市ヶ谷ヘリポート見学の記

 

 一昨19日、市ヶ谷ヘリポートを見学する機会があった。防衛庁本庁舎屋上に設けられたヘリポートである。

 その内容をここに書くと、国家の軍事機密を漏らしたということになるやも知れぬが、写真とともに掲載しておくので、もし機密に触れるようならば、本頁は見なかったことにして、他言無用に願っておきます。

 防衛庁正門付近から見た本庁舎。19階建ての建物の上に、写真で見るような緑色の部分が置かれて、そこがヘリポートになっている。門柱も建物と全く同じデザインで、感心させられる。ちょっとしゃれ過ぎではないかとも思うが。

 屋上ヘリポート面の高さは地上90m。海抜にして120mだそうである。

 先ほどからローター音が響いていたので注意していると、案の定、チヌークが飛び立った。上の写真でいえば左右に一つずつ、すなわち東西方向に2面のヘリポートが並ぶ。チヌークは、その東側のヘリポートから、南に向かって離陸したことになる。こうした離着陸回数は、昨年1年間に150回だったとか。 

 19階から階段を上ってゆくと、屋上に出る。ただし見学者は外へでることはできず、ヘリポート管理室の窓から左右2面のヘリポートを見せて貰った。上の写真は西側のヘリポートで、遠くに東京都庁が見えている。

 ヘリポートの大きさは45m×45m。四方には柵がめぐらしてある。

 ところが、東側のヘリポートを見ると柵がない。これは先ほどチヌークが飛び立ったところで、普段は人の乗降時を含めて柵があるが、離着陸のときは柵を下げて障害物をなくす仕組みである。柵の上下に使う動力は油圧。照明灯も油圧で上下するらしい。

 昔、昭和34〜38年に池袋の西武百貨店屋上にヘリポートがあったときも、同じように周囲を金網を張った柵で囲み、離着陸の際は電動で倒す仕組みだった。倒れた柵は屋上から外へ張り出すようになっていたが、その柵の上に柔道の受け身のような恰好で、身体をあずけるようにして跳び降りたのが、完成検査にきた航空局の楢林寿一補佐官であった。ご自分の体重をもって、金網の安全を確かめたのである。

 ついでに、もう一つつけ加えると、昭和38年頃、西武百貨店の屋上で遊覧飛行をする話が持ち上がった。しかし不時着場が取れないために、万一のときは同じヘリポート内に着陸できるような飛行方式を考えた。それも楢林補佐官のアイディアではなかったかと思うが、幸いあの建物は150mほどの長さがある。そのため当時の朝日ヘリコプターではベル47のエンジンを空中で止め、ストップウォッチで沈下率や前進距離を測り、8ミリ映写機で計器板を記録するなどの実験飛行をしたこともある。今でいうカテゴリーAの飛行方式を、レシプロ単発のベル47で開発しようとした進取の気性であった。

 だが昭和38年6月だったか、百貨店が休みだった木曜日、売り場の模様替えの工事中に火が出て火事になったために、屋上ヘリポートまで閉鎖することになった。遊覧飛行も実現しなかったが、ヘリポートの閉鎖は、無論ヘリコプターには何の罪もない。それどころか屋上に逃げてきた店員や工事の人を、ヘリコプターで立教大学のグランドまでピストン輸送で避難させるなどの活躍をした。

 防衛庁市ヶ谷ヘリポート管理室からは、北の方に池袋のサンシャインビルが見える。

 このヘリポートでは、着陸誘導のためにHAPI(Helicopter Approach Path Indicator)が設置されている。それがどこの製品かは聞きもらしたが、デボア社のPLASI(Pulse Light Approach Slope Indicator)ならば、赤と白の灯火が昼間は9キロ先から、夜間は35キロほど先から見える。

 その灯火を見ながら、ヘリコプターは進入してゆくわけだが、進入角度が正しければ白い灯火が見える。それが点滅するときは角度が高い。下がり過ぎると赤い色になり、もっと下がると赤の点滅に変わる。

 市ヶ谷では、この進入角度が3°に設定されている。飛行機とは違うのだから、進入角はもっと深くてもいいのではないかと思うが、いろんな理由があるらしい。

 方位は南北方向だと思うが、この灯火で誘導されると、安全にヘリポートへ進入することができる。それにヘリコプターの進入経路を正確に定めることができるので、学校や病院の上空を避けたり、気象条件が多少悪くても高い建物や塔などを確実に避けることができる。

 もっと進んで、ポイント・イン・スペース進入と組み合わせるならば、計器進入の安全性をさらに高められるのではないかとも思うが、どうだろうか。値段は、誰かが1,500万円といったが、ちょっと信じられない。ぼんやりした記憶では100万円もしなかったような気がする。

 なお、ヘリポートの離着陸にかかわる気象条件は通常の有視界基準。風は最大40ノット。シーリングは600mである。日没後は原則として発着しない。ただし月に1回くらいは夜間の発着もあるらしい。

 また東西2面のヘリポートで同時に発着することはない。どちらかに1機がいるときも、反対側に別のヘリコプターが降りることはないという。おそらくは周辺住民への騒音の影響を考えて、2機同時にヘリポートを使うことはないようにしているのだろう。

(西川 渉、2005.7.20)

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