<JA2008>

横浜で見たヘリコプター

 航空ショーといえば戦闘機や大型旅客機が主役である。ところが10月初め、横浜で開かれた国際航空宇宙展JA2008はヘリコプターの展示が目立った。大きな飛行機は持ちこむわけにはゆかないが、ヘリコプターは実機が展示できる。それだけ迫力も違ってくるのは当然であろう。

NH90ウェポン・システム

 今回、最も迫力があったのはユーロコプター社の大型ヘリコプターNH90で、会場の真ん中に重量感いっぱいに置いてあった。もっとも胴体は全複合材製、操縦系統も4軸自動のフライ・バイ・ワイヤで、自重はきわめて軽くなっている。

 また、これはヘリコプターというより「ウェポン・システム」と考えてもらいたいというのが同社の説明であった。胴体内部が広く搭載量が大きいからといって、単なる輸送用ヘリコプターではない。陸海空のそれぞれの軍があらゆる作戦に使う兵器システムだからで、対潜水艦作戦、対空作戦、戦術輸送、捜索救難、負傷兵搬送などの多目的機能をもつ。

 総重量は11トン。有効搭載量はおよそ4トンで、完全武装兵員14人を乗せて450kmの前線へ飛び、弾薬や食糧ならば2トンを積んで900km近く飛ぶこともできる。

 この導入を予定しているのはNATO諸国ばかりでなく、オーストラリア、ニュージランド、それに中東のオマーンを含めた14ヵ国。受注総数は現在507機だが、仮注文も勘案すると、いずれ1,000機になる見込みとか。最近までの引渡し数は35機と聞いた。

 開発と生産にあたってるのはNHインダストリーズ社。ユーロコプターとアグスタウェストランド社の合弁で、NHとはいうまでなくNATOヘリコプターの略だが、これが「ニッポン・ヘリコプター」の略になることを期待したいというのがユーロコプター社のフィリップ・アラシュ上級副社長の結びであった。


NH90ウェポン・システム

ベル429軽双発ヘリコプター

 次の実機はベル429。日本へは初めてのお目見えである。今年は2月の米ヒューストンで開かれた国際ヘリコプター協会(HAI)の年次大会、5月のプラハで開催された国際航空医療学会AIRMED2008、7月のファーンボロ航空ショーと、世界各地で実機を披露しながら、横浜にやってきた。

 総重量は3,175kg。機内はコクピット2席のほか、主キャビンが最大6席。社用ビジネス機としては座席を大きくして4席としたり、救急機としてはストレッチャー2人分の搭載が可能。

 後部の貝殻ドアは特殊なヒンジがついて、左右に大きく開き、ストレッチャーの搭載も容易にできる。開閉操作もきわめて軽い。

 その際、尾部ローターが心配という声もあるが、実際は患者の出し入れに際してはローターを停めるのが原則。しかし例外もあろうという心配をなくすために、尾部ローターの周りを大きく囲うような枠組みが取りつけられた。筆者がプラハで見たときはついてなかったが、この枠が奇妙に曲がった形をしているのは、ローター推力への影響など空力的な計算をした形状だからであろう。操縦系統は3軸の自動装置がついて、パイロット単独の計器飛行も可能。

 ベル社では、このモデル429を、ビジネス機、救急機、石油開発支援機、警察機などの分野で小回りのきく使い勝手のよい軽双発ヘリコプターとして売り出すことにしている。目下3機の試験飛行が続いており、飛行時間は1,260時間に達した。10月中に4番機、11月に5番機も飛んで、来年初めには型式証明を取る予定。最近までの受注数は330機に達する。


ベル429のテールガード

A109パワーとグランド

 アグスタウェストランド社はA109パワーの実機とグランドのモックアップを展示した。

 A109は日本でも機数が増えた。今年は警察機として5機増加し、2008年度末には21機が飛ぶことになる。その他の機体も合わせると、輸入総数は27機になるらしい。

 グランドはパワーをひとまわり大きくして、出力を上げたもの。キャビン内部も大きくなり、ドアの開口部も広がって、救急機としてはストレッチャーの出し入れが楽になった。後部の荷物室も驚くほど大きく、中を覗くと予備の2人目のストレッチャーがそのまま入れてあった。

 なおスイスのREGAは長年エンジン出力を上げたA109K2を使ってきたが、新たに独自の改良をほどこしたグランドを購入することになった。この機種選定の経過は今年5月プラハで開かれた国際航空医療学会で聴いたが、アルプスの高い山で使うためにホバリング高度性能の向上に重点を置いて評価試験を繰り返した結果、内装とアビオニクスを改良して空虚重量を軽量化することになった。

 これを、REGAは確定11機、仮4機発注し、来年2月から毎月1機ずつ受領するという。


グランド救急機の内装モックアップ
意外に大きなキャビンを持つ

ドクターヘリとGHクラフト

 ユーロコプターEC135も実機が展示された。ドクターヘリの完全装備をした機体で、一般公開日には多くの人に「空飛ぶICU」の頼もしさを実感してもらえたであろう。

 ドクターヘリは最近にわかに全国各地で導入の機運が高まってきた。現状は14機が飛んでいるだけだが、厚生労働省は来年度末までに24機とする予算を要求している。最終的には各都道府県に1〜2機ずつ、合わせて50〜70機の配備が、1日も早く実現することを期待したい。


ドクターヘリの装備をしたユーロコプターEC135

 

 もうひとつ見かけたのは、GHクラフトと呼ぶティルトウィング無人機。全長1.8m余の胴体前後にスパン1.8mの翼を取りつけ、4つのローターがつく。これで、翼を垂直に立てて離陸し、前方へ水平に倒しながら巡航飛行に移るというもの。総重量30kg、ペイロード5kgで、巡航100km/h、最大150km/hの速度性能を持つ。航続飛行時間は最大1時間。

 地上から無線で操縦したり、あらかじめ組みこんだプログラムによる自律飛行もしている。調査飛行や災害時の偵察飛行など、さまざまな用途が考えられる。

 最後に、帰宅してプログラムを見直していると、柳沢源内さんのHー4ヘリコプターも展示されていたらしい。この1人乗りの独創機は「世界最小の有人ヘリコプター」として、今春ギネスブックに登録された。その実機を見逃し、レオナルド源内さんにもお目にかかれなかったのは心残りであった。


ジーエイチ・クラフト社のティルトウィング無人機GHクラフト

(西川 渉、『エアワールド』誌2008年12月号掲載、2008.10.19)

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