<NBAAレポート>

好況に沸くビジネス航空界

 

 以下の文章は今から一と月半ほど前、10月初めに月刊誌『航空ファン』のために書いたものである。ニュースとしては、やや遅れているかもしれないが、ここに記録を残しておきたい。なお、この中に出てくるホンダジェットについては、最近亡くなった建築家の黒川紀章氏が1機発注していたと聞いたばかりである。この飛行機にこの人が乗って世界中を飛んで歩けば、さぞかし立派な宣伝になったと思うが、黒川さんのためにもホンダジェットのためにも惜しいことであった。

 米国ビジネス航空協会(National Business Aviation Association)の年次大会NBAA2007は、今年が数えて60回目。ジョージア州アトランタで去る9月25〜27日の3日間にわたって開催された。展示団体と企業は1,152社、参会者は32,000人を超える盛況ぶりである。

 会場はアトランタ・コンベンション・センターと近郊のフルトン飛行場の2ヵ所に分かれ、飛行場の方にはおよそ100機のビジネス機がまばゆいばかりの陽光の下に並べられ、互いに妍を競い合った。

 ちなみにアメリカでは現在11,000社の企業が16,000機の航空機をビジネス機として使用しており、利用可能な飛行場は全米で5,300ヵ所に上るという。

 

ホンダジェットの開発状況

 さて、今回のNBAAコンベンションで、日本人として最も注目したのはホンダジェットであった。3日間の会期の初日、午前10時半からホンダ・エアクラフト社のブースで藤野道格(みちまさ)社長の記者会見が行なわれた。背景には、かねてお馴染みの白地に青の流れるような塗装をした模型が照明の中に浮かび上がり、周囲を100人ほどの報道陣や一般観客が取り巻いた。

 その中で藤野社長は、ホンダジェットの現状と将来計画を淡々とした英語で語った。いうまでもなく、このビジネスジェットは同氏みずから長年にわたって設計と開発にあたってきたもので、その愛児がどこまで育ってきたか、今後どのように育て上げ、世間に出してゆこうとしているのかという内容である。

 ホンダジェットが初めて飛んだのは2003年12月3日。主翼の上にエンジンを載せるという特異な形状が人びとを驚かせた。同時に多数のビジネス機が競り合う中で、航空機の開発には経験のない本田技研があえて多額の資金を注ぎこんで荒海に乗り出そうという意気込みにも驚いたものである。

 だが、それは好感をもって迎えられ、3年間の実証飛行を経て、昨年10月のNBAAをきっかけとして営業活動をはじめるや、たちまち100機を超える注文を獲得するに至った。

 以来この1年間の開発作業の結果、コクピットの操縦システムに独自の改良を加えて操作性を増し、キャビンの内装を改めて安全性を高め、外観の塗装には従来の青に赤、黄、緑、銀を加えて、全部で5種類のカラーが選べるようにした。

 なお、ホンダジェットは航空力学の常識にとらわれることなく「翼の上にエンジンを置くという独創的な空力設計」と、それにもかかわらず優美な美しさを発揮していることで日本産業デザイン振興会の2007年度グッドデザイン賞を受賞している。


ホンダジェットの展示会場で記者会見する藤野社長

試験飛行も順調

 藤野社長の記者会見によれば、ホンダ・エアクラフト社は現在、販売力強化のために販売ディーラーのネットワークを構築中という。考え方は本田自動車のディーラーと同じで、全米各地の、飛行時間にして90分ごとの間隔をおいて1店ずつディーラーを設ける。1号店は、すでにフロリダ州に開店した。

 一方、機体の開発試験も順調に進んでおり、原型機の飛行時間は300時間に達した。そして現在、原型2号機の製作が進んでおり、2009年春には飛行する予定。同機は1号機の試験飛行の結果から部品数を減らし、したがってコストが減り、信頼性が高まるといった成果を採り入れている。最終的に型式証明取得までに何機で試験飛行をおこなうのかは未定という。

 量産機は、社用機としてはパイロット1人と乗客4人だが、パイロット単独で計器飛行ができる。またエアタクシーとしてはパイロット2人と乗客5人乗りになる。

 こうしたホンダジェットは米連邦航空規則FARパート23の基準にもとづいて、2010年までに型式証明を取る。飛行性能は今のところ従来の発表と変わりはない。すなわち最大速度777km/h、実用上昇限度13,100m、計器飛行での航続距離2,185km。燃料消費は同クラスの競合相手に対して30〜35%少ないという特徴を持つ。

 ホンダジェットの製造は、ノースカロライナ州グリーンスボロにあるピードモント・トライアド国際空港で行なわれる。すでに今年7月からホンダ・エアクラフト社の世界本部と製造工場の建設がはじまっており、2008年春までに完成する。そのための資金は、内部の設備も含めて、およそ1億ドル(約120億円)。機体の製造ばかりでなく、ここは販売拠点の中心にもなる。


NBAAショーでアトランタ・フルトン・カウンティ空港に展示されたホンダジェット

エンジンはGEとの共同生産

 一方エンジンの開発と製造は、東へ40kmほど離れた同じノースカロライナ州のバーリントンで行なわれる。ここにはジェネラル・エレクトリック社と半々の出資比率になる合弁企業GEホンダ・エアロエンジン社が本拠を置く。それに先だって試作エンジンの試運転は日本で始まっており、最大推力950kgを出している。

 続いてGEマサチュセッツ工場では型式証明取得のためのエンジン7台の製造が進んでいる。これらのエンジンによる型式証明試験は来年からはじまり、2009年なかばには証明取得の予定。そしてバーリントン工場で量産に入り、2010年からホンダジェットに取りつけて実用化される。

 GEホンダがめざすのはホンダジェットのエンジンばかりでなく、推力450〜1,500kgの多様な小型エンジンの開発と製造で、この中に推力900kgのホンダジェット用HF120ターボファンが含まれる。

それらの製造が軌道に乗れば、まずは年間200台をつくり、最終的には1,000台の製造をめざすという。

 なおGEは近年、大型エンジンに集中してきたが、ホンダジェットをきっかけとして改めて小型タービン分野へも進出することになった。もとよりGEといえども、昔は小型エンジンの製造からはじまった。しかし徐々に旅客機や軍用機の大型エンジンに向かってきた。それが今、小型エンジン分野へも戻ることになり、一種のルネッサンス(復活)、もしくは先祖返りと見られている。

 ホンダジェット量産機の引渡しは2010年から始まる予定。

ホンダジェット基本データ

項  目

データ

全長

12.71m

翼幅

12.15m

全高

4.03m

最大離陸重量

4,173kg

満タン時ペイロード

292kg

最大座席数

2+6

標準座席数

1+5

エンジン

HF120(推力850kg)×2

最大巡航速度

777km/h

航続距離

2,000km

実用上昇限度

13,100m

離陸距離

951m

着陸距離

762m

ホンダジェットの競争相手

 ホンダジェットの前途は、しかし、決して平穏とはいえない。同クラスのVLJ(Very Light jet)と呼ばれる軽ビジネスジェットが数多く待ちかまえているからだ。

 VLJの先頭に立つのは、セスナ・サイテーション・ムスタングである。VLJとしては最も早く2006年9月8日に型式証明を取得、同年12月から量産機が飛びはじめた。総重量は3,920kgとやや大きく、プラット・アンド・ホイットニーPW615F1(推力660kg)エンジン2基を装備して、630km/hの巡航速度で航続2,160kmを飛ぶ。もっともホンダジェットは総重量4,170kgでさらに大きく、速度も777km/hの高速を誇る。それだけに公表価格はムスタングの239万ドルに対してホンダジェットは365万ドルとなり、こうした機体の大きさ、性能、価格などの要素が両機の競り合いにどのような影響を与えるかが勝負の決め手となる。ムスタングは2008年に100機、2009年は150機を生産する計画である。

 ホンダジェットのもうひとつの強敵は小兵エクリプス500(5人乗り)であろう。去る4月にFAAの量産承認を受けて8月末までに38機を引渡した。39号機以降は多少の改良がなされ、主翼両端に燃料タンクを取りつけ、エンジン・ナセルや主降着装置のフェアリングが整形された。同機は今後なお、氷結気象状態での飛行を可能にするなど改良を加えてゆく予定。

 総重量はムスタングよりもさらに小さくて2,720kg。速度685km/h、航続2,000kmで、価格は159万ドル(約1.8億円)という安さである。計画当初の価格設定は100万ドルを切るといっていたほどで、これまでの受注数は仮注文も合わせて2,700機に達する。

 もうひひとつ、ATGジャベリンMk10は2年前の2005年9月30日に初飛行した。2枚の垂直尾翼と低い風防、細長く伸びた機首がビジネス機というよりも戦闘機のように見える。事実、軍用機としての用途も想定され、Mk20と名づけられている。民間型Mk10は2009年に型式証明を取得する予定。エンジンはウィリアムスFJ-33(推力790kg)が2基で、956km/hという高速性能を持つ。

 ほかにも双発VLJは、エムブラエル・フェノーム100(5〜8人乗り)、アダムA700、エピック・エリートなどがある。 

軽飛行機のジェット化

 最近は単発ビジネスジェットの開発計画も目につく。個人ジェット(Personal Jet)と呼ばれるもので、いずれも胴体後部上方にジェット・エンジンを背負っている。

 その中のひとつはエクリプス単発概念機。今年7月のオシコシ実験航空ショーでいきなり飛んで人びとを驚かせた。それまで全く知られていなかったものである。このエクリプス・コンセプト・ジェット(ECJ)は4人乗りで、670mの短い滑走路から飛び立ち、巡航速度638km/hで2,300kmを飛ぶ。今後は需要の動向を見ながら来年なかばまでに正式に開発するかどうかを決め、開発が決まれば3年間で型式証明を取る予定。主翼、降着装置、ドア、前方バルクヘッドなど、機体の6割はエクリプス500双発機と共通である。

 パイパーエアクラフト社も今回のNBAAショーで、パイパージェット単発機(6人乗り)のモックアップを展示した。昨年のNBAA大会で公表された計画で、エンジンはウィリアムスFJ44-3AP(推力1,100kg)が1基。666km/hの速度で、2,400kmを飛ぶ。原型機は2008年末までに初飛行し、2010年中に型式証明を取る予定。価格は220万ドル(約2.6億円)を想定している。

 ほかに単発ジェットはダイアモンドD-ジェット(5人乗り)、サイラス、ザ・ジェット(7人乗り)、エピック・ビクトリージェット(5人乗り)などがある。ビクトリージェットは今年7月に飛んだばかりで、同月末のオシコシ実験航空ショーに参加した。

 こうした小型ビジネスジェットは最近、単発と双発を合わせて、一つのカテゴリーとして存在感を示すようになった。これまでは、もっと大きなダッソーやセスナ・サイテーションなどへの入門機(エントリーレベル)とされてきた。本来の目的は大型ビジネスジェットであって、VLJはそこへ至る準備段階に過ぎないとする見方である。しかし筆者の畏友宮田豊昭氏(故人)はかつて、そうではなくて昔からの軽飛行機、つまり小型ピストン機のジェット化と見るべきだと語っていた。最近の単発VLJなどを見ると、いっそうその感を深くする。VLJは決して予備的なつなぎの航空機ではなく、それなりの存在意義を持つものなのである。

空飛ぶ宮殿も出現

 軽ビジネスジェットから一転して、大型ビジネスジェットを見てみよう。近年ボーイングやエアバスなどの旅客機をビジネス機として使用する例が増えており、今回のNBAAではエアバス・コーポレート・ジェットライナー(ACJ)が受注数100機に達したと発表された。同時に屋外の会場には新しいA318エリートが展示され、豪華な機内が公開された。

 エアバス社が旅客機を改修し、大型ビジネス機として販売に乗り出したのは1997年である。したがって丁度10年間に100機を売ったことになる。最初はA319を基本とするACJであったが、やがてもう少し大きなA320プレスティージが登場、今年春にはA318エリートが実用になった。同機は最新の電子コクピットを有する。キャビンは乗客14人または18人乗りを標準とし、顧客の希望があれば11人増とすることもできる。こうした内装基準を設定しておくことで工事費が安くなり、工事期間も4ヵ月ほどですむ。またA318エリートは急角度の進入と短距離の離着陸が可能で、制約の多いロンドン・シティ空港でも発着が認められた。

 さらにA330やA340ワイドボディ機もビジネス機として使われている。こうしたACJは今年に入って、NBAAショーまでの9ヵ月足らずの間に合わせて36機の注文を受けた。内訳はA320ファミリーが29機、A330/A340VIPが6機、そしてなんとA380が1機である。

 ビジネス機としてのA380はフライング・パレス(空飛ぶ宮殿)と名づけられた。価格は3億ドル以上(約400億円)と聞いたが、この超巨人機を個人的な乗り物として使うのは誰か。発注者の名前は明らかにされていない。しかし所在はアメリカでもなければヨーロッパでもないというから、おそらく中東あたりの石油成金だろうとささやく人がいた。

 NBAAの屋内展示場には、その模型があって、内装の一案が展示されていた。全長2mほどの宮殿の中をのぞきこむと、執務室、会議室、食堂、浴室、寝室、など豪華なしつらえがほどこされている。床面積は1階と2階を合わせて551uというから、われわれの住まいとくらべても遙かに大きいことが想像できよう。これで世界中を飛び回るならば、豪華な宮殿で普段の生活をしながら、いつの間にか地球の反対側にきているといった感じになるのではないか。空飛ぶ宮殿がエアバス社の工場を出るのは2010年7月の予定で、それから内装工事にかかる。実用になるのはかなり先のことであろう。


豪華な内装をもつエアバス・コーポレート・ジェット(ACJ)

内装工事に莫大な費用と期間

 こうしたエアバスの動きに対して、無論ボーイングも負けてはいない。両社は旅客機の分野で激しい競争を演じるばかりでなく、ビジネス機の市場でもしのぎを削っているのである。

 ボーイング・ビジネスジェット(BBJ)は1996年、ジェネラル・エレクトリック社との共同事業として発足した。737を基本とするBBJに始まり、BBJ2、BBJ3と発展し、昨年からは新しい747-8や787もビジネス機として売り出され、最近までの受注総数は151機に達した。この間の推移と機種別の受注数は2つの別表に示す通りである。いずれも製造が間に合わないほどの売れゆきで、いま注文を受けても何年も待って貰わねばならないという。なお747-8VIPと787VIPの1号機が姿を見せるのは2010年である。

 いうまでもないことだが、旅客機を基本とするビジネス機は、ガルフストリーム450、グローバル5000、ファルコン900EXなど本来の大型ビジネスジェットに対してキャビン容積が3倍を超える。にもかかわらず乗客が少ないので、キャビンの内装をゆったりと豪華に整えることができる。さらに大量の手荷物や貨物を搭載する必要がないから、床下の貨物室に燃料タンクを増設する。そのため航続距離が2倍以上に伸びて、地球上どこへでも自由に飛んでゆくことができる。

 こうしたビジネス旅客機はメーカーで組立てられたあと、内装のないまま引渡される。機内には壁も天井も座席もギャレーも何もない。顧客はこれを内装会社に渡して、独自の仕様で工事をしてもらう。この作業には、どうかすると1年もかかることがある。こうした内装には、むろん大型機ならではのことだが、ベッドルームや金張りのバスルームを含むものが多い。また最新のオーディオ・ビデオ・システムや高速インターネットが装備される。さらにダイニング・ルームやコーヒーテーブルなどは顔が映るくらいにピカピカに磨き上げられるが、これらの装飾は大金持ちのヨットや邸宅のインテリアからきたものが多い。

 費用は、最近のボーイングBBJやエアバスACJの場合、およそ1,500万ドル(約18億円)。特に金のかかるのは見ばえのよさではなくて、航空機としての安全を保つため。つまり家具も壁もカーペットも、内装の全てに不燃性と耐衝撃性が求められ、しかも軽量でなくてはならない。ちなみに本体価格は、内装も塗装もしていない状態でBBJが4,800万ドル(約60億円)、BBJ3が6,400万ドル(約75億円)である。

 もはや10年前のことだが、ある企業が買ったボーイングBBJはざっと3,050万ドル(約35億円)だったと聞いたことがある。そのうち1,050万ドルが内装に要した費用だったらしい。 

ボーイング・ビジネスジェットの進展

年間受注数

備     考

1996

3

737を基本とするビジネスジェット開発着手

1997

26

BBJ最多受注の年

1998

12

BBJ初飛行

1999

7

BBJ2の開発着手

2000

13

ウィングレットの取りつけ承認

2001

13

BBJ2の引渡し開始

2002

8

最小飛行記録達成

2003

4

引渡し累計75機

2004

5

FANS初飛行

2005

14

受注数100機に到達

2006

23

BBJ10周年

2007

23

BBJ飛躍の時期へ

合 計

151

――

ボーイング・ビジネスジェットのの機種別受注数

機 種

受注機数

備   考

737BBJ

116

2016年の製造分まで売り切れ

737BBJ2

13

737BBJ3

6

787VIP

11

2013年分まで売り切れ

747-8VIP

5

2010年引渡し開始

合 計

151

――


伸び続けるビジネスジェット

 かくてビジネス航空は今、かつてない好況の時代を迎えた。この4年間、連続してプラス成長を続け、メーカー各社の引渡し数や売上高も伸びつづけてきた。メーカーは現在、多数の注文をかかえ、向こう2〜5年間の製造分が売り切れという嬉しい悲鳴を上げている。

 現用機数では何といっても北米が多いが、発注数はその他の地域でも伸びてきた。欧州はもとより、インドや南米の発注がドル安を背景として増えたためである。ビジネス機メーカーはもはや、販売先を北米だけに頼る必要はなくなってきた。とりわけ中東諸国が新たなビジネス機の需要を大きく伸ばしている。

 もうひとつはビジネスジェットの幅が広がり、小は個人用の単発ジェット、大は747やA380などの超巨人機まで拡大した。これまでも旅客機をビジネス機として使う例はあったが、アメリカ大統領のエアフォースワンや日本の政府専用機のように元首や首相などの特殊な乗用機として限られたものであった。それが民間ビジネス機にも使われるようになったのである。

 第3にビジネス機の需要が伸びてきたことから、これまでは軍用機にかかりきっていたメーカーが、ビジネス機にも目を向けるようになった。ビジネス機の需要が無視できないほど大きくなったのである。

 こうしたビジネス航空の成長と発展に伴い、空港の運営管理にあたる運輸当局も、乗入れ航空機について、旅客機優先という従来の方針を改めざるを得なくなってきた。空港の発着枠に限度がある場合、どうしても定期便の発着が優先される。しかし、ビジネス機もまた経済活動に重要な役割を果たす。その点を社会的に十分認識してもらい、同等に扱ってもらう必要がある。ビジネス機は決して、単なる贅沢品ではない。空港当局がビジネス機の乗り入れを一方的に制限するのは時代遅れになってきたのである。

 そうなると、着陸料などの空港使用料を高額のまま利用者に押しつけるだけでいいのかといった問題も出てくる。さらに最近は環境問題もやかましい。メーカーも運航者も排気ガスや騒音など、これまで以上に配慮しなければならなくなった。

いっそうの発展に向けて

 ビジネス航空が今後ますます発展してゆくには、関係者として何を考え、何をしなければならないか。NBAA大会の最終日、パネル討論が行なわれ、世界各国からビジネス航空界の代表が集まり、話し合いが行なわれた。

 主な発言の第1は、安全の確保である。それには着実な訓練計画が必要だが、その役割を誰がになうのか。政府か業界か企業か。必ずしもはっきりしないところがある。もうひとつ、安全確保のためには機材の整備を確実に行なう必要があり、整備士の養成が重要だし、メーカーの協力も欠かせない。

 第2に、ビジネス航空に関する社会の認識を変えてゆかねばならない。ビジネス機は経済活動に重要な役割を果たす手段であり、決して単なる贅沢品ではない。ビジネス機が今後、世界中で使われるためには、そうした意義を充分に理解してもらう啓発活動がなければならない。

 第3に、若い人びとのビジネス航空に対する関心を高め、ビジネス航空界に入ろうという意欲をもってもらうことも重要である。山を高くするには裾野の拡大が必要だが、その点VLJは従来の軽飛行機に替わる身近な存在となり得る。それだけに今後、大きく伸びてゆくと見られるVLJは、充分な安全性と経済性をそなえていなければならない。言い換えれば、誰もが安心して安いコストで乗れるようでなければならない。

 以上をまとめて、ビジネス航空の根底を支えるのは世界経済の活力であろう。今、世界の経済は好況のさ中にある。これが崩れては社会のさまざまな活動が衰微するのは当然だが、ビジネス航空も例外ではない。おそらくは最も敏感に景気の動向に反応する分野であろう。ビジネス航空の関係者は、この点を充分に認識して社会的、経済的な日常活動をつづけてゆく必要がある。

 そのうえで、航空界の分析を専門とするティール・グループは、ビジネスジェットの需要について、向こう10年間に12,000機、金額にして1,732億ドル(約20兆円)と予測している。ビジネス航空の飛躍の時代が訪れたのだ。 

(西川 渉、『航空ファン』2007年12月号掲載、2007.11.21) 

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