<軽双発ビジネス機>

ホンダジェット詳細を公表

 

 去る10月10日、長野の市民ホールで開催された日本航空宇宙学会の飛行機シンポジウムで「ホンダジェット」に関する講演を聴いた。 ホンダやトヨタの自動車メーカーが航空機の開発に取り組んでいる話題は、本頁でも取り上げたことがある。しかし具体的な内容は必ずしもはっきりしなかった。

 今回の講演では、その一部が明らかにされた。ほとんどは技術的、専門的な話題であったが、ホンダジェットが当事者によって日本国内の公的な場で語られたのはこれが初めてである。

 それによると、同機はパイロットを含めて6〜8人乗り。形状は主翼上面に支柱を立ててエンジン・ナセルをのせるという特異なもの。尾部はT形尾翼で、主翼および機首は層流設計である。

 主翼と尾翼がアルミ合金だが、胴体は全複合材製。エンジンはホンダみずから開発したHF-118ターボファン(推力757kg)が2基。全自動のディジタル・コントロール装置がつき、すでに1年以上にわたって飛行試験をしている。

 機体は全長12.5m、主翼スパン12.2m、高さ4.02m。最大離陸重量は4,176kg程度。航続距離は2,000km余。キャビンは他の同級機にくらべて広く、乗り心地が良い。速度性能は高度9,150mで最大775km/hに達する。

 本機の開発について、これまでホンダは「ビジネス・プランはない」「研究のための研究」と言ってきた。しかし米国内では市場調査をおこない、ビジネス機として最も強く要望されるのは、キャビンの広さと乗り心地の良さであるという結果を得ている。その快適性はもとより、速度性能なども同級機に対して充分競争力のあることが、講演の中でも強調された。また「ホンダジェット」(HondaJet)という一種の商品名がついたのも最近である。

 開発作業はノースカロライナ州グリーンスボロでおこなわれている。原型機はすでにロールアウトし、目下地上試験中だが、年内には初飛行する予定。型式証明や販売開始の日取りは明らかにされなかったが、「ここまでやったからには、やはりモノにしたい」というホンダの強い意欲が感じられる講演であった。

 しかし、その前途は決して平坦ではない。折から、飛行機シンポジウムと同時期、10月7〜9日の3日間、米フロリダ州オーランドでNBAAのビジネス航空ショーが開催された。その会場から伝えられたところでは、同クラスの新しいビジネスジェットが次々と登場しつつある。

 たとえばプロジェット、エクリプス500、セスナ・ムスタング、サファイア・ジェット、アダムA700など。これらの現状をまとめると次表のようになる。

 このうち、エクリプス500は先の本頁でも報告した通り、エクリプス・アビエーション社が開発中の6人乗り軽双発ビジネスジェット。2002年8月に初飛行した。2006年なかばに型式証明取得の予定である。

 エンジンは、当初ウィリアムスEJ22(推力350kg)2基だったが、これをやめて出力増強をはかり、PW610Fターボファン(推力408kg)2基に換装した。そのため開発日程が遅れるなどして、今や機体価格は775,000ドルから975,000ドルに上がった。今後の注文に対しては110万ドルとなる。

 原型機は別のエンジン、テレダイン382-10Eをつけて試験飛行中。すでに2,100機の注文を得たという。


エクリプス500

 アダムA700は、アダム・エアクラフト社が2002年10月に公表した全複合材製の双発ビジネスジェット。原型機は2003年7月に初飛行した。

 前身のA500は、バート・ルタンの設計になるレシプロ機で、胴体前後にピストン・エンジンを装備、2本のテールブームを持つ。それを一回り大きくして胴体左右にターボファン・エンジンを取りつけたのがA700である。2004年末までに実用化の予定。


アダムA700

 サファイアジェットは6人乗りのビジネス機。2003年4月に計画が公表された。2004年なかば初飛行の予定。引渡し開始は2006年上半期の予定。

 エンジンはウィリアムスFJ33-4ターボファン(推力500kg)が2基。巡航速度700km/h、航続2,100km。

 価格は140万ドル弱――正確には1,395,000ドルだそうだが、すでに300機以上の注文を受けており、2006年の引渡し開始までにはもっと増える見こみという。その結果、このクラスのビジネスジェットは今後大きく需要が伸びると予想されるが、そのうち3分の1のシェアを取りたいとしている。

 というのは、同社の市場調査の結果、ビジネス機の市場で最も重視されるのは機体の購入価格であることが判明した。サファイアジェットはそうした顧客の要請を最も忠実に反映させたものだからという。

 原型機は2機製作し、1機は地上の疲労試験に使用、もう1機で飛行試験をおこなう。


サファイア・ジェット

 セスナ・ムスタングは6人乗りの軽双発ターボファン・ビジネス機。エンジンはPW615F(推力1,350ポンド)が2基。2002年9月に230万ドルの価格で発表された。

 2005年なかばに初飛行、1年後に型式証明取得の予定。2003年8月の時点で330機の注文を受けているという。


セスナ・サイテーション・ムスタング

 プロジェットは米アヴォセット社がイスラエル・エアクラフト社(IAI)と共同開発中の6〜8人乗り双発ビジネスジェット。

 今年8月に公表された計画で、初飛行はまだ2年先というのに、早くも10月のビジネス航空ショーでウルトラジェット社から100機の注文を受けた。価格は200万ドル。

 エンジンは推力590kgのPW615かFJ33。巡航速度は676km/h、航続距離2,220km。

 初飛行は2005年後半。引渡しは2007年の予定である。


アヴォセット・プロジェット

 こうした米国勢の動きを見ていると、ペーパープランのうちから開発資金を募り、設計仕様がほぼ固まった段階で大々的に計画をぶち上げて注文を取る。まさしくベンチャー方式で、長年にわたって研究、設計、開発をつづけてきたホンダの慎重な日本方式とは全く逆である。

 どちらが良いかはさておき、ホンダジェットがこれからどのような闘いぶりを見せるか。いうまでもなくホンダは、世界市場に打って出て、大きな成功を収めた自動車メーカーの一つである。外国メーカーのライセンス生産と下請け生産に甘んじているわが国航空工業界のためにも、立派な手本を見せて貰いたい。

(西川 渉、2003.10.14)


ホンダジェット三面図
(冒頭のイメージ図とモックアップは高翼になっているが、
これは何年か前の構想で、試作機による実験飛行もおこなわれた)

 

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