<小言航兵衛>

日本に巣くう癌細胞

 大東亜戦争の真の勝利者は誰か。「それは日本だ」というのは『奇蹟の今上天皇』(小室直樹、PHP研究所、1985年9月7日刊)である。

 その理由は、日本だけが戦争の目的を達し得たからだ。「大東亜戦争の直接の原因は連合国、とくにアメリカの対日経済圧迫」であった。それに荷担するイギリス、中国、オランダを合わせてABCD包囲網が形成され、日本を経済的に追い詰めてきた。日本のマスコミは「これを断固として突破しろ」と騒ぎ立て、それまで隠忍自重、なんとかして戦争を回避しようという外交交渉も空しく、ついに12月8日の真珠湾攻撃となった。

 そして戦争の結果は、日本がポツダム宣言を受諾して降伏する。しかし日本がアジア各地へ進出したことにより、それまで欧米の植民地だったところからABCD諸国を追い払った。フィリピンからはアメリカを、インド、ビルマ、マレーシア、シンガポールからはイギリスを、インドネシアからはオランダを追い出して、それぞれの独立を実現したのである。


本書のいう今上天皇とは
昭和天皇のこと

 そして日本みずからは戦後40年、未曾有の経済発展を実現し、一時はハワイはもちろん、ニューヨークの中心部を買い取るところまで繁栄し、『ジャパン・アズ・ナンバーワン』(エズラ・ヴォーゲル、1979年刊)などという日本絶賛の本まで出るに至った。

 ……そこまでは良かった。日本は表向き戦争に負けたものの、実質的には勝っていたとする小室直樹のいうとおりである。しかし、この本が書かれたのは日本経済高揚期のまっただ中。それが今日まで続かなかったとすれば、この30年間に何が起こったのであろうか。

 バブルつぶしの発端は大蔵省の「総量規制」であった。1990年春、国民の好景気を妬み、自分たちにはなんの恩恵もないと感じた官僚たちが企んだもので、銀行による不動産向け融資の金額に規制をかけた。そんなとんでもない経済政策が、国会で議論されることもなく、役人の通達1本で実行に移されたのだ。まるで風船に針を刺したようなもので、景気は一気にしぼみ、以後20年以上にわたって暗黒の不景気が続いた。

 さらに、よく考えてみると、小室説にもかかわらず、日本はやはり負けたのであった。日本の負けを確実なものとし、絶対に立ちあがれないようにするため、アメリカはマッカーサーの占領中にいくつもの仕掛けを日本に残していった。

 第1は、かの「ウォーギルト・インフォメーション・プログラム」(WGIP)である。戦後まもない頃、戦争の罪は日本にあるとして、日本が如何に卑劣、悪辣であったかを単なる宣伝ではなく、人びとの気づかぬうちにラジオや新聞によって洗脳していった。

 というのは、昭和20年秋の頃、「日本人には戦争への反省の意識はなかった……それが(いつの間にか)すべて日本が悪かったのだと謝罪を繰り返すようにな(ってしまう)……そのような意識が醸成されたのはどうして」か。それこそがWGIPによるものであった、と書くのは『日本が二度と立ち上がれないようにアメリカが占領期に行ったこと』(高橋史朗、致知出版社、2014年1月30日刊)である。

 『大東亜戦争で日本はいかに世界を変えたか』(加瀬英明、ベスト新書、2015年5月20日刊)も、終戦の年の「12月からNHKが『真相はこうだ』の放送を開始、新聞もいくつもの全国紙が『太平洋戦争史』の連載を始めた。いずれもGHQの指示によるもので、日本が非道きわまりない国であったことを日本国民に刷り込む」ためであった。

 結果として、広島と長崎に原爆を落とし、何十万もの市民を一挙に殺害していながら「過ちは二度と繰り返しません」という反省の言葉を石碑に刻んだのは、アメリカではなくて日本であった。これだけでも日本人が如何に洗脳されたかが分かろうというもの。

 逆にアメリカ政府は、トルーマン大統領以下、日本が懸命に和平を求め、講和の方策を模索していることを知りながら、原爆投下の計画を進めた。なぜなら彼らは「日本人を人種的に蔑視」しており、日本人の全員殺害を目論んでいたからだ。空母艦隊を率いた「ウィリアム・ハルゼー大将は白人優越主義者であって、『日本民族を絶滅すべきだ』と公言していた」

 さらにスチムソン陸軍長官はホワイトハウスの会議で、原爆について「人類史上かつてないいちばん恐ろしい兵器」という表現を使って説明した。

 それでも、原爆投下を正当化するため、この作戦が戦争終結を早め、日米両国の多数の人命を救うものであり、米軍の日本上陸作戦によって失われるはずの若者たちの命を救う。つまり人道的な作戦だという屁理屈を並べ立てたのである。

 第2は東京裁判。戦争中に首相や閣僚を務めた人びとを戦争犯罪人として、架空の法規にもとづく裁判にかけ、処刑した。これが如何に出鱈目な裁判であったかは、裁判の当初から弁護団によって指摘され、最後の判決にあたっても不当な裁判であることが裁判官の中から少数意見として述べられた。しかし当時の日本では、そんなことが国民に知らされることはなかった。

 何も知らない国民は、絞首刑という判決だけで、内容は知らぬままに、戦時中の指導者たちがよほど悪いことをしたのだろうと思いこまされた。しかし本当は、開戦前にあっては如何に戦争を回避するかに腐心し、終戦直前には如何に早く講和を結ぶかに努力し、第三国を通じてこちらの意向を相手側に伝えていたのである。

 それを知りながらアメリカは原爆を落とし、スターリン率いるソ連に至っては、日ソ不可侵条約の期限切れを待ち、原爆と呼応するかのように北方の島々に攻め込んで、今も不当な占領をつづけている。裁判にかけられなければならないのは、本来はアメリカやソ連なのである。


東京裁判

 第3は日本国憲法である。この憲法は、当時の幣原首相が提示した改正案をGHQが即座に却下し、それに替えて米軍スタッフが短期間ででっち上げたものである。

 外国軍隊が占領国の憲法をつくるなど、国際的なルールにも違反するはずだが、それゆえ彼らは勝手に憲法前文に「日本国民は……平和を愛する諸国民の公正と信義に信頼して、われらの安全と生存を保持しようと決意した」と書きこんだ。自国民の安全と生存を他国にゆだねる国など、世界のどこにあるだろうか。結果として日本は、憲法第2章「戦争の放棄」によって武器を取り上げられ、自衛の権利まで奪われてしまった。


体内に潜んでいた癌の幹細胞が、正常細胞を癌細胞に変え、転移を広げてゆく
日本の現状は、このような危険にさらされているのではないのか

 今、日本にとって最大の問題は日本という身体ならぬ国体の中に巣くう癌である。癌というやつは、航兵衛も経験があるが、自分では全く気がつかない。宿主の気づかぬうちに、いつの間にか体内のあちこちに転移して広がり、気がついたときは手のほどこしようのない状態で、宿主を倒してしまう。

 いま国会や政界の論議を見ていると、戦後、日本という国の体内に仕込まれた3種類の癌――WGIP、東京裁判、日本国憲法が、いよいよ癌機能を発揮してきたかの如くである。呆けの始まったような政治家を初め、民主党、共産党、学者、マスコミといった癌細胞たちが日本という宿主を倒しにかかっているのだ。

 憲法学者に至っては、GHQがでっち上げた法文にしがみつき、手放そうとしない。それも当然のこと、憲法がなくなれば飯の食い上げになるからである。だが多くの国民は、連中のわめき立てる意味不明の経文に惑わされ、一緒になって日本国の体力を消耗させつつある。癌細胞のような連中は放射線治療でも何でもやって早く消し去るべきだ。

(小言航兵衛、2015.7.27) 

    

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