<小言航兵衛>

社会主義的官僚独裁体制

 ミヤンマがサイクロンに襲われ、犠牲者10万人と伝えられる。これは大変だと思っていたら、今度は中国で大地震が発生、これまた死者何万という被害である。そのため世界中が救援しようとして、金銭、物資、人員派遣などを申し入れたが、金銭や物資は貰うけれども人手は不要らしい。人手といっても単純労働ではなく、専門的な高度救助や救急医療なのだが。

 そこでようやく、発災から3日を過ぎて中国だけは日本の人的支援を要請してきた。内実は両国ともに社会主義、共産主義の特殊な閉鎖国家で、真の姿を国外に知られたくないのであろう。文字通り救いようのない国だと思いながら『北京大学てなもんや留学記』(谷崎光、文芸春秋、2007.6.15)を読んだ。

 著者は女性。2001年から留学したときのもようが書いてある。その中に日本からのODA(政府開発援助)が話題になり、先生が「そんなことは聞いたことがない、あっても単なる民間の合作だろう」と言い切った話が出てくる。中国最高学府の教師ですら知らないのは、中国政府が日本からの援助を国民に隠しているためである。金や物は貰いたいが、恩義はこうむらないというのが彼らのメンツとやらで、自然災害で何万の国民が死のうと、為政者にとっては権力の確保こそが重要なのである。

 もっとも、わが阪神大震災のときも、がれきの下の被災者を探し出すために、スイスの犬が救援に飛んできたが、動物検疫を理由に入国を拒否して世界中からひんしゅくを買った。また、当時の兵庫県知事はアメリカ海軍から横須賀にいた空母を神戸港に派遣し、けが人をヘリコプターで救助し、空母の中の病院で手当てをするという提案を受けながら、これを拒否した。軍艦の中に外傷治療の施設と医師がそろっていることは、その戦闘任務からして当然のことである。

 こうした事実から、日本にもミヤンマや中国のような官僚統制をやりたがる社会主義的体質があることは否定できない。これら独裁的な立場にいる連中にとっては、国民や住民の生命や生活がおびやかされても何ら痛痒は感じないのである。

 中国政府は、この20年間、徹底して反日教育を進めてきた。それというのも天安門事件で片鱗が見えたように、国民から攻撃の矛先を向けられてはひとたまりもないので、国民が日本を好きにならぬようにし向けておかなければならない。

 そのため反日精神を叩きこまれ、洗脳された今の20〜30歳代の国民は、日本政府が「あれだけ中国人をいたぶり殺しておきながら、謝りもせず賠償金も払わず、首相は東条英機の墓に参拝して仇討ちを誓ってる」と思いこんでいる。その若者たちをあおり立て、「打倒日本」とか「日本製品ボイコット」などのデモをさせるのも、過酷な貧困の中で生きている人びとの憤懣を発散させる手段なのである。

 テレビも連日「侮日、嫌日」をあおり立て、残虐な日本軍とそれに抗する中国軍の勇敢な戦争ドラマをつづけている。日本人の呼称も「日本鬼子」(リーベングイズ)だそうである。

 こうした嘘は新聞にも多く見られる。著者によれば中国の潜水艦が日本の領海を侵犯したときも、新聞は逆に「日本が領海侵犯」とか「日本のミサイルは中国に向けられている」と書き、上海領事館の通信員が自殺したときは「ストレスによる過労死。それを日本側は中国の謀略に仕立てた」と書いたとか。そういえば先日の毒入りギョーザ事件も理屈抜きに否定し、まるで日本側の謀略のごとき主張が見られた。

 これに対して、官僚独裁の日本政府は今どんな手を打とうとしているのか。日中の独裁同士が言わず語らずのうちに有耶無耶に終わらせようとしているのではないのか。事実、2002年秋から2003年にかけて中国でSARS(重症急性呼吸器症候群)が発生したときも、世界中が中国政府の発表する患者数を疑い、安全の確保を求めていたにもかかわらず、日本の阿南惟茂大使だけが「私は中国政府の発表した患者数を信じます」とゴマスリ発言をしたことがある。

 こんな売国奴のような外交官がいるのに対し、2006年10月安倍首相の訪中では中国メディアの日本叩きがやや弱まった。著者の接する人びとの態度や表情にも微妙な変化があり、食堂の女の子は何もいわず勝手に大盛りにしてくれたという。

 この現象は安倍が中国にぺこぺこしたからではない。むしろ、その逆だったためで、それについては『日本と中国は理解しあえない』(日下公人・石平、PHP、2008年4月17日刊)の中に要旨次のような話が出てくる。

 石平「安倍政権の誕生によって、私は本当の意味で日本が外交理念と外交戦略を持つことになったと思います。わずか1年で終わってしまいましたが、あの外交をあと何年かやれば、日本も正常な国になるし、中国もまともな国になったはず……」

 日下「中国に対して強硬な姿勢を取る安倍政権こそ、中国政府から大事にされていた。それが外交です。台湾の李登輝さんの訪日問題でも温家宝首相の要求を拒否して、一切譲歩せずに実現させた……」

 石平「日本と中国がケンカをした方がいいなどと勧めるつもりはありませんが、言うべきを言い合わないと本当の安定した関係はつくれない」

 日下「日本人の勝手な思いこみは向こうに通じていません」

 石平「福田首相になってから東シナ海のガス田開発問題で、中国はもし日本が試掘したら軍艦を出すぞと脅してきました。安倍政権に向かっては口が裂けてもそんなことはいえなかったが、福田首相は最初から全面降伏したためにそう言われてしまった。つまり『私は友人が嫌がることはしない』などとして靖国神社に行かないと言った途端、もうなめられる立場になった。自ら降伏したのです。靖国参拝をやめれば日中関係がうまくゆくというのは、中国にとってうまいだけの一方的な優劣関係なのです」

 日下「軍艦を出すぞといわれたら、こちらにも軍艦があるぞと言いかえさなければいけない」

 石平「安倍政権の時代ならば、そう言いかえしたでしょう。だからといって中国が軍艦を出せるわけがない。こちらが一歩でも譲れば、向こうはつけこんできます。中国は相手が少しでも弱いところを見せると、どんどん押してくるのです」

 そういえば先日、胡錦濤来日に際し、歴代の総理経験者が朝食会を開いた。そのとき胡錦濤に対し、ほかの人がおべんちゃらを言ったかお世辞を言ったかは知らず、安倍元首相だけは「チベット問題を懸念する」と発言したらしい。

「北京オリンピックを前にチベットの人権状況を憂慮している。ダライ・ラマ側との対話再開は評価するが、オリンピック開催でチベットの人権状況が改善される結果が出ることが重要だ」とクギを刺した。さらにウイグル問題にも触れて、東大留学中に一時帰国して逮捕されたトフティ・テュニアズさんが「無事釈放されることを希望する」と述べたというのである。

 胡錦濤はトフティ問題については「知らなかった。しっかりした法執行が行われているかどうか調べる」と応じたが、チベット問題には答えなかった。このとき会場には気まずい空気が流れたというから、元総理の中には「安倍は中国に対して頭(づ)が高い」と思った人がいたかもしれない。しかし、この程度の発言は当然のこと。政権を途中で投げ出した安倍さんだが、ここでは拍手と共に見直したといっておこう。

 折からテレビ・ニュースが1年間に1人で490万円ものタクシー代を使った関東建設局の不祥事を報じた。建設本省はこれを隠蔽するよう指示したというから、日本の官僚も中国やミヤンマが外部からの支援を拒むのと同じ体質なのである。

(小言航兵衛、2008.5.16)

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