<小言航兵衛>

尖閣防衛

 日出づる国から日没する国へ「尖閣死守を宣言する」のは『尖閣防衛戦争論』(中川八洋、PHP研究所、2013年7月4日刊)である。むろん「死守」が主題であって、中国を攻撃しようというのではない。

 これを間違えて、何もかも自衛隊の手足を縛って攻撃をさせまいとするのが日本のマスコミで、大方の国民もそれでよしと考えている。結果として、領土問題の解決、もしくは侵略された領土の奪還は「外交のみで完遂される」という馬鹿げた勘違いが日本人の考え方をゆがめてしまった。

 もとより、外交だけで領土の保全も奪還もできないことは現実が示すとおり。領土問題は「軍事的に解決されるもので、外交はその補完でしかない」と著者は説く。

 しかし「軍事的に」といっても実際に戦争するわけではない。「不戦の戦争」で、戦わずに敵を屈服させるのだ。そのためには今後5年間で1,000輌ほどの戦車を増強し、「沖縄県の主要な離島」に配備する。さらに尖閣に陸上自衛隊1個小隊を駐屯させ、将来的には「魚釣島を要塞化する」ことが必要である。

 しかるに安倍内閣は「国防ムード」をばらまくだけで、実効ある備えには一向に着手しようとしない。政権が民主党から自民党へ移り、安倍首相が誕生したからといって「日本の亡国への危険は、いささかも改善されていない」

 こうした危機感の上に立って、具体的な方策を提示するのが本書である。

 そもそも1972年、田中角栄と大平正芳による日中国交回復も、あれは著者によれば「大逆走外交」であった。あのときの中国との取り決めや考え方は、少しでも早く放棄しなければならないと著者はいう。

 日中友好などの言葉に日本が惑わされているうちに、中国の方は「異常なほど急激なスピードで軍事力を増強しつづけ」た。とりわけ彼らの「海軍力増強の狙い」を見抜けぬまま、この20年間を無為のうちに過ごしてきたのが「痴呆民族」日本なのだ。

 とくに「日本の防衛関係者は、質的劣化もはなはだしい。その知的思考停止(知力欠如)は、日本の国防にとって大いなる障害となっている」。というのは彼らが呆んやりと半睡状態にある間に、中国の方はいわゆる「第一列島線」「第二列島線」を引いて、日本周辺の海域をわがものとし、西太平洋に覇権をとなえる戦略を着々と進めてきたからである。

 その最終目的は、日本を足下に従え、米国と対等の立場に立ち、「太平洋を明け渡せと要求」することにある。

 元来中国人は「国際法的な国境概念」を持たず、「自国民族が住むところが自国だと考える」。これは中国大陸に元帝国を築いたモンゴル帝国の「領土膨張の民族文化」に起因するものにほかならない。

 さらに毛沢東の創り上げた共産党独裁体制は、もうひとつさかのぼって「始皇帝の秦の政治体制を骨格とするものと考えられる」。これを毛沢東亡きあと、ケ小平も江沢民も、今の習近平も継承している。

 そして1992年2月、中国は「領海法および接続水域法」なる宣言を発し、その中に「尖閣諸島は中国人民共和国の領土」と明記した。すなわち「尖閣諸島を侵略し占領すると宣言した」のである。

 このような中国の動きに対して、日本は依然呆んやりと拱手傍観するのみ。上記宣言に対しても、時の宮沢喜一首相は何の対抗措置も取らなかった。せめて「文書による抗議」をすると共に、「尖閣諸島に自衛隊を駐屯させるべきだった」のだ。

 それどころか同年、中国の「言いなりに、天皇皇后両陛下を……ご訪中させることにした」ほどである。

 こうした状況の中で「日本の外務省はどこか外国の外務省であるかのようだ。日本の外務省には、尖閣諸島を守らんとする日本国民としての意識や、日本国の外交官としての義務感など、ひとかけらも存在しない」

 そのような日本政府の腑抜けぶりを見すかすように、中国は1991年から尖閣諸島への軍事侵攻を開始した。侵攻計画の第1段階は中間線以西の公海から日本漁船を閉め出す。第2段階は尖閣周辺の日本領海から日本漁船を閉め出す。第3段階は尖閣周辺を警戒遊弋する海上保安庁の巡視船を閉め出す。第4段階は尖閣に軍事侵攻し、これを占領する、というものである。

 まさに、この計画通りのことが、この20年余りの間に着々と進んできた。にもかかわらず「安倍政権は、中国の公船に対して軍艦を出せば、中国も軍艦を出してきて本格的な軍事紛争に発展するかもしれないとおののき震えるばかり」。このままでは尖閣諸島は中国に確実に占領されるであろう。

 著者は「安倍の自民党政権は、トンデモ民主党と五十歩百歩。国際法に無知なだけでなく、尖閣を本心から防衛する計画が存在しない」と憤慨している。

 さて、この調子で本書の概要だけではあるが、最後まで写し取ってゆくと膨大な量になり、果ては著作権の問題にもなりかねない。

 そこで、あとは著者の「緊急提言」の項目だけを並べると、次のようになる。

  1. 尖閣諸島をただちに要塞化せよ
  2. 中国の北海艦隊を殲滅せよ
  3. 海兵隊と上陸作戦空母をただちに創設・建造せよ
  4. 自衛隊法を全面改正せよ
  5. 国会議員は尖閣諸島の危機に関心をもて
  6. 対中「尖閣」限定戦争の準備を急げ
  7. 海上自衛隊は中国公船に対する「船体射撃」「撃沈」をためらうな

 すなわち、尖閣の守りを要塞によって固め、最後は領域を侵犯してくる不審船を撃沈するまでの提言である。こうした防衛政策をすべて忘れ去ったような今の日本は、尖閣や竹島の現状が示す通り、シナや朝鮮の侵略をやすやすと許す結果になるであろう。

 念のために、著者の中川八洋先生は1945年生まれの筑波大学名誉教授。東大航空学科の出身である。航兵衛としては今から20年ほど前『国民の憲法改正』(中川八洋、ビジネス社、2004年刊)を読んで共感し、その後の多数の著作を全て読んだわけではないが、時に応じて愛読してきた著作者のひとりである。決して、今急に、この著者にゆき当たったわけではないことを付記しておきたい。

(小言航兵衛、2013.9.6)


尖閣防衛のためには、このようなヘリ空母を増強し、
オスプレイを搭載して、尖閣周辺を警備すべきだ。
(航兵衛の
防衛省向け提言

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