<小言航兵衛>

疎い男

 近頃の政治を見ていると、代議士や役人も含めて、世の中まったく厭になるね。

 やれ子供手当だの、やれ背番号制だの、やれ史上最高の赤字予算だの、やれ消費税だの、やれ年金改革だの、やれ強制起訴だの、ことごとく昔のソ連か少し前の中国か今の北朝鮮か、いずれも共産主義国家を手本にしたような政策ばかりではないか。

 しかも、国会ではろくろく論議もしないまま、「熟議」などと腐りかけたような呪文をとなえるだけで、本心は予算の自然成立を待つという卑怯な姿勢を取る。これが今の民主党政権なのだ。

 彼らがかかる方策をとるのは当然のことで、幹部のほとんどが社会主義や共産主義を信奉する組合活動や市民運動や弁護士・教員活動を経て、運よく権力にたどりついた連中だからである。ここで権力を握ったからには、今こそ日本に共産体制を実現しようというのだから、国民もたまったものではない。

 そのうえ最終的には、日本を中国やロシアに売り渡すつもりで、現にその兆しはあらわれている。政権を取った途端に、代議士140人を引き連れて北京へ朝貢にでかけた汚沢の振る舞いが最初であった。その後、日本を属国と見た中国は武力をもって尖閣列島を占拠し、周辺の石油と海産物をわが物としたばかりか、今や金力をもって日本各地の土地を買いあさり始めた。いずれ本土も彼らの占拠するところとなるであろう。

 そしてロシアも、中国に負けじと北方領土に攻め込んできた。これらの動きを、打つ手も知らずに傍観、というよりも呆菅しているのが今の政府である。

 おまけに、きのうは日本の国債が格下げになったことをめぐって、民間企業の格付けなんぞは知ったことか、論評の外だと云いながら、そのあとで首相が「そういうことには疎いので」と云ったりして、公明党に攻めたてられた。しかし、もともと疎い男を首相にしたのだから、今さら疎いのはけしからんというのもおかしな話で、代議士の中にすぐれた人材がいないのも確かだが、人を見る目がないのも確かである。

 経済に疎くなければ、日本がこんなことになっている筈がないと思ったわけではないが、昨夜なにげなく20年ほど前の江国滋著『寝るには早すぎる』を読み返していたら、「金持ちの行動」という一節にぶつかった。

 日本の景気がバブルの絶頂期を過ぎた頃の随筆なので、今は大方の人が忘れてしまったと思うが、1989年7月の「フォーブス」誌が選ぶ世界長者番付が出てきた。それによると、堤義明が3年連続でトップの座を占めると同時に、ベストテン10人のうち6人までが日本人だというのである。

 日本だって、こういう時期があったのだ。なにも共産国の跡を追って、衰亡の道をたどることもないと思うのだが、政治家も官僚も税金を食い扶持とする連中は、できるだけ多くの税金を巻き上げようと考えるのは当然のこと。人民が富み栄えているのはけしからんという嫉妬心も手伝って、風船に針を突き立てて景気を破裂させてしまった。

 この「金持ちの行動」には、針の一と突きで吹き飛ぶような長者ではなく、本当の大富豪とはどういうものかという話が出てくる。モルガン銀行の創始者ジョン・モルガン、ロックフェラー財閥を築いたジョン・ロックフェラーなど何人かの伝説だが、ロックフェラーの話は次のようなものである。

 さるホテルにチェックインする際、浴室もシャワーもないいちばん安いシングル・ルームを申し込んだ。フロントの係がびっくりしてたずねる。「ご子息にもよくお泊まりいただいてますが、いつも最上階のスウィート・ルームをお使いになります」

「そうだろう」とロックフェラーT世はうなづいた。「息子には金持ちの親がいる。わしには、おらん」

 もうひとつの伝説。テキサスの石油王2人が、レストランで昼食のあと、オフィスに戻る途中でキャデラックのショールームの前を通りかかった。

「あのリムジンが気に入った。ちょっと買ってくる」
「じゃ、おれも買おう」 

 店に入って無造作に「これ、2台くれ」といいながら、初めの男が財布を取り出すと、もうひとりがあわてておしとどめた。
「車はおれが払う。さっき昼めしをおごって貰ったから」

 日本の政治家や官僚も、こうした富豪の存在を認めたうえで、その財力を活用する機会をつくりながら経済を立て直してゆく方策を考えるべきだ。

 現状は富と財産を憎み、私有財産といえども国家の物的資源であるという屁理屈で、金持ちからも貧乏人からも重箱のすみをほじくるようにして税金を絞り取り、死んだ後は相続税を取り立てる。そんな国が繁栄するはずはなく、今後ますます衰亡へと向かうことになるであろう。

(小言航兵衛、2011.1.31)

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