<小言航兵衛>

集団的自衛権

 集団的自衛権の憲法解釈が、閣議決定で変更された。これについて、7月3日の朝日新聞朝刊は一面トップの大見出しで「憲法が骨抜きになった」と書いている。しかし実際は、これまでの憲法解釈こそ骨抜きだったのであり、今回の閣議決定によってまさしく骨が入ったのである。「憲法が筋金入りになった」と、朝日は書くべきであった。

 折から同日、中国の習近平が韓国に行き、朴槿恵と会談したのはいいが、2人そろって日本の歴史認識を非難する談話を発表した。けれども、この両名に歴史を語る資格はあるのか。とりわけ中国は過去5千年にわたって歴史の改竄(かいざん)と歪曲を繰り返してきた国である。

 たとえば日中戦争の当時、中国も韓国も存在しなかった。当時の朝鮮は日本の一部であり、日本軍としてシナに攻めこんだのである。シナの側には国民政府と、それを転覆しようとたくらむ共産党があって、日本と戦ったのは国民政府の方である。その国民政府が日本に負けて共産党が漁夫の利を得た。というよりも火事場泥棒のように政権の座を奪ったのだ。

 こうした歴史的事実を棚上げにして、日本の「歴史認識」をとがめるなどできようはずがない。自らの歴史認識こそ歪んでいるのだ。おそらくは意識的に歪めているのだろうが、それを認識できないとすれば、よほどの無知か白痴とでもいうほかはない。

 この歴史的事実について、日本軍が蒋介石の国民政府軍をやっつけたのは失敗だったと論じているのは『日米中アジア開戦』(陳破空、 山田智美訳、文春新書、2014年5月20日刊)である。

 つまり、あそこまで蒋介石政府軍を追い詰めなければ、中共軍の勢力拡大や武装強化もなく、政権を奪うこともできなかったはず。しかるに共産党政権ができたために、彼らは中国人民に未曾有の苦しみを与え、今に至るまで中国を害し続けている。

 のみならず、周辺諸国へも侵略を重ねてきた。モンゴル、チベット、ウィグルなどへの侵略は少し前の話だが、最近は東南アジアや、日本を含む東アジアへの侵攻も、その意図をあらわにしている。日本が集団的自衛権を固めざるを得ないのも当然のことだ。

 

 中国の歴史認識が口先だけの言いがかりにすぎないことは、先進諸国から受けた恩を仇で返す行為にも現れている。すなわち本書によれば「1978年以来、日本やアメリカやヨーロッパは中国に大量の援助と投資を行い、経済発展を支持してきた。前中国国家主席の胡錦濤自ら『日本の経済援助なくして中国の現代化はあり得なかった』と語っている」

 ところが今や「中国政府は恫喝的な態度で、隣国に対する領土と領海への要求をエスカレート」させている。「中国の指導者は、独裁体制という仕組みを借りて国力と軍事力を欲しいままに支配できる……赤い壁の内側では独裁者がいつでも戦争発動の発射ボタンを押そうと構えている」のだ。

 事実「中国の国防費は25年連続で増加」しつづけ、2014年度は前年比12.2%増の1,320億ドル(約13兆円)の軍事予算をつけた。これに対する日本の防衛予算は、2014年度で前年比2.8%増の4兆2,848億円。中国の3分の2にすぎない、

 さらに2013年末に決まったわが国「中期防衛力整備計画」でも、向こう5年間に合わせて24.7兆円の防衛費を支出することになった。中国の2年分にも足りない。

 にもかかわらず、中国は日本が「地域の緊張に拍車をかけている」とののしり、「断固反対」と喚きつつ、「軍国主義復活」に向かっているなどと言いがかりをつけている。実際は、しかし「軍国主義は日本ではなく中国」にほかならない。

 中国は1998年以来「国防白書」を発表している。もっとも毎年ではなく断続的なもので、最新版は2013年4月に出た。これが8回目である。従来の白書には「いつ、いかなる時も核兵器の先制使用はしない」という原則が示されていた。しかし最新版ではそれがなくなった。

 軍事力を、米国と肩を並べるところまで拡大強化してきて、いよいよ本性をあらわしたということであろう。

 しかも、そこに書いていることは「尖閣諸島を巡る紛争の責任は日本に、南シナ海を巡る紛争の責任は周辺国家にある」として、「あたかも『中国の脅威』は存在せず、あるのは……『中国に対する脅威』のみ」。台湾についても「台湾を脅かしているのは中国ではなく……台湾が中国を脅かしている」とする。

 このような中国の「凶悪な覇権主義」は中朝関係をも悪化させるに至った。今や「北朝鮮の民衆はアメリカ人を憎んではおらず、むしろ中国人を憎悪している」


わざわざ紛争のタネを設定する中国のやり口

 話は変わるが、本書は習近平が「深刻なストックホルム症候群にかかっている」と書く。これは精神病の一種で、犯罪事件に巻き込まれた人質が、閉じこめられている間に犯人から食べ物をもらったり、トイレに行く許可をもらったりする。そのうちに犯人に対する感謝の念が生まれて好意を持つようになる。つまり、本来は対立するはずの被害者と加害者の関係が、いつの間にか同情や愛情にまで変わってしまうのである。

 習近平の父親は、かつて毛沢東に迫害され、16年間にわたって身柄を拘束された。その間、息子の習近平も「反革命分子」として批判され、群衆の前に引きずり出されると「鉄の三角帽」をかぶらされ、吊し上げになり、自己批判を強制されるなどの迫害を受けた。さらには「少年管理所」で3年間ほど拘束されたが、今では「自分の父を賊だと認め、……毛沢東を父とみなしている」らしい。

 この性格的なゆがみや矛盾は、たとえば「尖閣問題の責任は日本にある」といった、明らかに矛盾した倒錯論議を平気で外交上の論議にするといった点に表われている。今や「中国政府の対外宣伝工作はほとんど効果がないように見える。……逆に国際社会は中国が嘘つきで狡猾で陰険で恐ろしく危険であると実感するようになった」

 だからこそ集団的自衛権が必要なのである。今や中国は、日本を仮想敵国とみなすどころか、侵略の対象と見ている。それに対抗するには、日本として、アメリカの庇護に頼るだけではなく、みずからも立ち上がる気構えが必要なのだ。

 日本が外国に侵略されないためには自衛権の確保は当然のこと。これに反対する人びとは、よほど自虐的な人間か、さもなければ「集団的攻撃権」というありもしない幻想に取り憑かれているとしか思えない。

 集団的自衛権の確立は、日本が「寄らば斬るぞ」とでもいった抑止力をもつことになるのであって、寄りもしないものをこちらから追いかけて行って斬るなどはありえない。しかるに最近の新聞やテレビは、ただもう無闇に刀を振り回すような論調で、あたかも中国に降参し、その傘下に入りたがっているかに見える。

 集団的自衛権は、すなわち「抑止力」と理解すべきである。これを「攻撃力」と曲解するような論説委員らは、中国人以上に卑劣な策謀家というべきであろう。

(小言航兵衛、2014.7.6)


わざわざ自衛隊機に接近してくる中国戦闘機
 

   

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