<小言航兵衛>

私党政治

 民主党代表選におけるカンさんの勝利は日本にとって良い結果だった、と今週の英エコノミスト誌が書いている。もしオザワが「サプライズ勝利」などしていれば、日本の国民は横っ面に平手打ちを食らったように感じたであろう、と。

 逆に人びとは、カンさんの凱歌によって、国民与論にもわずかながら政治的な力のあることを学んだにちがいない。というのも、この1年間、国民が感じてきたのは民主党に対する失望と、政権交代などさせない方がよかったのではないかという後悔だったからである。

 とはいえ果たして、カンさんに人びとの期待するようなリーダーシップがあるのか、この選挙中の発言を実現することができるのか、いささか心もとない気もする。

 今回の選挙で明らかになったことは、オザワが思ったほど力のないことである。もはや背後から党をあやつる陰の力も失われたのではないか。とりわけ汚泥にまみれたダーティな印象と、説明不足の不透明な実態は、国民に嫌悪感を覚えさせるばかりだ。その子分たちもオザワについてゆくだけでは、自滅の道をたどるほかはないであろう。

 逆にカンさんは、今こそ自分の信念を強く押し出すべきだ。それができる日が来たのである。

 エコノミスト誌の論評はこれだけではないが、以下は航兵衛の見方である。この選挙は民主党が私党に堕落することを辛うじて防いだものであり、その一方でオザワの本質を暴露して見せたものである。

 先ず両候補、カンさんとオザワの得点を下表によって再確認しておこう。 

    

カン

オザワ

国会議員票

412

400

地方議員票

60

40

党員・サポーター票

249

51

合   計

721

491

 この表から見ると、国会議員の支持は両者互角で、オザワの得点もカンさんとの差はほとんどない。けれども、地方議員やサポーターなど投票者との距離が遠くなるにつれて、得点差が大きくなる。つまりオザワは身近な縁故者、すなわち利害関係人にだけ支持されていることを示している。

 オザワのおかげで当選させてもらったとか、権力の座を与えられたとか、公共工事の入札で口をきいてもらったとか、金銭的な面倒を見てもらったとか、さまざまな利益を得た連中である。

 その利得の程度は、地方議員やサポーターなど、縁故の薄くなるほど利害関係も薄くなるから支持者も少なくなる。上の表は、そうした関係を如実に示していて、オザワの政治的な基盤が利害関係だけで成り立っていたことが明白にうかがえる。

 そうではなくて、政治的な構想力があるとかリーダーシップがあるなどという人も少なくないが、本当は「マネーシップ」というべきであろう。先の参議院選挙でも、言うことをきかない静岡には選挙資金を出さないなどと云ったようだが、その資金源は政党助成金で国民の税金だったはず。

 その公金を、民主党は180億円も貰っている。それを当時の民主党幹事長オザワは、あたかも自分の金でもあるかのように、出したりひっこめたりして人をあやつっていたのだ。そればかりか、民主党以前の新生党や自由党の時代には私的な流用をしたのではないかというのが今につながる疑惑にほかならない。

 したがって今回、オザワが党の代表になどなれば、利害関係だけで集まった子分たちが好き勝手な権力を振り回す私党に堕するであろう。しかも国家を背景とする権力を持つだけに、やくざの集団よりたちが悪い。

 テレビや新聞は党三役や内閣の人事で騒いでいるが、誰が何になろうと知ったことではない。しかし、ここで愚図ぐずしていては、カンさんの決断力が問われ、またしても優柔不断とか右顧左眄(うこさべん)といった疑問を招く。オザワの子分どもが忠誠心を見せようというつもりか、挙党一致の約束に反するなどと文句たらたらで走りまわっているが、国民はオザワと子分どもの返り咲きなど望んでいない。人事というものは、どう決まっても不満が残る。どうせ満点は取れないのだから、さっさと決めるべきである。

 民主党の代表選挙が終わった途端に猛暑がゆるんで秋風が吹いてきた。これが爽やかなうちはいいが、たちまち冬の木枯らしにつながって、民主党がオザワ一派の私党に堕することのないよう、カンさんには遠慮することなく頑張ってもらいたい。


謝罪外交もやめよ

(小言航兵衛、2010.9.17)

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