<本のしおり>

劇的救命日記

 その日、八戸市民病院ではドクターヘリの運航開始を祝う準備が進んでいた。ところが早くも、式典の始まらぬうちに出動要請が飛びこんでくる。山林作業中の男性が大木の下敷きになったのだ。救命救急センター所長の著者は「すぐにヘリポートへ向かった。ERから薄暗い廊下を走る。その距離200メートル。20秒もかからない」。とすれば、オリンピック選手なみの駿足である。いくらなんでもまさかとは思うが、そんな意気ごみで青森ドクターヘリは始まった。

 以来5年半、プリベンタブルデスの絶滅をめざして、奇跡のような「劇的救命」を続けた結果、ついに2013年度「八戸市民病院における『防ぎ得た外傷死』はゼロになった」。しかも、そうした医療効果が認められ、今や青森県立中央病院にもドクターヘリが配備され、2機体制が実現したのである。

 そこに至るまで、本書『青森ドクターヘリ 劇的救命日記』(今 明秀、毎日新聞社刊)はドクターヘリを青森に実現させる苦闘に始まり、個々の救急現場における実例を活写しながら、1分1秒を争うドクターヘリの活動を臨場感に満ちた熱血あふれる筆致で浮かび上がらせ、この事業を知る人にも知らぬ人にも、人の命の尊さと、それを救うことの感動を、十二分に伝えてくれる。

 ドクターヘリのダイナミックな機動力と、そこに働く医師、看護師、操縦士、整備士、運航管理者、そして救急救命士や消防隊員たちの使命感を描ききった躍動感いっぱいの、まことに面白い本である。天翔(あまかけ)る著者のますますのご活躍を祈らずにはいられない。

(西川 渉、『HEM-Netグラフ』2014年冬号掲載)


2014年11月15日刊

 

 

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