<本のしおり>

「病院船」が日本を救う

 日本は四方を海に囲まれた「海洋国家」である。同時に、太平洋プレートが大陸棚の下にもぐりこむ境い目にあって火山や地震の多い「災害大国」でもある。この二つの要素を合わせるならば、災害対応に船舶を使うのは当然のことだが、これまでは知ってか知らずしてか全くおこなわれてこなかった。その実現を提唱するのが本書『病院船が日本を救う』(砂田向壱編)にほかならない。


へるす出版新書、2015年9月11日刊
価格1,200円+税

  

 一例として東日本大震災では、アメリカ軍が空母ロナルド・レーガンを初め、20隻余の艦艇を三陸沖に派遣し、「トモダチ作戦」の名でヘリコプターを飛ばし、水、食料、衣類などの救援物資を被災地へ送りこんだ。ただし残念ながら、傷病者を受け入れて治療するまでには至らなかった。

 病院船は被災地の医療施設が壊滅する最悪の事態を想定し、クラッシュ症候群、熱傷、狭心症、急性ストレス障害などの治療設備に加えて、被災者の収容施設、厨房、冷暖房、水洗トイレ、浴室などを備え、医療従事者が乗り組んで傷病者の治療にあたる。上甲板にはヘリポートもあって、被災者を空から搬送してくる。

 その大きさは、アメリカ海軍最大の病院船の場合、戦艦大和とほぼ同じで、ベッド数は1,000床にもなるという。こういうものがあれば壊滅に瀕した被災地に、近代的な医療施設が即座に出現したのと同じことになろう。あるいは伊勢志摩サミットのような場合も、すぐ沖合いに待機させておくことができる。 

 こうした病院船は「災害医療のシンボル」であり、すぐれた機能を発揮する。わが国でもすでに超党派の「病院船建造推進議員連盟」ができているそうだが、遅くもオリンピックまでには東京湾に浮かぶ病院船の姿を見たいものである。

(西川 渉、HEM-Netグラフ38号、2015年12月17日刊掲載)

   

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