ケネディ一族の航空事故

 ケネディ家には何故あれほど次々と悲劇が起こるのか。何かにたたられているのではないかという人がいる。それに対して、7月26日夜のNHK-TV「クローズアップ現代」では、あの一族はベンチャー・ビジネスならぬ「ベンチャー・ポリティックス」とでもいうべき傾向があるからではないかという意味の解説があった。

 ただし解説者の猿谷要先生がこんなヘンな言葉を使ったわけではない。言いたいことは政治的、社会的にきわどい場面で、ふつうの人ならばしり込みするようなとき、ケネディ一族は逆に一歩前に出てゆくのだそうである。

 だから暗殺されたケネディ大統領の長兄、ジョセフ・ケネディ(1915年生)が1944年8月8日、第2次大戦中の軍隊にあって危険と見られた秘密の爆撃任務に参加、搭乗した爆撃機が空中爆発で死亡したのも同じ精神から出たものらしい。享年29歳であった。

 ケネディ家を襲った次の航空事故は1948年5月13日、大統領の妹のキャサリンを死亡させた。彼女は母親の反対を押し切って、勘当の宣告を受けながら妻子ある人と駆け落ちの途中、2人の乗った小型機が山にぶつかったのである。享年28歳。

 また上院議員のエドワード・ケネディも1964年、飛行機の事故で怪我をしている。そして今回、ケネディJrなど一族の3人が、またしても航空事故に遭遇した。

 航空は、それ自体ベンチャーである。そこからできるだけベンチャー的な要素を取り除き、安全で信頼できる日常的な乗り物にしようというのがこの100年間、航空人のめざしてきた努力目標であった。

 しかし一方では、ベンチャー・スピリットがなければ航空の進歩はあり得ない。だからケネディJrの今回の死出の飛行を、航空の信頼を損なう無謀な行為と見るか、進歩のための犠牲と見るか、私は結論が出せないでいる。

(西川渉、99.7.28)

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