<本のしおり>

怒鳴るぞ トランプ

 月刊誌『WiLL』2017年1月号は「さあ、トランプだ 覚悟せよ!」という総力特集である。数えてみると日本の論客21人が、アメリカの次期大統領トランプについて右から左から、前から後から縦横に論じていて、まことに面白い。ご本人が見たら「退屈だ、買うな」と怒鳴るかもしれないのだが。


ワック出版

 トランプの当選が決まった直後、安倍首相は電話でまことに上手に約束を取りつけ、直接会うことができた。その直後のフェイスブックにはトランプ自身が「素晴らしい友情が始まった」と記したそうである。単なる外交辞令とも思えない。

 ところが鳥越俊太郎はテレビで、まだ大統領にもなっていないのに早速会いに行くなどは「植民地のやること。とんでもない」と言ったらしい。これに対し本誌上で「お前の頭がとんでもないっちゅうんや」と語るのは百田尚樹。鳥越のような男が「ジャーナリストである限り、日本の既存メディアも一度崩壊しなければいけない」と。

 トランプの当選を予測できたメディアは日本になかった。にもかかわらず、朝日新聞などは習近平がトランプと電話会談した記事を一面に出して「中国は偉大な国」といわれたという見出しを掲げた。人民日報か新華社通信そのものともいうべき性格が恥ずかしげもなく丸出しである。

 ところが、朝日新聞の大報道にもかかわらず、トランプの方は「いや、会談してないよ」と発言。習近平も新華社も朝日も面目丸つぶれとなった。

 日本の大手メディアがトランプの当選を予測できなかったのは、主要紙のすべてがCNNを情報源としていたからだと説くのは藤井厳喜。

 加えて高山正之は「ワシントン駐在の記者たちは、ワシントンポスト、ニューヨークタイムス、ウォールストリートジャーナルの三紙くらいの論調を見て大まかな流れをつかむと、それに沿った報道をする。独自の見解なんかない。翻訳業にすぎない」としゃべっている。

 さらに外務省もおかしいと、高山正之はいう。「米紙のいうままに、翻訳で外交している」。選挙期間中に訪米した安倍首相をヒラリーに会わせたのはいいとしても、トランプには会わせなかった。なぜなら外務省は、投票の直前までトランプが当選するはずはないと、信じきっていたからで、あとになって安倍首相から「話が違うじゃないか」と叱責されたらしい。

 したがって安倍首相がトランプ当選の直後、電話でアポイントを取って会うことを決めたとき、外務省は蚊帳の外におかれていた。

 その一方で、選挙期間中の9月だったが、安倍首相が外務省の斡旋で会ったヒラリーは、マドンナなどの人気芸能人を集めて「無料のコンサート」を開催したり、ハンバーガーをただで提供して自分への投票を依頼したり、有権者を馬鹿にした「愚民政策」を取っていた。日本ならば「明らかに露骨な買収・供応」にあたる選挙違反である。もっとも有権者の方もハンバーガーを食べただけで、ヒラリーの人気は回復しなかった。

 アメリカの不味いハンバーガーで人の気持ちが買えるなどと、ヒラリー陣営は本気で考えたのだろうか、落選するはずである。

 結局は本誌冒頭の「トランプは天才奇術師ですな」という渡部昇一のひと言に尽きるのかもしれない。

(野次馬之介、2016.12.18)

    

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