<小言航兵衛>

世界をあざむく詐欺師たち

 詐欺の犯人は、自分の犯した罪を白状し謝罪すれば、それですむのだろうか。無論すむはずはなくて、罰金を取られたり、牢屋に入れられたり、労役を課されたり、何らかの形で罪をつぐなわなければならない。

 朝日新聞の慰安婦問題や原発吉田調書問題は、この詐欺罪に相当するのではないか。嘘を承知で世間をあざむいたのだ。特に慰安婦問題などは30年以上にわたって繰り返し捏造記事を掲載するという常習詐欺であった。その結果、昨年8月いったんは白状したものの、有耶無耶のうちに終わらせようとして、ごめんでもなければ悪かったともいわないので、世間からは「謝れ」の怒声が浴びせられた。

 やむを得ず、1ヵ月余を経た9月になって形だけの謝罪――それも東電吉田所長の原発調書に関する似而非(えせ)スクープを正面に立てて、記事の撤回が遅れたことだけのお詫びであった。あとは、そのまま頬被りするつもりだったようだが、当然、世間は承知しない。とうとう11月になって社長の引責辞任ということになる。

 しかし、社長が辞めたくらいで会社としての罪をつぐなったことにはならない。詐欺罪の犯人は、他人をだまして取得したものを没収されると共に、10年以下の懲役と追徴金が課せられる。とすれば新聞社としては、嘘を書き続けてきた32年間の新聞購読料を読者に返し、懲役すなわち懲らしめのための労役として、社長以下の幹部社員が世界中を回り、捏造記事の訂正を働きかけるべきであろう。

 たとえば国連人権委員会に対して日本が「性奴隷を強制連行」したとする報告書の撤回を求める。アメリカ議会(下院)およびいくつかの州議会の対日非難決議の撤回を求める。各地に置かれた慰安婦像の撤去を求める。そして韓国に対しては朝日新聞の嘘に乗ったような歴史認識は却って恥さらしになるという説明をして、彼らの考え方の修正を求める。

 他にも、もっと沢山の問題があるはずだが、それらを一つひとつ修正し、日本の恥辱を拭い去って貰わなくてはならない。それが朝日新聞の犯した罪のつぐないになるはずで、是非とも懲役に服して貰いたいものである。

 このような傲慢なる新聞社の実態を内部から告発したのが『朝日新聞 日本型組織の崩壊』(朝日新聞記者有志著、文春新書、2015年1月20日刊)である。

 それによると、朝日不祥事の「本質は、企業構造そのものにある……硬直化した官僚主義、記者たちの肥大した自尊心と自己保身のせめぎ合い、エリート主義、減点主義の人事評価システム、派閥の暗闘、無謬神話、上意下達の日常化」であるとした上で、「それだけではない。……今回の不祥事すら、新たな権力闘争の道具でしかない」という。

 何故そうなるのか。「一流企業」の看板の下に「一流好み」の「高慢な」俗物たちの集団だからである。彼らは「社内の目を極端なまでに気にかける内向き志向」で、「支局長やデスク、先輩記者からの評価に、過剰なほど一喜一憂する」

 その結果「読売の記者が3人集まれば事件の話をする。毎日の記者が3人集まれば給料の話をする。朝日の記者が3人集まれば人事の話をする」といった笑えぬジョークができたりする。

 その人事はどのようにして決まるのか。「好き嫌い」だそうである。「いくらさぼっていても、上司の受けがよければ評価は上がるし、いくら特ダネを量産しても上司に直言するような記者は評価が低くなる」。これでは「働くよりゴマをすっていた方が得ということになる」

 このような人事態勢だから誤報の訂正は「記者自身の『失点』になるだけでなく、記事のチェック役であるデスクのキャリアにも傷を負わせる」。というのは新聞紙面に「訂正を出す際には、記者とデスクの連名で始末書を提出しなければならない」。そのうえ「『訂正週報』にも載るという不名誉」もあって、将来のためにもならないから訂正の「揉み消し工作」「回避工作」をすることになる。

 結果として誤報は訂正されず、誤報のままで残る。慰安婦問題が誤報どころか捏造であることがばれても、32年間も訂正されず、先延ばしになってきたのは、その辺りにも理由のひとつがあった。この本も、あの「誤報を長年訂正しなかったのも、朝日の社風を知る者からすれば不思議ではない」と書いている。「社内の内部論理が、外部からの批判を受け付けなくなっているのだ」と。


まるで他人事のような自白記事「疑問に答えます」

 次に「吉田調書事件の真相」に関する内部告発。朝日新聞は2014年5月20日の朝刊に、東電の福島原発にいた社員たちが「所長命令に違反――原発撤退」という羊頭狗肉の偽スクープを掲載した。

 そのもとになった吉田調書を、なぜ朝日だけが入手できたのか。本書は、朝日の記者に調書を渡したのは「菅直人ではないか」と推定している。というのは、事故直後の菅首相が原発現場や東電本社に乗りこんだことについて、どの新聞も批判的な記事を書いた。しかし「朝日だけは,菅批判を全く」書いていない。「吉田調書の入手と引き換えに菅首相批判は書かないと、初めから約束したのではないか」というのだ。

 そうまでして入手したにもかかわらず、それを記事にするときは何故か逆の内容にしてしまった。原発反対や東電批判のためではないかという見方があるが、実は単に調書に書いてあることを読みとれなかったからだという。信じられない話だが、本当だとすればお粗末なことで、これが日本を代表するクォリティーペーパーというのだから呆れるほかはない。

 そのお粗末に輪をかけて、社内では木村社長が「第一級のスクープ」と絶賛し、賞を出したらしい。そこへ自称ジャーナリストの田原総一郎までが朝日の応援に乗り出してきたりしている。これも、いい加減な男だ。

 その上さらに、朝日新聞は現場作業員が命令に反して逃げたと書きながら、自分たちは「原発の半径30キロ以内に立ち入るのを禁止されていた」「安全なところから、危険な場所にいた所員のあり方を論じている。まさに欺瞞である」と著者は嘆く。

 そうこうしているうちに8月なかば、他の新聞社も吉田調書を入手して、産経新聞が8月18日付けで「全面撤退 明確に否定」と報じた。同月末には読売や毎日も同じような記事を書いて、朝日は「集中砲火を浴び」る状況におちいった。


福島原発1号機の建屋が水素爆発

 さらに9月初め、池上彰のコラム掲載拒否が発覚、9月11日木村社長の謝罪会見がおこなわれた。そして11月14日ついに辞任するに至る。

 しかし朝日新聞が巻き起こした問題の数々は、社長の謝罪や辞任で終わらせてはならない。冒頭に書いたように、国内はもとより、世界中の誤解を解いて日本の名誉を回復し、自分たちの犯した罪をつぐなって貰う必要がある。

 それにしても、このような内部告発が堂々と一流出版社から本になって出るなんぞは、どう考えても不可解。告発する方もされる方も、いったい朝日新聞社はどうなっているのか。そのゆがんだ構造を建て直すには、いったん解体するほかはないだろう。

 航兵衛も、すっかり信頼を裏切られ、小言をいう気力すら萎えてくるではないか。

(小言航兵衛、2015.3.25)


「どこが悪いの?」

     

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