災害拠点病院の

ヘリポート整備について

 

1997年8月

 地域航空総合研究所

 

1 ヘリポートの種類と航空法規

 1996年と97年初めに厚生省から都道府県知事宛に出された「災害時における初期救急医療体制の充実強化について」は、全国の災害拠点病院を指定することとし、その要件として「ヘリコプターによる傷病者、医療物資等のピストン輸送を行える機能を有していること」となっている。そのためには「原則として、病院敷地内にヘリコプターの離着陸場を有すること。……少なくとも航空法による飛行場外離着陸場の基準を満たすこと。また……航空法による非公共用ヘリポートが望ましい」とある。

 もともとヘリコプターの離着陸が認められる場所は、航空法規上、飛行場と飛行場外の運輸省大臣の許可を受けた場所に限られる。飛行場にはヘリポートが含まれ、公共用ヘリポートと非公共用ヘリポートに分かれる。公共用ヘリポートは不特定多数の誰もが使用可能であり、非公共用は警察、消防、新聞社、企業などが自ら使用するために設置したヘリポートをいう。

 これらの離着陸場の差異は次表の通りである。 

要 件

公共用ヘリポート

非公共用へリポート

飛行場外離着陸場

申請者

設置者(法38)

設置者(法38)

運航者

許可者

地方航空局長

地方航空局長

空港事務所長

公聴会

必要(法39-2)

必要(法39-2)

不要

需要予測

必要(施76-2-6)

不要(検討の要あり)

不要

施設設置基準

有(施79)

有(施79)

無(着陸帯のみ)

就航機と操縦士

不特定

設置者の許可

許可で特定

許可期限

期限を付す場合あり

同左(法38-4)

15日〜1年

完成検査

有(法42)

有(法42)

無(完成後申請)

供用の休止と廃止

許可(法44)

届出(法45)

規定なし

管理基準と当局検査

有(法47、施92)

有(法47、施92)

必要ば場合有

物件の制限

第3者に対抗(法49)

第3者への対抗不可

第3者への対抗不可

管理規程

認可(法54-2)

指導あり(法54-2)

規程なし

2 ヘリポートの設置基準

 ヘリコプターが離着陸するヘリポートおよび場外離着陸場は、種類の如何にかかわらず、原則として下図のような基準で設置される。

 基本的には、離着陸するヘリコプターの平面形の1.2倍以上の大きさの着陸帯と、その周囲に障害物のない空域が必要である。この空域を囲む面を制限表面といい、進入表面、転移表面、水平表面の3種類から成る。 

 

ヘリポートの規格と障害物件の制限表面

着陸帯の長さと幅

進入区域の長さ

進入表面の勾配

水平表面の半径

転移表面の勾配

使用予定航空機の投影面の1.2倍以上

1,000m

│1/8以上

200m以下

1/2

 

3 病院ヘリポートの条件

病院に近いこと――理想的には集中治療室(ICU)に直結して、ヘリコプターから降ろした患者を再び救急車などで運ぶ必要のないこと。

着陸帯だけでよい――通常のヘリポートに見られるような誘導路やエプロンなどは不要。

ヘリポートから治療室まで階段を使わずに患者を連れて行けること。患者をストレッチャーに載せたまま、水平移動とエレベーターの使用だけでICUまで 搬入できること。

ヘリコプターとの間で無線連絡ができること。

夜間の発着ができるよう、照明施設を設けることが望ましい。照明施設がなければ、夜間の緊急患者搬送はできない。

米国では計器進入も可能な病院ヘリポートが実現している。
(1995年、米チャタヌガのエルランガー病院では連邦航空局の協力でGPS利用 の計器着陸実験をおこない、正式に計器飛行が認められた。これにより多少の 悪天候でもヘリコプター救急が可能になった)

普段の使用頻度が少ないときは、周辺地域における新たな障害物の発生を定期 的に点検し、いつでも使えるようにしておく必要がある。

普段は病院職員の運動場、遊技場、駐車場などに使うこともできる。ただし、 必要に応じて直ちに車を移動できるような体制にしておく必要がある。外来者の駐車場とするのは望ましくない。 

 

4 ヘリポート着陸帯の標識

(1)日本の基準

 ヘリポートの標識は、日本とアメリカで異なる。日本は航空法規によって、下図の通り円形の中にローマ字のHを描く。円形は半径2m以上、縁取りの線は30cm以上、内部のHは2本の縦線の間隔が2m以上、文字の線は幅45cm以上と決まっている。またHの文字はヘリコプターの進入方向に向かって描くようなルールになっている。

 

(2)アメリカの基準

 アメリカの基準は、勿論そのまま日本で使うわけにはいかないが、参考までに次のようになっている。

(2−1)通常のヘリポート標識

  通常のヘリポートは単純に大きなHの文字を描く決まりである。昔は三角形の中にHを描き、三角形の頂点が北を指す決まりになっていた。しかしヘリコプターのパイロットが上空から見やすいことが第一の条件で、それには余り複雑な図形や決まりを設けない方がいいという考え方である。(実は、この結論に達するまでには、FAAのきわめて科学的な実験と検討がおこなわれたのだが、それについてはいずれ別項でご紹介したい)


 図中「7」の数字は総重量7,000ポンドまでのヘリコプターが離着陸できるという表示。

 

(2−2)病院ヘリポートの標識

 病院ヘリポートの標識は白十字の中に赤いHを描く。これで普通のヘリポートと区別し、病院ヘリポートであることが明確になる。白十字の周囲の色は決まっていないが、FAAのマニュアルには「RED BACKGROUND(OPTIONAL)」と書いてあるが、眼がくらみそうな色である。

 

 

5 病院ヘリポート設置の手順と費用 

作 業 工 程

作   業   内   容

基本計画

適地選定、就航機種の検討、施設規模の検討など。(200〜300万円)

整備計画

航空局との協議・調整、環境に関する調査、地元対策資料の作成協力(300〜400万円。ただし環境調査は含まない)

基本設計

設計図、申請用図書の作成と検討(300〜400万円)

申請手続

運輸省航空局への許認可手続き全般、ならびに建築基準法、消防法などの申請協力(400〜500万円)

建設工事

建設会社が施工

供用開始

完成検査、合格通知を受けて供用開始となる。

 なお、ヘリポートの設置にあたっては、関連する法規に従い行政機関と個別に調整する必要がある。航空局への対応を想定すると、病院内に専門スタッフ・チームを置くか、航空に関する専門業者に依頼する方法があるが、後者の方が現実的と考えられる。

 環境に関する条例は自治体によって異なる。環境アセスメント(影響評価)を要求される場合は、それだけで1年以上、3,000〜5,000万円の費用が発生する。これも専門業者による協議、調整によって適用を外せることもある。ただし東京都と神奈川県は不可欠である。

 また近年は、条例がなくとも地元への対応のため実機による調査を行い、説明のためのデータを収集したうえで、地元の納得を得ながら設置されているヘリポートも多い。 

 

 

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