『防災基本計画』は総理大臣を議長とする中央防災会議によって制定され、わが国の『防災憲法』とでもいうべきものである。全国の自治体がそれぞれに作成する「地域防災計画」は、これにならってつくられている。
この基本計画は平成7年夏、阪神大震災から半年後に大きく改正され、平成9年秋にも改正された。しかし下表に見る通り、情報収集、防災担当職員の派遣と参集、緊急物資の輸送にはヘリコプターを使うとしながら、肝心の救助・救急、医療および消火にはヘリコプターも飛行機も使うことにはなっていない。
このことは前にも一度書いたことがある。あのときは平成7年8月4日付けの計画書が売り出された後で、800円で買い求めて読んだところ肝心の問題が抜け落ちている、というよりも故意に抜かしてあるように感じたので、そのことを文章にしたのであった。
当時の中央防災会議の議長は村山首相だったが、それから2年たって昨年夏、今度は橋本首相を議長として計画の見直しがなされた。その改訂版が発行されたのは平成9年6月10日。値段は1,300円に上がっていて、頁数も197頁から377頁へ倍増した。しかし、またしても裏切られたような気になったのは、肝心のところが何にも変わっていなかったからである。
いったい阪神大震災の教訓なるものはどこへ消えてしまったのか。ここに「ヘリコプター」の文字を入れることによって、大災害の人命救助にはヘリコプターを使うことを明確にすべきではないのか。救急や消防にヘリコプターを使わずして、防災計画が成り立つのだろうか。
一方で平成10年3月、「消防法施行令」が改正され、日常の救急業務に救急車と同様、ヘリコプターを使うことが明確にされた。その延長線上に大災害の対策があるはずで、わが国の防災および救急体制を万全なものとするには、この両者の間に齟齬があってはならないだろう。
第1章 災害予防 |
「機動的な情報収集活動を行うため、必要に応じ航空機、巡視船、車両など……を整備すると共に、ヘリコプター・テレビシステム……の整備を推進する」 「被災現場の状況をヘリコプター・テレビ・システム等により収集し、迅速かつ的確に災害対策本部等の中枢機関に伝送する画像伝送無線システムの構築に努めること」 「ヘリポート等の救援活動拠点の確保に努める」 「あらかじめ、臨時ヘリポートの候補地を……指定するとともに、これらの場所を災害時に有効に利用し得るよう、関係機関および住民等に対する周知徹底をはかる」 |
第2章 災害応急対策 |
「国および地方公共団体は必要に応じ航空機による目視、撮影等による情報収集を行うものとする」 |
第2節 |
「ヘリコプター等により緊急に担当官を現地に派遣する」 「災害対策関係省庁の防災担当職員は……交通が途絶した場合には……ヘリコプターの利用等により参集する」 |
第3節 |
「住民および自主防災組織は、自発的に被災者の救助・救急活動を行うとともに、救助・救急活動を実施する各機関に協力するよう努めるものとする」 |
第4節 |
「特に、機動力のあるヘリコプター、大量輸送が可能な船舶の活用を推進する」 |
(西川渉、98.8.12)
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