現場活動ができないままで日を過ごすことになった。

 むろん安全を無視することはできない。そこで運航の安全を考慮した上で、こういう場合の基本ルールを普段から確立しておくことになり、97年11月1日運輸省は災害時の場外離着陸に関する手続きの方法を改めた。これで緊急時にはファクシミリまたは電話で飛行場外離着陸の申請をして、口頭で許可を受けることができるようになった。

 

救助のための特例

 とはいえ、航空法には救助のための特例が準備されている。それは航空法第81条の2(捜索または救助のための特例)「前3条の規定は、運輸省令で定める航空機が航空機の事故、海難その他の事故に際し捜索又は救助のために行なう航行については、適用しない」というものである。

 ここにいう前3条の規定とは第79条(離着陸の場所)、第80条(飛行の禁止区域)、第81条(最低安全高度)をいう。したがって、81条の2が適用される航空機は、飛行場以外の場所であっても運輸大臣の許可なくして離着陸することができる。また最低安全高度を切って低空飛行をすることも認められる。また必要があれば、化学コンビナートや原子力発電所など飛行禁止区域の上空を飛ぶことも認められる。

 このような特例が認められる航空機は、航空法施行規則第176条によって次のように定められている。

「法第81条の2の運輸省令で定める航空機は、次の通りとする。

 1 運輸省、防衛庁、警察庁、都道府県警察または地方公共団体の消防機関

  の使用する航空機であって捜索または救助を任務とするもの

 2 運輸省の依頼により捜索または救助を行なう航空機」

 第1項は、先に述べた運用主体が@の場合、すなわち市町村の消防機関が運用する航空機、都道府県の防災ヘリコプターおよび警察ヘリコプター、そして海上保安庁や自衛隊などの航空機をいい、これらの航空機が捜索または救助をおこなう場合は、航空法第79条、80条、81条の制約条項が適用されない。したがって救急のために自由に事故現場や被災地に着陸することも可能となる。

 加えて、第2項は、運輸省に依頼された航空機が捜索や救助に当たる場合で、海難事故などで洋上広範囲の捜索をしなければならないようなときは、運輸省の依頼で民間機が捜索に当たったりする。この規定により、阪神大震災では多数の民間ヘリコプターが運輸省の依頼によって被災地へ飛び、特例措置によって飛行した。

 

夜間飛行の是非

 次に夜間飛行の問題がある。これができなくてはヘリコプター救急の効果も半減するという論議があるが、果たしてそうだろうか。

 ドイツの救急ヘリコプターは夜間飛行をしていないが、全国50機のヘリコプターが1機平均で年間1,000回の出動をして、総数5万人の救急患者に対応している。ロンドンの救急ヘリコプターも夜間飛行はしていないが、やはり年間1,000回の緊急飛行をしている。

 これらのヘリコプターが夜間に飛ばないのは、患者のいる現場に着陸するのが原則だからである。交通事故のような場合、ドイツやロンドンではヘリコプターがすぐそばに着陸し、同乗してきた医師が患者のもとへ駆けつけ、その場で緊急治療をおこなう。どこか遠くのヘリポートで待っていて、そこへ救急車で患者が連れてこられるのを待っているわけではないのである。

 そうした原則に立つならば、夜の暗闇の中で多少の照明があるとはいえ、初めての場所に着陸するのは危険が伴う。その危険と救急効果を天秤にかけ、さらに夜間ならば道路も比較的すいているだろうから地上からの救急も現場到着が早くなるだろうという考えから夜間飛行をしないことにしているのである。しかも医師が現場に駆けつける移動手段は大きな救急車とは限らない。もっと高速で小回りのきく小型乗用車やバイクが使われる。そして救急車は先行した医師の現場治療が終わる頃、遅れて到着すればいいのである。

 したがって救急ヘリコプターが夜間飛行をするかしないかは、単に航空法規だけの問題ではない.。夜間飛行をしようと思えば、有視界気象状態であれば、離着陸の場所に適切な照明設備がある限り可能である。

 

計器飛行と航空管制

 次に緊急事態はいつ何時起こるやもしれぬから、防災ヘリコプターは計器飛行ができなければならないという論議も多い。

 気象条件が悪く、視界不良の中で、自機の正確な位置と障害物の有無を確認しながら安全な飛行を続けるのが計器飛行だが、それにはヘリコプター自体に計器飛行装備があり、パイロットが計器飛行の資格もっていれば可能である。航空法もことさらにヘリコプターの計器飛行を禁じているわけではない。

 したがってヘリコプターも法規的、技術的には計器飛行が可能だが、現状では計器飛行のための航行援助施設や空域の設定、ならびに航空管制方式が高空を高速で飛ぶ飛行機を対象として設置されているため、せまい範囲の低空を低速で飛ぶヘリコプターには必ずしも実用的ではない。

 しかし今年からは日本でもGPS(グローバル・ナビゲーション・システム)が補助的な航法計器として使用できるようになった。これを使えば計器航法の実用性も高まるであろう。いずれ近い将来にはGPS利用の本格的な計器飛行方式も確立されるに違いない。

 米国ではすでに、GPSを利用したヘリコプター専用の計器飛行方式が開発されつつあり、一部は救急ヘリコプターに適用され、いくつかの病院では実用化されている。これにより気象条件の良くないときでもヘリポートへの進入着陸が可能となり、患者の救命率が上がったという報告もなされている。

 なお計器飛行と有視界飛行を問わず、防災または救急の任務に当たっている航空機に対しては、航空交通管制上、最優先の通行権が与えられるべきであろう。たとえば通常のコールサインに救急機であることを示す符号をつけ加えて、大型旅客機をホールドさせてでも、優先的に空港に進入できるような飛行方式を明確な規則として制定する必要があるのではないか。

 また大災害に際しては、消防機や救急機の飛行の安全を確保するためにも、被災地上空の飛行規制や航空管制が必要である。その場合、一定空域の飛行規制は直ちにNOTAMをだすと共に、警察機や自衛隊機でおこなう。それもヘリコプターとは限らず、航続時間の長い固定翼機を使うことも考えられる。

 また被災地に近い主基地には、運輸省の移動管制車をもっていって自衛隊機と民間機を一本化した管制をおこなう必要があろう。これらの問題についても、法規上の検討が必要ではないだろうか。

 

消防法規の検討も

 こうして見てくると、災害対策と航空法規との関連は決して充分ではないが、また不充分とばかりもいえない。航空法79条によって飛行場外の離着陸は禁じられているものの、81条の2ではそれを打ち消すような特例措置も講じられている。

 では何故、阪神大震災の現場では、これらの規定がうまく生かされなかったのか。ひとつは咄嗟の判断、臨機応変の対応ができなかったからである。その結果、時間的に数日間の遅れを取り、消防と救急の両面で、ヘリコプターは有効な働きができなかった。

 もうひとつは、消防でも救急でも、ヘリコプターが日常的に使われていなかったからである。わが国では欧米のヘリコプター防災に関する先進国と異なり、都市火災の消火にヘリコプターが使われたことは一度もなく、救急患者の搬送も救急車のような日常的な出場システムはできていない。これらの業務が日常化して、普段から使われていれば、特別な判断力がなくとも、日常業務の延長線として大災害にも対応できたであろう。

 では如何にしてヘリコプター消防やヘリコプター救急を日常化するか。この問題は、すでに航空法規の範囲を越えるので、ここでは触れないが、少なくとも法規上は上に見てきたように、それを阻む規定はないはずである。

 あとは、災害現場において消火と救急の両方を担当する消防当局が、航空法第81条の2を積極的に活用し、消防車や救急車と同じレベルで消防ヘリコプターや防災ヘリコプターを日常的に使いこなしていくことこそ肝要であろう。

 そのためには、航空法に次いで消防法の問題が出てくるかもしれぬが、それも本論の範囲を越える課題である。ただし消防当局みずからヘリコプターの必要性に関する認識を表明していることでもあり、決してできないことではない。

 また民間事業会社が公的機関の補助として防災任務につく場合も、直ちに同じ権限が与えられるようなルールを予め定めておく必要があろう。また救急任務においても、まず日常の救急飛行に民間機を使うとすれば、同じ権限が与えられるべきである。さらに大災害に際して救急任務に民間機を使う場合、全機が同じような活動をするのもいいが、場合によっては両者の任務を分けて、たとえば公的機関の航空機は直接被災現場に着陸するような第1次救急搬送、補助的に使われる民間機は病院間の転送や後方支援基地への長距離輸送など、2次搬送に当たるのがいいかもしれない。

 

日常化こそ重要

 災害は確かに忘れた頃にしかやってこない。けれども、そのための対策は特例や例外や臨時の措置として処理されるべきではない。あらかじめ正規の法規としてルールを定めておき、それにしたがって日頃から応急体制をととのえておく必要があろう。

 特に災害のための飛行は、時間的な余裕がなく、充分な準備もできぬままで発進しなければならないことが多い。被災地の現場では当然のこと、ほとんど何の準備もないところへ着陸しなければならないかもしれない。すなわち緊急飛行は常にぶっつけ本番で飛ばなければならない。それだけに、ますますあらゆる事態を想定した入念な準備と訓練が必要になる。

 阪神大震災の大きな犠牲を忘れることなく、あのときの問題点をひとつひとつ洗い出して、不備なところがあれば航空法規の改正をしてでも、次の災害にそなえて準備をしておく必要があろう。


 以上は、98年4月21〜23日の3日間、岐阜で開催されるヘリコプター技術協会(アメリカン・ヘリコプター協会日本支部、AHS-Japan Chapter)主催の「Heli Japan 98」での講演草稿です。この会合は「ヘリコプターの先進技術と防災」をテーマとする国際会議で、外国人も含めておよそ500人の人びとが出席、100人近い人が登壇して日頃の研究の成果を発表したり、意見を述べたりすることになっています。

 なお本文中、消防法について触れたところがありますが、去る3月25日、自治省消防庁は「消防法施行令」第44条(救急隊の編成および装備の基準)を改正し、「救急隊は、救急自動車および救急隊員3人以上、または回転翼航空機1機および救急隊員2人以上をもって編成しなければならない」として、回転翼航空機という言葉を挿入しました。

 Heli Japan 98では、このあたりの問題についても討議がなされるはずで、こうしたことによって今後、わが国のヘリコプター防災態勢が進展するよう期待したいと思います。

(西川渉、98.4.20)

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