<日本航空医療学会>

ドクターヘリの出動実積

 平成17年度の厚生労働科学研究「ドクターヘリの実態と評価に関する研究」(益子邦洋ほか、2006年3月)が公表された。

 2005年度1年間の出動件数は、表1のとおりドクターヘリの拠点10ヵ所を合わせて4千件余り――1ヵ所400件以上となった。そのうち現場出動は67%と、ほぼ3分の2である。また病院間搬送は25.6%で4分の1。残り7.4%が途中キャンセルであった。

 ヘリコプターがいったん離陸したものの、途中で不要ということになってキャンセルされるのは、決して珍しいことではない。一刻を争う救急業務だけに、患者の容態をゆっくり丁寧に診ている暇はない。咄嗟の判断でドクターヘリの出動を要請するのは当然であろう。したがって、ヘリコプターを呼んだあとでよく診ると、意外に患者の状態が良かったということもある。といって、この判断を余り慎重にしすぎると手遅れになりかねない。

 こうした途中キャンセルの比率が、欧米では平均15%程度が適当とされている。その点からみれば、日本は半分程度だから無駄な飛行が少なかったといえばその通りだが、この比率が多少上がっても、全体の出動件数がもっと増えることが望ましい。とりわけ多重衝突のような交通事故の場合、本報告書も述べているように、詳細な状況が判明しなくとも、直ちにヘリコプターを呼ぶべきであろう。

 ドクターヘリの出動要請に当たる現場の救急隊員、あるいは119番の電話を受ける消防本部の皆さんには、もっと積極的にドクターヘリの出動要請を出していただきたいものである。

表1 2005年度ドクターヘリ出動実積

 

出動件数

現場出動

施設間搬送

診療人数

キャンセル(比率)

北海道

261

130

85

269

46(17.6%)

千葉県

668

568

93

669

7(1.0%)

神奈川県

396

364

30

401

2(0.5%)

静岡県東部

497

207

282

493

8(1.6%)

静岡県西部

538

375

35

422

128(23.8%)

長野県

190

141

37

174

12(6.3%)

愛知県

395

277

41

340

77(19.5%)

和歌山県

341

226

108

334

7(2.1%)

岡山県

437

231

203

437

3(0.7%)

福岡県

375

226

135

365

14(3.7%)

合  計

4098

2745

1049

3904

304(7.4%)

構成比(%)

100

67

25.6

――

7.4

 もうひとつ、表1の診療人数は3,900人余であった。診療の内容と転帰の統計は出ていないが、「脳出血、脳梗塞、クモ膜下出血などの脳卒中、急性冠症候群や急性大動脈解離などの循環器疾患、そして重度外傷に対する救命救急医療のツールとして、ドクターヘリは必須のものであることが明らかになった」とされ、その効果は「従来のドクターカーにくらべて遙かに大き」く、病院間搬送でも大きな役割を果たしている状況が、この研究報告書に書かれている。ただし、その割合は表1のように25%でしかなく、たとえばアメリカの7割前後にくらべて非常に少ない。このあたりも今後、増加に向かうべきであろう。

 表2はドクターヘリの出動累計である。ドクターヘリの本格的事業が始まったのは2001年度だから、この表は1999〜2000年度の試行的事業の実積も含んでいる。これらの全てを合わせた累計は、7年間で15,000件に近い。

表2 ドクターヘリ出動累計

年  度

1999

2000

2001

2002

2003

2004

2005

累 計

岡山県

98

181

204

429

446

437

437

2232

神奈川県

87

398

0

264

387

398

396

1930

静岡県西部

117

248

516

560

455

496

538

2930

千葉県

 

 

121

461

571

669

668

2490

愛知県

 

 

32

384

462

389

395

1662

福岡県

 

 

1

129

302

299

375

1106

和歌山県

 

 

 

35

265

334

341

975

静岡県東部

  

 

 

 

 

423

497

920

北海道

 

 

 

 

 

 

261

261

長野県

 

 

 

 

  

    

190

190

合 計

302

827

874

2262

2888

3445

4098

14696
[注]1999年度と2000年度は試行的事業の段階、2001年度から本格的ドクターヘリ事業開始

 拠点数は10ヵ所になったが、無論まだ充分とはいえない。ドイツではご承知のとおり、1970年にヘリコプター救急が始まった。それが今の日本のように10ヵ所になったのは4年後――73年のことである。そして7年後の76年には22ヵ所になっていた。日本の現状にくらべて2倍以上の普及ぶりである。

 当時のドイツの出動実積は不明だが、今の出動状況からすれば、拠点1ヵ所あたり日本の2倍くらいは飛んでいたであろう。これに拠点数を掛け合わせれば、ヘリコプター救急開始から7年間の診療患者数、もしくはシステムとしての普及ぶりは4倍以上だったと推測される。

 こうしてみると、日本のドクターヘリはドイツに遅れること30年というが、単に開始時期が遅れたばかりでなく、開始後の内容の進展ぶりは4分の1でしかない。今のままでは、彼我の差はますます広がる恐れがある。

(西川 渉、『日本航空医療学会ニュース』No.3、2006年7月25日付け掲載) 

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