両親を乗せてくるヘリコプター

 

 先週、7月16日夜、飛行機事故を起こしたジョン F.ケネディJr.は幼時からパイロットにあこがれていた。とりわけヘリコプター・パイロットか宇宙飛行士になりたかったらしい。

 というのはホワイトハウスに住んでいたとき、いつも前庭の芝生にヘリコプターが着陸し、そこから両親が降りてくるのを見ていたからである。彼にとってヘリコプターは特別の存在だったと「ニューヨーク・タイムス」紙(7月20日付)が報じている。

 しかし実際に自家用ライセンスを取ったのは固定翼機で、1998年4月のことであった。したがって、まだ1年余の経験しかない。

 金曜日の夜、いとこの結婚式に向かって、ケネディ・ジュニアが操縦していたのは6人乗りのパイパーサラトガUHP(ハイ・パフォーマンス)単発機。乗っていたのは、自分自身のほかに3年ほど前に結婚した妻と、その姉だった。

 事故のもようは、無論まだはっきりしないが、機材の故障か操縦者の方向感覚喪失か。とにかく通常の10倍、毎分4,700フィートの降下率で、激しく海面に突っ込んだものと見られている。最後の14秒間はレーダーの記録に残っており、午後9時40分、機影は高度1,100フィートで画面から消えた。ニュージャージー州フェアフィールド空港を離陸してから1時間後のことである。

 1963年11月、暗殺されたケネディ大統領の葬儀に際して、棺(ひつぎ)に敬礼する幼児の姿は人びとの涙を誘い、私も35年間忘れることができなかった。しかし今、その本人も悲劇に見舞われた。

 ホワイトハウスの衛兵に守られながら、ヘリコプターから両親が降りてくる。それを子供たちが出迎える。あの華麗でにぎやかな光景はついこの間のことだったが、今どこへ行ってしまったのか。

(西川渉、99.7.20)

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