<小言航兵衛>

国会偽員の死

 一体全体この男、何のために国会議員になったのか。初当選のときから運動員が選挙違反に問われるなどのトラブルを起こし、誰それに買収金を渡すよう指示したのも当選した本人だったそうだが、これじゃあ国会偽員ではないか。

 代議士になってからも牛肉のBSE問題や森林開発など、金の匂いを嗅ぎつけては顔を突っ込み、さまざまな形で国の対策費を出させては懐を肥やしていった。ついには「カネの亡者」と評されたあげく、議員会館の無償である筈の光熱水道費か何かにかこつけて、歳費や手当をごまかす。単純な手口だからたちまちばれてしまったが、これじゃあ代議士というよりも詐欺師である。

 こんな詐欺師みたいな偽員が大臣にまでなったのだから、身辺にわかに騒がしくなった。数合わせのための陣笠議員ならばともかく、大臣ともなれば身辺清廉にして潔白でなければならない。その条件からすれば、どこから見ても怪しげな男である。四方から十字砲火を浴びて、自殺にまで追い込まれてしまった。現場には多数の遺書が残っていたようだが、公表された限りは演説口調の月なみな文字の羅列で、真の人間味はどこにも見られない。冷酷で愛情のない性格は、かねてから秘書や使用人のイヤ気を誘っていた。

 その生涯は政治家というよりも、権力をふるって恫喝をくり返す政治屋だった。権力と金力はもともと両立しない。というよりもさせてはならないのであって、両方とも手に入れようとすると無理が生じて人びとの反発を招く。権力を得たものは身辺を清らかにしておかねばならないし、金や財が欲しければ権威や権力は諦めるべきである。政治屋はそのあたりのことが分からず、分かっていても欲にまかせているうちに倫理観を失う。

 この悪相の男、悪業をもって悪銭を稼ぎ、悪名を高めながら悪夢の生涯を送った末に、悪運つきて悪魔に首を絞められる仕儀と相なった。これで権力を笠に着た悪行と疑惑は全て闇の中に隠されてしまった。現職大臣の自殺は史上初めてなどと、誰もがびっくりしたような顔をして見せるが、内心は政界の大物、すなわち汚物が去ってほっとしているのではないのか。

 任命権者の総理大臣も、こんな男を何ゆえあって大臣にしたのかと責任を問われ、問われるのを避けようとしてかばい続けた、というよりも辞任を許さなかった。その結果、男は土壇場に追い詰められたわけだが、大塵を祓ったという点ではいささかなりとも政治の浄化につながるわけで、むしろ功績といえようか。

 今や「美しい日本」どころか「鬱陶しい日本」の中枢で、同じような腐りきった政治屋どもが、北海道の悪友を初めとして、悪徳代偽士の悪臭をふりまきつつ、そこら中にうごめいているから悪政はまだまだ続くのであろう。


権力と金力を求めてうごめく政治の亡者たち

(小言航兵衛、2007.6.2)

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