2段階遅れの救急システム


  

 日本の救急システムは世界最高水準をゆくものであった。今でも119番の電話1本で、救急車はいやな顔ひとつ見せず、どこでもいつでも駆けつけてくれる。もちろん料金は取らない。そのための救急車は全国で4千数百台。常に待機の体制をとっていて、国民の目から見ても、きわめて信頼性の高い活動をしている。

 だが、世界に目を転じると、日本はいつの間にか、先進諸国――場合によっては発展途上国からも追い越されてしまったのではないだろうか。理想の救急システムからすれば、日本の現状は2段階遅れといわざるを得ない。

 遅れの第1は医師が現場に行かないことである。もしも医師が行かないのであれば、それに代わるものとして、米国の制度に見られるようなパラメディックやフライト・ナースが出て行く必要がある。日本にも救急救命士の制度があるが、これは米国の制度とは似て非なるもので、余りにも制約が多すぎる。

 遅れの第2は、医師またはそれに代わるものが現場へ急行するための手段がないことである。ヘリコプターはもちろんのこと、仮にヘリコプターでなくても乗用車やバイクのようなハイスピード・カーすら用意されていない。

 救急車は患者輸送のための手段である。それに医師が乗って現場に行くのが上述の第1段階だが、第2段階としては大きな救急車で渋滞をかき分けて走るのではなく、もっと小回りのきく乗用車やバイクを使って高速で走る必要がある。救急車は、そのあとから、現場治療が終わる頃までに到着すればいいのである。

 もはや10年も前のこと、サンディエゴでおこなわれた実験では、医師が救急現場に飛んだ場合とパラメディックが飛んだ場合では、前者の救命率が後者の1.5倍であった。同じような結果は、ほかにもいくつもの統計に見ることができる。

 これらの問題は、もとより医師個人の仁術や倫理の問題ではない。医療制度と救急システムの問題である。われわれは今の2段階の遅れを取り戻し、世界に先駆けて理想の救急システムを作り上げる必要がある。

(西川渉、第4回日本エアレスキュー研究会一般演題の要約、97.8.13


[注]第4回日本エアレスキュー研究会は、日本医科大学救急医学教室の主催により、来る11月7日、東京四谷のスクワール麹町にて下記の要領で開催される。

日 時:199711月7日(金)08301700

場 所:スクワール麹町
 □特別講演「スイスにおけるエアレスキューの現状」(REGA)

 □シンポジウム「消防ヘリコプターによる救急輸送の展望」
  (各地域の消防ヘリコプターの搬送状況と救急医のコメント)

 □プレゼンテーション「救急搬送ヘリコプターの機種別特徴」
  (メーカー各社の救急用ヘリコプターの内容紹介)

 □一般演題(航空機、ヘリコプター、国際搬送など、患者搬送に関する報告と研究発表)

 □懇親会:11月6日(木)18002000時(於スクワール麹町)

主 催:会   長 大塚 敏文(日本医科大学名誉教授)
    準備委員長
辺見  弘(国立病院東京災害医療センター)
    連 絡 先
吉田 竜介(日本医科大学高度救命救急センター TEL03-3822-2131 FAX03-3821-5102  E-mail : rescue-office@nms.ac.jp
    事務局長
 神田橋宗行(社団法人 日本交通科学協議会           TEL03-3264-5481 FAX03-3264-5482


 なお日本エアレスキュー研究会は、救急専門医を初め、航空および医療関連の商社、メーカー、航空会社、保険会社などが参加し、わが国におけるエアレスキューの実現をめざし、約150の会員を擁して活動を続けています。会費は法人会員が年間50,000円、個人会員は年間2,000円。研究会へのご参加を歓迎いたします。


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