<小言航兵衛>

乗っ取られる日本

 鳩が豆鉄砲を食らったようにキョトンとしている間に決まったのが、ゆうちょ銀行の預入限度額を2千万円に引き上げる郵政改革法案であった。

 これは、しかし、本当は豆鉄砲ではなくて大砲であった。大きな音を立てて飛びこんできたのが亀井砲丸であり、それを撃ったのが小沢である。そこにこめられた火薬は、日本郵政社長の元大蔵省、斉藤何樫にほかならない。

 この3人組が日本の財政を壟断し、強大な権力を手中にしようというのだ。そうなれば小沢の独裁体制は、民主党の中だけでなく、政界も財界も彼らの足もとにひれ伏し、国民はただもう朝三暮四のサルのようにごまかされ、働かされるだけのことになる。

 それにしても、閣僚懇談会に出た閣僚たちの無為無策は何たることか。何を懇談したのか知らぬが、腰抜け連中の出した結論が「首相一任」とは自らの無能無気力を表明しただけのことである。

 新聞には無責任と書いてあったが、責任感などはテンからなかったであろう。そのうえ一任された首相も目をパチクリするだけで、どうしていいかわからず、独裁者の案をそのまま鵜呑みにしてしまった。これを鵜の真似をする鳩という。

 われわれは今、恐ろしいシナリオが進みつつあることを知らねばならない。いずれ日本は、毛沢東やスターリンの時代に見られる中共やソ連のような国に堕してゆくであろう。

 そこでは、一切の資金源を独裁者に握られ、国民はその分け前を待つだけのことであった。しかし、そういう国を理想としてきたのが社会党や労働組合であり、その残渣が今も似たような思想をもって民主党を形成し、支持団体となっている。彼らは、いよいよ我が世の春がやってきたとほくそ笑んでいるにちがいない。

 それを利用しているのが上の3人である。みずからの権力を確保するには、国家の理想もイデオロギーも知ったことか。利用できることは何でもありの権謀術数をめぐらしているのだ。

 対する自民党も何たる体たらくか。執行部はなすすべを知らず、呆れ諦めた連中が党を跳びだして行った。

 残された自民党も、看板の色合いを論じるしか能がない。いかに総裁の首をすげ変えても、羊頭狗肉では人は買ってくれない。問題は肉の中味である。

 今ここで自民党が独裁指向の民主党を葬るには、減税による景気回復こそが最良の手であろう。法人税を引き下げ、所得税を一律にすることである。

 民主党や官僚たちの底流にあるのは、共産主義に発する社会主義だから、国民の稼ぎは自由な処分を許さず、税金として取り上げ、あとで独裁者が官僚制度を利用しながら自分たちの好きなように分け与える。したがって自由にやらせておけばすむようなことまで、いちいち政府が口を出し、福祉だの何だのと恩着せがましく与えようとする。

 これでは、小さな政府も大きくなってしまい、支出がかさんで国債が増え、税金も上がるのは当然。世の中ますます疲弊してゆくであろう。

 逆に法人税を下げたらどうなるか。一挙に企業が元気になるから、雇用が増えて失業者が減り、世の中が活気づいて景気が回復し、企業の利益が出るようになり、最後は税収が増えるという結果にゆき着く。

 このことは航兵衛のような素人が云うのではない。歴史的にも多くの国々で実証されている。詳しくは『増税が国を滅ぼす』(村井章子訳、日経BP社、2009年7月刊)を読んで貰いたい。少なくとも政治家諸公は熟読する必要がある。

 実に面白い本である。この本の中の数字をそのまま引くと、2007年の法人税率は、日本が39.5%でアメリカの39.3%と共に高い方の筆頭に並ぶ。しかるに民主党の理想とする社会福祉国家、スウェーデンやノルウェーはどちらも28%、デンマークは25%であった。イギリスも30%でしかない。

 税率を上げたからといって、国の税収が増えるわけではない。税金が高いと、企業はこれを減らすために違法すれすれのところで、時には違法してまで所得隠しをしようとする。あるいは政治家と結託して、献金や脱税に精を出すからで、これは民主党独汚沢患痔腸のキナ臭い周辺を初め、多くの政治家に見られることである。

 逆に、ケネディ大統領の当時は、減税によって税収が増えた。失業率も下がって、「アメリカ史上最も大幅な減税に続く驚くべき税収増は、減税を推進した当の政治家ですら驚いている」と1966年のUSニューズ・アンド・ワールド・レポート誌が書いている。

 ところが、最近のカリフォルニア州は役者上がりのアーノルド・シュワルツネッガー知事が住民の人気とり政策ばかり続けた結果、近年は破産状態に陥った。たとえば生活保護の給付条件をゆるめ、最低賃金を引き上げたために、州の財政支出が増えた。

 そこで今度は高所得者への累進課税を引き上げた。すると金持ちがカリフォルニア州から外へ逃げ出し、企業も閉鎖になって景気が悪化し、却って税収が減る結果となった。同時に企業閉鎖のために失業者が増え、その生活を保護するために州政府の出費が増えた。そればかりか、他の州からもカリフォルニア州の有利な生活保護を求めて困窮者が移転してくるので、ますます財政赤字が増えたというのである。

 民主党のマニフェスト見ると、高所得者を目の敵にして、子育てや授業料の支援といったバラ巻き政策ばかり書いてある。一見良さそうではあるが、行き着く先は毛沢東やスターリンとまではいわなくとも、シュワルツネッガー同様の過ちを犯すことになろう。

 アメリカはカリフォルニア州が破産しても他の州へ逃げ出すことができる。が、日本人は日本から逃げ出すことはできない。われわれはそのことを踏まえて、民主党と、その陰に隠れた3人組が愚民政策や貧困政策によって日本国の乗っ取りをたくらんでいることを忘れてはなるまい。

(小言航兵衛、2010.4.6)

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