<本のしおり>
面白くて考えさせる アメリカの失業率が16年ぶりの低水準になったという。もっとも、このニュースはアメリカのマスコミが伝えたものではなく、トランプ大統領が、いわゆる「フェイク・ニュース」に対抗して開設した「リアル・ニュース」が伝えたものらしい。失業率は景気の動向を見る上で重要な要素だが、アメリカのマスコミはいっこうに下ったことを伝えない。そこでトランプが直接報じているわけで、日本でも似たようなことが起きてはいないか。
というのは、安倍首相も日銀の黒田総裁もインフレ目標ばかり強調し、それが達成できないとして、マスコミの攻撃対象になっている。しかし、本当はトランプ同様、失業率こそ注目すべきだというのが『勇敢な日本経済論』(高橋洋一・山口正洋、講談社現代新書)の主張するところである。
(2017年4月28日刊)![]()
日銀が進めてきた金融緩和は雇用の改善をもたらした。しかるに、それをインフレ・デフレで説明しようとするから話がややこしくなる。というのは日銀の業務に「雇用」が入っていないからで、なぜこんなに失業率が下がったのか、誰も説明しようとしない。けれども、これだけでアベノミクスの効果は明らかといえよう。
逆に、インフレ目標が達成できないのは物価が上がらないためで、原因は消費が伸びないからである。消費が伸びないのは消費税を8%に上げたからにほかならない。つまり消費税を上げておいて消費を伸ばそうという財務省の失策が基本にあるのだ。消費税を上げるに当たっては、黒田総裁も財務省も、景気は悪くならないと明言していた。その間違いを認めようとしないがために、インフレ目標の未達についてもあいまいな説明しかできないのである。
いうまでもないが、民主党は政権に就いた当時、財務省に籠絡されて5%の消費税をいきなり10%に引き上げようとした。その実行直前になって政権を失い、自民党の安倍首相は辛うじて8%に押しとどめた。あのまま民主党政権が続いて、消費税も10%に上がっていたら、今ごろ日本の景気はどんなだったであろうか。
考えてみれば役人も代議士も税金で食ってるわけで、自分たちの実入りになる税金は少しでも高い方がいい。その圧力に耐えて、消費税10%の主張を抑えこんでいるのが安倍首相である。今後いっそう頑張って貰いたいものだ。
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それにしても、その安倍首相に選ばれた閣僚たちのなんと頼りないことか。ひとりは女防衛大臣だが、国の防衛どころか自分の身を守ることもできずに姿を消した。自衛隊の諸公もホッとしていることであろう。
もうひとりは8月3日の内閣改造で沖縄北方相に就任した大臣。国会答弁をするときは「役所の書いた文書を朗読する」だけと語ったらしい。自分は北方問題の素人だから発言に自信がなく、立ち往生するのを避けるためという。ところが早くも5日後には日米地位協定について失言し、用意された紙を読み上げて釈明したというから、まるで落語のオチである。
その上にもうひとつオチを加えると、本書によれば、ロシアでは政治やビジネスの話合いにあたって一緒にサウナに入り、お互いの股間を握り合う儀式があるらしい。まさかサウナにまでセリフを書いた紙をもって入るわけにはいくまいが、握り合いには言葉も不要だろうから、ロシアの要人としっかり握り合って、北方領土を取り戻してくるよう願いたいものだ。アベさんもそう思って、北方担当大臣には女性を当てなかったのではないだろうか。
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最後にもう一度トランプのフェイク・ニュースに戻ると、アメリカだけでなく日本でも、いわゆる従軍慰安婦や南京大虐殺を捏造した朝日新聞を引き合いに出すまでもなく、いい加減な報道や片寄った報道、タメにする報道が多い。しかし本書は「新聞に書いてあることが正しいと思っているイギリス人は2割しかいないが、日本では7割もいる」と書いている。
たしかにその通りで、いつぞやインターネットで見たニュース(BSフジTV、2014年10月9日)には、下表のとおり、Gセブン7ヵ国に中国と韓国を加えた9ヵ国の「新聞・雑誌に対する信頼度」の調査結果が出ていた。2009〜14年の調査だそうである。
イギリス:13.3% アメリカ:22,7% イタリア:24.7% カナダ :33.0% フランス:38.4% ドイツ :44.4% 中国 :60.2% 韓国 :61.0% 日本 :70.6% こうしてみると、アメリカはもともと、トランプにいわれるまでもなく、8割近い人びとがマスコミを信じていなかったことがわかる。 逆に日本人のマスコミ信仰は恐ろしいほど異常である。
とにかく、面白くて、考えさせる本であった。
(野次馬之介、2017.8.13)
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