<日高リポート>

米国家戦略の大転換

 

 

『アメリカ軍が日本からいなくなる』(日高義樹、PHP研究所、2004年1月5日刊)は、驚くほど明快な本である。複雑な世界状勢を、こんなに割り切ってしまっていいのかと思うほどである。逆に複雑だからこそ、思い切って単純化しなければならないのかもしれない。

 著者のテレビでの口調を真似て、本書の「話をまとめてみます」と、次のようなことになるであろう。

北朝鮮問題に関して

ブッシュ大統領について

米大統領選挙について

アメリカ軍の日本駐留について


(イラク・ゲリラの標的になっている米兵は、この半年間で400人以上が死んだ)

 さて、われわれ日本人はこれまで半世紀にわたって、子どものうちは日教組の先生に教えられ、大人になってからは朝日新聞を読み、NHKテレビを見て、考え方を決めてきた。ほかの新聞やテレビも、思想的には両者の亜流だから、読売や毎日を取っているから違うということにはならない。

 もちろん私自身もその1人で、それだけに上のような日高リポートを読むと、違う世界を垣間見たような気がして、いささか驚くのである。

 確かに世界はどんどん変わってゆく。とりわけアメリカは、ブッシュ大統領になって全く変わった。その変化に拍車をかけたのが9.11テロで、このテロはブッシュ個人にとってはむしろ追い風となり、良し悪しにかかわらず今も吹きつづけている。だからブッシュは必ず再選されるというのが日高リポートである。

 とすれば、いま民主党の大統領候補たちが指名争いに大金を使って、勝った負けたと大騒ぎをしているのが気の毒にもなってくる。民主党内の騒ぎが大きくなればなるほど、候補者同士のアラが見えてきて、高見の見物をしているブッシュはますます有利な立場に立つだろう。

 もうひとつ気の毒なのがわれわれ日本人で、アメリカを守るための戦争に、これまた大騒ぎをしてイラクまで出かけて行かねばならなくなった。自衛隊の諸君も歓呼の声に送られて行ったのはいいが、無防備のまま殺されでもしたら、気の毒だけではすまされない。

 アメリカがアメリカのために戦っているのだとすれば、自衛隊も日本のために出て行くのだという大義を、口先だけの説明ではなく、心底、国民に納得させる必要がある。

 無論そんなことはできやしないから、自衛隊が日本のために、国民の納得するような遠征をするとすれば、行く先を西から北へ変向するのがいいだろう。これならば大方の人が納得する。というのも、われわれ日本人にとっては、イラク問題よりも拉致問題の方が焦眉の急だからである。

 自衛隊のイラク派遣は、わが家が燃えているのを放っておいて、遠くの火事場へ手伝いに行くようなもの。これぞ美談と言いたいのかもしれないが、その火事のために自分の家族が傷つき、焼け死んでいるのだ。

 アメリカがアメリカのために行動するのだとすれば、拉致問題をアメリカに頼みに行っても解決してくれるはずはないし、いくらイラクで手柄を立ててもアメリカが北朝鮮に報復してくれるとは限らない。日本もこの際、自分のために行動し、自分のことは自分で解決することを考えるべきである。

 日高リポートを読んで、3番目に気の毒なのが首都圏の航空旅客である。羽田空港がパンク状態になっている一方で、目の前に広大な横田基地があいているというのだ。

 本書の言う通りとすれば、日本政府はせめて共同使用をするくらいの交渉を積極的に進めるべきである。首都圏の空港問題も、これで大幅に緩和されるはず。国内線も国際線も便数が増え、行く先が増えて、乗客にとっては便利になるであろう。それに競争が増せば、運賃も安くなる可能性が出てくる。

 もっとも、この傾向が進むと、羽田や成田の城に立てこもる日航や全日空の既得権益が薄まって、運輸省の役人も天下りのうま味が薄まる。したがって彼らが動くはずはないから、旅客の気の毒はいつまでも終わらないだろう。

(害無笑、2004.2.8)

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