<本のしおり>

航空事故の調査結果に異論

 これまで馬之介、いくつかの航空事故について一般に流布している原因をそのまま受け取っていたけれども 『あの航空機事故はこうして起きた』(藤田英男、新潮選書)を読むと真相はやや異なっているらしい。


(2005年9月20日刊)

 たとえば本書を読むまでは、御巣鷹山に墜落した日本航空ボーイング747の事故は胴体後部の圧力隔壁の破損が原因だとばかり思いこんでいた。破損の原因は、以前に尻餅事故を起こしたときのボーイング社の修理が不十分だったためで、これはいうまでもなく事故調査委員会の公表した調査結果である。

 ところが実際は、この機体は尻餅をつく前から垂直尾翼に変形があったらしい。たとえば機体後部のトイレのドアが飛行中に開閉できなくなる異常が時どき見られた。これは上空で空気の力を受けて胴体が変形するからで、そのために後方客室で金属性の異音が聞こえることもあったという。

 したがって尾翼の破壊過程、つまり本当の事故原因を追求するにはできるだけ多くの尾翼破片を回収する必要があった。にもかかわらず、相模湾からの破片の回収はおこなわれなかった。それでいて事故調査委員会は「回収された破片が少ないので尾翼の破壊過程は明らかにできなかった」というだけで片づけている。

 しかし事故報告書がいうように圧力隔壁が破壊したのであれば、飛行中に機内の空気が急激に外へ出て行くため、キャビン内部で強風が起こったはず。しかし、そのような現象は生存者の証言にはなかったし、犠牲者の遺体にも急減圧を示すような内臓出血などは見られなかった。さらにボイス・レコーダーに記録された低い周波数の振動音などから、事故原因はフラッター現象ではないかと本書は見ている。


御巣鷹山に向かって合掌する手のイメージ
を示す慰霊塔

 これと対照的なのが英国航空コメットの事故で、1954年、立て続けに2度の空中分解を起こした。イギリス王立航空研究所は、海底に沈んだ残骸を細かい破片に至るまで回収し、組立て直して原因を究明した。当時のイギリス首相ウィンストン・チャーチルも、コメットの謎を解くためには費用や手間のことなど考えてはならないと号令した。これは同機が国家の威信をかけて開発した史上初のジェット旅客機だったからである。

 調査の結果は確かにみごとなもので、現在の大型旅客機は例外なく、その恩恵を受け、人類全体に大きな利益をもたらしたと言ってよいほどの成果をあげた。

 それにしても、航空事故は多くの人命を奪い、しかも原因究明がむずかしい。つい先日も、2014年に消息を絶ったクアラルンプール発北京行きマレーシア航空機(乗客乗員239人)の捜索を主導したオーストラリア運輸安全局が、捜索対象となったインド洋沖で同機を発見することはできなかったとする最終報告書を発表した。これで捜索は事実上打ち切られ、解明されぬまま終わることになった。

 航空機の安全性はまだまだ充分とはいえず、事故原因の解明も不充分といわざるを得ない。飛行機に乗るときは、神に祈ってから乗るほかはないのだろうか。

(野次馬之介、2017.10.11)

       

 

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