<ヘリヴィア>

らせん翼の着想 

 トリヴィアム(trivium)とは、中世の大学における教養科目のうちの3学科(文法、修辞、論理)をいったらしい。その複数形がトリヴィア(trivia)で、ささいなことや雑情報を意味するとか。ひと頃テレビで、この言葉を題名にして雑学的知識を競い合うクイズ番組がはやったことがある。

 ここでは、そのトリヴィアにヘリコプターをつけて「ヘリヴィア」とし、ヘリコプターのささいな事柄を少しずつ書いてゆくこととする。その元になるのは昨年12月にイカロス出版から刊行されたムック『ヘリワールド――わが国唯一の総合ヘリコプター年鑑2016』に掲載された拙文だが、適宜加筆してゆきたい。

 ヘリコプターの原理を初めて考えたのは、かのレオナルド・ダ・ヴィンチ(1452〜1519年)であった。イタリア・ルネッサンス期の「万能の天才」が残した手稿(メモ)と素描(スケッチ)には「のりづけした布でらせん形の帆のようなものをつくり、円形の台の上に立てた帆柱に取りつけ、それを高速で回転させるならば空中高く昇ってゆくだろう」という考え方が記されている。

 レオナルドはまた、このらせん形をギリシア語で「へリックス」(helix)と呼び、帆布でつくった翼を「プテロン」(pteron)と呼んだ。この2つを合わせた言葉が「ヘリコプター」(helicopter)になる。


レオナルド・ダ・ヴィンチが1500年頃に描いたヘリコプターに関するスケッチとメモ

 それから250年後、ロシアのミハイル・ロモノーソフが1754年、時計のぜんまいで2つのローターが互いに反転する仕組みを考えた。これで回転トルクが打ち消されるわけで、今でいう二重反転式ローターの原理が生まれた。

 さらに100年近くたった1843年「航空学の父」と呼ばれるイギリスの科学者、ジョージ・ケーレイ卿が「空飛ぶ馬車」の模型をつくる。車体の左右に二重反転式のローターを取りつけて垂直に離陸すると、尾部の2つのプロペラによって前進飛行をするというVTOL機だった。


ケーレイ卿の空飛ぶ馬車(aerial carriage)

ヘリコプターの日

 ヘリコプターの原理を考えたレオナルド・ダ・ヴィンチは1452年4月15日、イタリアのヴィンチ村で生まれた。その誕生日を記念して、全日本航空事業連合会(全航連)が1986年に制定したのが「ヘリコプターの日」である。

 当時、朝日航洋の社長で全航連のヘリコプター部会長だった高橋英典氏(故人)から、突然「レオナルド・ダ・ヴィンチの誕生日を調べて欲しい」といわれ、わが家にあった伝記で誕生日を見つけ、翌日その答えをもってゆくと「よし、これをヘリコプターの日にしよう」ということになった。無論それだけで決まるわけではなく、全航連に提案し、理事会で決議されたのである。

 同時にヘリコプター・ショーを開催することになり、全航連加盟の事業会社を初め警察、消防、自家用など多数のヘリコプターが東京ヘリポートに集結、華々しい飛行展示と地上展示を繰り広げた。さらに、それから3年間、毎年4月15日に著名人を招いてヘリコプターに関する記念講演会を開催した。いずれも予想外に沢山の観客を集め、盛況だった。

 今もウェブサイトを探せば「ヘリコプターの日」という言葉は見つかるが、忘れられたようになっているのは残念。本来なら国際的な記念日としてもいいはずで、音頭をとるのはイタリアのフィンメカニカ・ヘリコプター社が適格ではないだろうか。

(西川 渉、2016.5.19) 

      

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