<本のしおり>

核のボタンを握る狂気

 米国トランプ新大統領の、わけの分からぬデタラメな言動について、最近のニュースによれば、アメリカの精神科医35人がそろって「自己愛性パーソナリティー障害」という一種の精神病の診断を下したという。しかも今後、その狂気のままに国政、さらには世界の政治を取り仕切っていこうというのだから、世界中が困惑し混乱するのも当然であろう。したがって医師の中には直ちに辞めてもらうべきだという人もいるほどだ。

 たとえば盗聴したとかされたとか、オバマ前大統領やロシア、イギリス、ドイツまで巻きこんで、根拠も示さず騒ぎ立てたり、多数のメディアに向かって「偽報道(フェイク・ニュース)」だと吠え立てる。のみならず、考えてみれば、この自己制御の利かない精神不安定な男の手中に核のボタンが握られているのだ。日本ならば、気ちがいに刃物というところだろう。

 こんな一般常識では理解できない男を、この著者らしく冷静かつ明快に解説したのが本書『世界を揺るがすトランプイズム――ビジネスマン、ドナルド・トランプを読み解く』(池上彰、集英社、2017年2月28日刊)である。その結論は、トランプの「すべてはディールで考える」という行動原理にあるとして、著者みずから次のようにまとめている。

 すなわちアメリカの国益を最優先に、相手と一対一でディール(取引)する。そのディールも、いわゆる「アメリカ・ファースト」を根底に置いて、デイールの前には相手の弱みを指摘し、ゆさぶりをかける。理念や理想といったイデオロギーを持たず、利益が見こめるならどんな相手とでもディールする。ポリティカル・コレクトネス(政治的正当性)を軽視し、人の心に潜む言葉を駆使して民心をつかむ。しかし事情が変われば簡単に前言を翻す。そしてマスコミは信用しない。

 これが「トランプイズム」で、トランプ発言の真意を探るには過激な言葉に惑わされることなく、トランプが何を利益と見て、誰とディールしようとしているかをビジネス視点で探ればよい。とはいえ、一国の大統領という立場やアメリカの政治システムは損得勘定だけで割り切るわけにはいかぬはず。

 この男の登場によって国際社会は混迷の時代に入り、その前途がどうなるのか、いよいよ混沌としてきた。その言動はホンネともいうが、本当のところはまだよく分からない。そのうえホントにホンネだとすれば、世界の行く手は黒い霧の中でしかあるまい。アメリカの選挙民も、とんでもない男を頂点に押し上げてくれたものである。

(野次馬之介、2017.4.1)

    

    

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