<本のしおり>

救急診療は医療の原点

 医師で作家の海堂尊氏がテレビ・スタジオに「知られざる変革者たち」を招いてインタビューした記録の3冊目である。1冊目ではHEM-Netの國松孝次会長がドクターヘリの意義を説き、3冊目ではHEM-Net副理事長、というよりも日本航空医療学会の小濱啓次理事長が語っている。

 その主張するところは「すべての医者は専門医である前に救急医であってほしい。救急医学は医者の基本である」というもの。みずからの経験からも「救急診療は医療の原点である」とし、医師は「初期対応の選別ができる教育が重要で、全科の教育を受けた上で専門性を身につけるべきだ」と語気を強める。

「救急患者は内科、外科、小児科などあらゆる科」にわたる。したがって「救急医療は全診療科をもつ総合病院が当たるのが望ましい」。すなわち大学病院である。「ここで24時間、軽症から重症まで診れば、医学教育に反映され、専門医であっても救急診療も出来る医者が育つ」。しかるに最近は「大学を卒業するとすぐに専門医になってしまう」。その結果「自分の専門以外は診ないので、患者のたらい回しが起こる」。こんなことだから「東京は日本一の救急医療過疎地」になってしまった。

「医者である以上、夜中や日曜日でも診るのは当然」という話を聞いていた本書の女性編集者は「私たちは小濱先生に深々と頭を下げるべきだと思いました」「全身から言いたいことが溢れ出ているような方でした」と記している。 

(西川 渉、『HEM-Netグラフ』2015年春季号掲載)

  

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