<小言航兵衛>

熊本地震とオスプレイ

 4月なかば熊本・大分地方を襲った大地震は前震と本震が1日おいて発生し、いずれも震度7の最大値を記録した。さらに、その後も激しい余震が続き、2週間で1,000回を超えた。この恐怖と悲惨な状況を助けるために政府、自治体、消防、警察、自衛隊はもとより、さまざまなボランティア団体に加えて、沖縄に拠点を持つアメリカ軍からも海兵隊のティルトローター機MV-22オスプレイが救援に駆けつけた。

 オスプレイは、本誌の読者ならばよくご存知のとおり、ロールスロイスAE1107Cターボシャフト・エンジン(6,105shp)2基を備え、ペイロードは兵員32人または貨物9トン。毎時500キロ近い速度で片道約1,800キロ先の任務地へ向かう。これは同クラスのヘリコプターにくらべて2倍以上の輸送力に相当し、救援機としても垂直離着陸、空中停止、高速飛行の性能が大きな威力を発揮する。

 このオスプレイが熊本に入ったのは本震から2日後の4月18日。その日から熊本県八代港沖に停泊した海上自衛隊の大型護衛艦「ひゅうが」を拠点とし、24日までの1週間に約36トンの救援物資を被災地に送りこみ、任務を終了した。輸送品目は食料、水、テント、簡易トイレなど、被災者の最も困窮していた時期の活動だっただけに、その効果も大きかった。

 ところが、オスプレイのこのような活動に対して、なぜか政治家やマスメディアの一部に救援を忌避するような論調があったのは、まことに残念というほかはない。たとえば「安全性に懸念がある」「必要性が疑問」「政治的効果をねらったパフォーマンス」などの心なき論議が見られた。

 また、ある国会議員は「砂を吸いこんで墜ちるものが噴煙に対して大丈夫か。避難している皆さんも不安に思われている」などと屁理屈をつけて、「米軍の協力はやめてほしい」と語った。そこには被災者に対する同情や支援の気持ちは少しも見られない。このさい被災者からすれば、救援手段を選ぶ余裕など無かった筈にもかかわらずである。

 航空機はオスプレイに限らず、火山灰を吸いこめばエンジンが故障したり停止したりするのは、国会議員に指摘されるまでもない。1982年には英国航空のボーイング747がインドネシア上空を飛行中、ジャワ島で噴火した火山灰を吸いこみ、4基のエンジン全てが停止した。このジャンボ旅客機には乗客乗員合わせて263人が乗っていたが、機長の適切な判断と操作によってジャカルタ空港に緊急着陸し、全員無事であった。

 この事例は極端だが、砂塵、火山灰、潮風など、飛行中に微細な異物を吸いこんだと思われたときは、着陸した後エンジンの水洗いをすることになっている。オスプレイが熊本でそうしたかどうかはともかく、普段は沖縄周辺の洋上を飛ぶことが多いだろうから、エンジン洗浄も日常整備のひとつになっているのではないか。

 熊本の問題は、困難な環境の中で苦しんでいる被災者である。この人びとは「わらにもすがる」思いで、一刻も早く苦しい現状から抜け出すことを願っている。その救援こそ最優先にすべきで、苦しんでいる人びとを前にして、救援手段の良し悪しを論じている暇はないはず。被災者からは、オスプレイに対する批判は「救援活動の妨害」という怒りの声も聞かれた。

 ……最後にブラックジョークをひとつ。昔ヒトラーが考えごとをしながら湖水のほとりを歩いていたとき、何かの拍子に足をすべらせて水の中に落ちてしまった。そこへ通りかかった男が、バシャバシャもがいているヒトラーを見つけて助け上げた。

 ヒトラーは何度も礼を言って、男の名前を尋ねた。男が名乗ると、それを聞いたヒトラーは男がユダヤ人であることに気がつき「ユダヤ人にだけは助けてもらいたくなかった」と言って、もう一度水の中に跳びこんだ。

(小言航兵衛、『航空情報』7月号掲載に加筆、2016.7.6)

 

    

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