死ななきゃ治らぬ

 

 下等狡一とかいう代議士は、あれは学者にでもなっていれば、いくらか成功したかもしれない。しかるに親の真似をして政治家になったのが失敗のもと、不幸のはじまりだった。

 自分では新聞記者になりたかったようだが、記者になってもうまくいったかどうか怪しい。とりわけ政治記者などは、いずれ選挙に打って出ようといった猛者が多いし、あんな優柔不断では骨のある記事も書けなかったであろう。

 最近は聞かなくなったが、「天知る、地知る、我知る」という言葉は、古来重要な訓戒である。いかなる完全犯罪であろうと、自分がやったからには自分が知らないというわけにはゆかない。あとは誰も知らぬだろうと思っても、天と地だけは欺くことができない。

 官房機密費だって天と地が知っていれば、いつかは白日の下にさらされる。とすれば、他人(ひと)に知られてまずいようなことは、何事であれやるわけにはいかない。加倒長官も、知っているのは自分だけのつもりだったかもしれぬが、天と地は欺けない。遠からずしてばれるのは当然であった。

 それにしても、政治家連中が与党はもとより野党だって、50万とか100万とかの背広を着ているとは知らなかった。さぞかしヌクヌクしているのだろうが、昔ハタ何とかいう首相はヌクすぎたせいか夏の省エネと称して上着の袖を半分にチョン切ってみせた。今から思うと馬鹿馬鹿しくも勿体ないことをしたものである。もっとも、あれも税金でつくった服だったとすれば惜しくはなかったわけだ。

 

 もうひとつ日比谷高校の同窓会費を機密費から出したのは、語るに落ちたというべきだろう。たかが1万円を、なぜ税金で払って貰おうと思うのか。そんなケチ臭い根性で天下が取れるわけがないし、取ろうなどと思う方がどうかしている。

 聞けば外務省の幹部連中も日比谷が多いようだが、まさか外交機密費から同窓会費を払っているのではあるまいね。

 断っておくが、航兵衛は日比谷にはゆかず戸山高校に行った。昭和27年に入学した当時は学区制があったし、親父が昔の府立四中だったから戸山以外は考えたこともなかった。あのころ戸山は、東大進学人数1位か2位かで日比谷と競り合っていたが、むろん中学生がそこまで考えるはずもない。

 もっとも、日比谷から東大に行って外務省に入ろうというような連中は、子どものときから世故にたけていたかもしれない。最近も日比谷は昔日の倒台進学率をめざして頑張っているようだが、その前に加倒君の同窓会費ぐらいは、金額の多寡にかかわらず、今すぐ国庫に返納するよう、ここに忠告しておく。

 こんな政治茶番劇と税金の無駄使いには、アメリカのマンガ家も黙ってはいられなかったと見える。いくつかの実例をお目にかけよう。


(納税相談所「機密費の分だけ控除して貰うわけにはいきませんか」)


(無人島「住民税の請求がきた」)


(死ななきゃ治らぬ「彼はいい人でした。彼は正しい人でした。
ただ不幸にして政治家としてのストレスが彼を駄目にしてしまい、
総理になる前に……この結末を招きました。アーメン」)

(小言航兵衛、2002.4.16)

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