<小言航兵衛>

世界が一変した

 "71 years ago, on a bright cloudless morning, death fell from the sky and the world was changed." (71年前、一点の雲もなく、明るく晴れ上がった朝、天空から死が落ちてきて世界が一変した)

 そんなフレーズで始まったオバマ大統領の5月27日、広島での演説は確かにみごとなものだった。とりわけこのフレーズは、核爆弾の悲劇を示したものでなければ、素晴らしい詩的な表現といえるかもしれない。さすが評判の高い演説の名手ではある。


オバマ大統領が原爆資料館に残した折り鶴

 しかし、そこまではよかったが、この演説の実況中継が終わった途端、NHKのニュースは「広島ばかりでなく南京も忘れてくれるな」という中国の嫌味な悪態を伝えた。今までいい気持ちでテレビを見ていたところへ、冷水を浴びせられたような気分である。そんな難癖を取り上げるNHKの魂胆は、いったいどこにあるのか。まさか、中国のでっち上げによる南京大虐殺なるものを信じているわけではあるまいが、そうだとすれば底意地の悪さが感じられる。あるいはニュース・スタッフの頭がどこかおかしいのではないか。

 さらにNHKは、安倍首相がアメリカの記者から「パールハーバーを訪問する考えはあるか」と質問されたと報じた。これに対し、首相は「ハワイを訪問する計画はないが、昨年アメリカを訪ね、上下両院の合同会議でスピーチをおこない、先の大戦に対する悔悟の念とともに、かつて敵であった国どうしが今は同盟国となった。この日米の和解に尽力された人々に対する敬意と尊敬の念を表明した」と答えたとのことだが、まことに堂々たるものである。

 そもそも大東亜戦争は、日本がアメリカの陰謀に騙され、追いつめられて始まったものだ。窮鼠猫を噛むような心境のはずが、真珠湾攻撃は日本の一方的な騙し討ちだと信じているアメリカ人が多い。しかし真相は、当時のルーズベルト大統領がイギリスを助け、日本を破滅せんとして、参戦を正当化するためにたくらんだものであった。

 当時、悲しいことに日本海軍の暗号はすべて解読され、日本側の作戦はことごとくアメリカ政府に筒抜けであった。そのためアメリカ太平洋艦隊の空母2隻と艦載機は外洋訓練を命じられ、真珠湾の外に出ていて日本軍の攻撃を免れた。これは決して、偶然ではない。ただ、アメリカ政府は何故かハワイの現地部隊には暗号の内容を伏せていたので、現場では卑劣な奇襲と感じられたのである。

 もうひとつ、オバマ演説の翌日、朝日新聞は安倍首相がリーマンショックという言葉をくり返して、世界経済のリスクを強調したと非難している。リスクが小さければ増税という論法だが、朝日はよほど税金を払いたいらしい。

 消費税を引き上げるなどは、誰が考えてもやって貰いたくない。とりわけ小言をいうしか能のない航兵衛のような低所得者にはつらい話である。しかし朝日新聞は利益が大きく、社員も高給取りが多いのであろう。税金を払いたくて仕方がないという奇特な心情なのか、あるいはケイマン島かどこかに資産を移して、タックス・ヘイブン(税金逃れ)の対策ずみなのかもしれない。

 一緒になって民進党も増税をやりたがっている。もっとも彼らは民主党の時代、政権を自民党に明け渡すにあたって増税を約束させた経緯がある。無能な彼らは政策の失敗を重ねたあげく、財務省に媚びを売って税金を上げるくらいしか手がなかったのだ。

 さらに安倍政権の閣僚にもかかわらず、麻生何樫も増税延期に反対しているらしい。財務省の役人が税金を取りたがるのは一種の役目だが、それを抑えるのが首相の意向を帯した蔵相の手腕というもの。この男の無能ぶりは、かつて間違って総理大臣になったときに証明されている。それが副総理に格下げされた今も恥ずかしげもなく、役人なみの増税を唱えているようだが、税収が足りなければ先ず議員や大臣としての自分の給与を返上するくらいの気骨を見せてはどうか。


あの日の広島上空
大統領の演説では
"A mushroom cloud that rose into these skies"
(この空に立ち昇ったキノコ雲)と表現された。

 再び原爆の話に戻ると、『大東亜戦争で日本はいかに世界を変えたか』(加瀬英明、ベスト新書、2015年5月20日刊)は、日本への原爆投下は不要だったというアメリカの論調を詳しく書いている。戦後アメリカの主張は、原爆投下は多数の若者たちの命を救うためであったとしているが、その半年も前から日本政府はスウェーデンなどを介して、アメリカ政府に和平交渉を要請していた。

 さらに原爆投下の2週間前にはソ連に対して和平の意向を知らせていた。そのことは、アメリカ側のトルーマン大統領その他の政府中枢も、日本の外交電報を傍受解読して承知していた。しかるに「トルーマン大統領が人道に反して原爆投下を命じたのは、アメリカの政治家の質を疑わせるものであり、アメリカの歴史における未曾有の残虐行為だった」と非難しているのはフーバー元大統領の回顧録である。原爆を落とされなくとも、日本は戦争をやめたかったのだ。

 加瀬氏はのちに、トルーマン大統領の原爆投下決定会議に陸軍次官として出席していたジョン・マクロイに会ったとき、直接、原爆投下について質問している。「もしも、あのとき日本が原子爆弾を持っていれば、日本に核攻撃を加えたでしょうか」

 それに対してマクロイは「日本が原爆を持っていれば、日本に対して原爆を使用することはありえなかった」と、当然の如くに答えた。今の中国が日本やフィリピン周辺の海や島で泥棒猫のような勝手な振る舞いをしている理由もそこにある。

 日本を狙う中国や北朝鮮が、オバマ大統領のいう核兵器の廃絶に応じなければ、われわれも核武装をすべきではないか。

(小言航兵衛、2016.5.30)

 

    

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