<エアベンチャー>

ホンダジェット初公開

 

 ホンダジェットが先日、初めて公開飛行を見せたらしい。これまでなかなか姿を見せなかったのは、良くいえば日本的な慎重さと遠慮深いためだろうが、悪く言えば猜疑心の強い秘密主義ということになる。日本の大メーカーには後者のようなところが多い。本田技研に限ってそんなことはあるまいと思っていたけれど、今回の公開の仕方はいささか首をかしげたくなるような点もある。

 というのは、ホンダジェットが公開飛行を見せたのは去る7月28日、米ウィスコンシン州オシコシで開催されたエアベンチャー実験航空機ショーであった。ノースカロライナ州グリーンスボロから飛んできて、観衆の前を何度か通過したのち、そこに着陸して4時間程とどまっただけで戻って行ったという。

 チラっと見せて、人の好奇心を掻き立てておきながら、すぐに隠してしまうような具合で、見せるのか隠すのか、場末のなんとかショーみたいで、世界的大企業のやり口としては、余り良い趣味とはいえない。

 ホンダジェットは2003年12月3日に初飛行、航続距離、最大速度、キャビン容積というビジネス機としての3つの基本要件を他機より格段にすぐれたものとすることに目標を置いて開発がつづいている。最近までに約156時間の飛行をしたが、200時間になるまでは確実なことはいえないというから、それでオシコシのような振る舞いになったと言うのかもしれない。

 これまでの試験飛行で、速度は最大727km/h、高度は最高13,100mに達した。速度領域は今後なお伸ばす予定で、設計最大速度は778km/h。航続距離は2,000km以上である。

 機体は全複合材製。エンジン2基の取りつけ位置は、ビジネスジェットに多い胴体後部ではなく、左右の主翼上面のパイロンの上にあり、取りつけ方法の細部などが特許になっている。機体形状は主翼と機首の層流設計によって抵抗が少なく、高速性能が発揮できる。キャビンは乗員2人と乗客4人乗りで、他の同級機にくらべて3割増のゆったりした広さがある。燃料効率は、これもホンダの開発になるHF118ターボジェット・エンジン(推力757kg)によって4割ほどすぐれているという。

 商品として売り出すのかどうか、今後の計画は未定とされ、FAAに対する型式証明申請も出ていない。しかし関係者によれば、日本とアメリカの自動車をくらべてみると、アメリカの車は大きくて豪華だが、効率が良くない。ビジネスジェットも同様で、それを乗りまわすような人は燃料代など気にしないのかもしれぬが、ホンダジェットはそこに新しい改革をもたらすことになろうと、自信のほどをのぞかせている。

 青写真の段階から大宣伝をしながら途中で資金がなくなって開発中止になったり、試験飛行の途中で墜落して開発断念になったり、航空機の開発はきわめて厄介だが、ファンとしては欲求不満の残らぬような公開、公表をするよう願っておきたい。

 余談ながら、オシコシ航空ショーは手製のホームビルト機を持ち寄って、お互いに見せ合い、自慢をし合うところから始まった。それが発展して開発中の軽ビジネスジェット、エクリプス500やセスナ・ムスタングまでが登場するようになった。

 観客もしくは参加人員はおよそ70万人、機体数は1万機にもなり、数量の点ではパリやファーンボロをしのいで、世界最大の航空ショーである。そのうえ誰もが自慢の自家用機で飛んできて、駐機するのはもちろん、愛機の横にテントを張って泊まりこむから、会場は大混雑となる。

 今週の「アビエーション・ウィーク」誌によると、そのための飛行管制も大変で、昨年の実績では7月23日から8月2日までの間に扱った発着回数は17,816回。同じ期間のアトランタ・ハーツフィールド空港の30,971回、シカゴ・オヘヤ空港の29,392回には負けるが、7月31日の土曜日だけは2,734回でアトランタの2,542回、シカゴの2,613回を上回った。

 つまりエアベンチャー中のオシコシは、世界で最も忙しい管制塔である。その点は、日本の関宿滑空場も同じで、休日はグライダーの発着が羽田空港より多くなることは余り知られていない。


「世界で最も忙しいコントロールタワー」の
横断幕を張ったオシコシ・ウィットマン空港の管制塔

 エアベンチャー中の管制をやりたいという人も多い。もちろんFAAの本物の管制官で、忙しい期間だけ全米から補充をつのると大勢の希望者が手をあげる。その中から選ばれるのは、ほぼ3分の1。過去3〜4回の経験者2人と1〜2回の経験者1人、それに初めての1人と、合わせて4人ずつのチームが20組ほどできる。

 そして、同時に2組がタワーに入って管制をおこなう。さらに、ほかの組は近くの小さな飛行場や通信施設、アプローチ管制などに配置され、遠くから近づいてくる小型機の機種や塗装を双眼鏡で見ながら「翼を振って」と言って機体を確認する。

 仕事は8時間交替だが、よほど面白いらしい。誰もが来年もやりたいというけれど、7年やったら手をあげる権利はなくなるのだそうである。


自慢の愛機とテントの群

(西川 渉、2005.8.17)

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