<本のしおり>

脳はなにかと面白い

 野次馬之介も文字通りの馬齢を重ねて、20歳になった。人間でいえば80歳にあたる。そのため最近はド忘れ、もの忘れがひどくなり、馬小屋のこっちからあっちまで何かの用で行ったりすると、何をしにきたのか分からなくなることが多い。そんなときは、もう一度もとに戻って周囲を見回すと、「そうだ寝藁を取りに行ったんだ」などと思い出す。

 仲間の馬の名もしばしばド忘れする。みんな馬面で同じように見えるせいもあるが、馬だってそれぞれ個性があるし顔つきも異なる。中には丸顔の馬もいたりして、こういうのは憶えやすい。

 そういうド忘れやもの忘れの現象と、忘れたことの思い出し方など、われわれの日常に即して、脳のはたらきを科学的に面白く教えてくれるのが本書である。たとえば意識、言語、睡眠、脳波、集中力、自律神経、アルコール作用などが取り上げられ、巻末にそれぞれの話題の根拠となる学術論文が膨大な一覧表として掲載されている。だからといって本文は決して堅苦しいものではない。


(2010年6月1日刊)

 ところで、記憶をつかさどるのは「海馬」である。脳の中の重要な器官に馬の字がついているは誇らしいことだが、一方で「牛飲馬食」は残念ながら海馬の機能を低めるらしい。

 というのは空腹になると胃の中で「グレリン」という消化管ホルモンが放出され、これが血流に乗って脳に届き、食欲が高まる。同時に、グレリンが海馬に作用すると海馬の活動も増大し、知力や記憶力が良くなる。しかるに馬食のために満腹が続くと、グレリンが放出されず、海馬の働きも衰える。あげくの果てはアルツハイマー病が昂進する。

 そこでアルツハイマーを恐れるならば、カレーを食べるのがいいと本書はいう。カレーには「クルクミン」という成分が含まれ、その効果によってインド人にアルツハイマーが少ないことは昔から知られていた、と。

 もうひとつ、本書に出てくる面白い学説は「赤色は試合の勝率を上げる」というもの。ボクシングやレスリングなど、アテネ・オリンピックの格闘競技4種の試合結果を学術的に詳しく調べたところ、ウェアやプロテクターに赤色を着用した選手の平均勝率は55%であった。さらに調査対象をサッカーにまで広げると、赤いユニフォームを着たときの試合の方が得点率が高いことがわかったという驚くべき結果が出た。

 そういえば昔、どこぞの女代議士が赤い服を着て「勝負服」と称していたことを思い出す。風水でも赤は太陽が昇る力をあらわし、健康と仕事に効く決断の色、勝負運を運んでくる色といわれる。特に濃い赤色が良いらしい。

 とすれば、オリンピックでも国際試合でも、日本選手はこれまでの地味なユニフォームを脱ぎ捨て、真っ赤な服装で試合に臨んだらどうか。馬之介も次のレースでは赤い鞍をつけ、騎手にも赤い勝負服で乗ってもらうつもりである。

(野次馬之介、2016.7.18)

 

    

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