<本の感想>

日本人の知りたくないこと

 

 本書『日本人が知りたくないアメリカの本音』(日高義樹著、徳間書店、2004年4月30日刊)には、確かに日本人の知りたくないこととが沢山出てくる。

 たとえばブッシュ大統領は、9.11テロを石油戦略を進めるためのチャンスととらえ、アフガニスタンやイラク攻撃によってOPECに強い影響力を行使できるようになった。それによってアメリカの産油地域を背景とするテキサス人ブッシュは、石油業界に大きく貢献したと著者はいう。逆にフランスはサダム・フセインに金を貸し、油田開発について契約を結んでいたため、アメリカの軍事行動によって自分たちの権益がなくなる。それでイラク攻撃に反対したらしい。

 さらにブッシュは、国連を無力化してしまった。米軍との連携なしに代表をイラクに送った国連は、たちまちゲリラ攻撃を受けて撤退を余儀なくされた。これで国連の名誉と国際的な影響力が失われたが、当分は立ち直ることもできないだろう。今や国連はアメリカに隷属する組織になってしまった。そんなところへ多額の分担金を納め、常任理事国になりたがっている日本、もしくは外務省は時代錯誤も甚だしい。

 アメリカ人がドルを信用せず、信ずるのは金と土地という点も、日本人の知りたくない問題の一つ。ブッシュ大統領がドルの下がるにまかせているのは、為替相場などどうでもいいと考えているからだ。終戦直後の日本銀行から大量の金をアメリカへ持って行かれ、その代わりに一生懸命ドルを貯めこんできた日本は、いずれ紙くずになったドル紙幣をかかえて吠え面をかくのではないか。

 だからといって、ドルやユーロに並んで円を国際通過にしようという手もあるようだが、アメリカはそれを絶対に許さない。円はあくまでドルの補助通貨であって、独立したアジア通貨などは核兵器を持つに等しい反逆であるとブッシュ政権は考えている。

 さらには、ブッシュ政権の税金や老人医療に関する政策も、実は金持ち優遇である。地方の資産家たちがブッシュの支持者だから当然のことと本人は考えており、その人たちから堂々と資金を集めて選挙戦に臨んでいるのである。

 こうして、われわれ日本人が、日本のマスコミだけでは気づかないことや知りたくないことが本書には沢山取り上げられている。それらを背景として、アメリカ東部のインテリたち――ハーバードの学者やウオール街の財界人、あるいはニューヨーク・タイムズなどの非難の合唱にもかかわらず、ブッシュは再び大統領に当選するというのが著者の見方である。

 今朝の新聞には「アメリカ国民のブッシュ離れ」といった選挙の予想記事が出ていたが、実際はどうなるだろうか。

(西川 渉、2004.7.25)

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