<ベル・ヘリコプター>

ARHの前途不安

 

 ベル・ヘリコプター社が開発中の武装偵察ヘリコプターARHは5月9日、米下院軍事委員会の決議により、開発を中止して新たに競争入札をやり直すべきだとする勧告を受けた。決議の内容は2008年度予算の中から、ARH-70Aに当てられた4億7000万ドルを削除するというもの。ただし、この決議だけで直ちに予算が打ち切られるわけではなく、今後なお議会の審議を経なければならない。

 決議の背景には、ARH-70Aの開発が1年以上遅れ、試験に使う原型4機のうち4号機が墜落事故を起こしたという事実がある。開発日程の遅れは、さらに1機当りの価格を当初の520万ドルから1,000万ドル(約12億円)へと倍増させることとなった。

 そうしたことから、軍事委員会としてはARH-70Aを取りやめ、その代わりに現用OH-58Dを改良すべきだという代替案を示し、そのために5,800万ドル(約70億円)の開発予算計上を提案している。

 そもそもベル社がARHの開発について、陸軍との契約を結んだのは2005年7月29日のことであった。現用OH-58Dの後継機として、2006年度から2013年度までに368機を製造するという取り決めで、契約金額22億ドル(約2,600億円)。任務は武装偵察、軽攻撃、小隊の侵攻輸送、特別作戦任務などである。

 ARH-70Aは民間型407単発タービン機を基本としてエンジン換装などの手が加えられ、2006年7月20日初飛行した。以後半年間に2〜3号機が飛び、2007年2月21日4号機の初飛行に際して事故が起った。30分ほど飛んだところで燃料圧力計の赤い警報灯が点き、エンジンが停止したのである。

 乗っていたパイロットはベル社と陸軍の2人。彼らは眼下のゴルフ場に不時着しようとしてオートローテイションに入った。しかし接地の瞬間、やわらかい地面が盛り上がったところにスキッドをひっかけ、横倒しとなって大破した。

 同機は陸軍向けの軍用試験機ではあったが、民間登録の下で飛んでいたため、NTSBが事故調査をした。その結果、燃料ポンプの中のチェック・バルブに異物がはさまって燃料の流れを妨げ、エンジン停止に至ったことが判明した。

 この事故で、米陸軍はベル社に対し、直ちにARH-70Aの開発を中断し、善後策を講じて1ヵ月以内に報告するよう指示した。というのは、この時点で開発日程が1年ほど遅れていたからである。当初の計画では2008年9月までに実用初号機が納入されるはずだったが、アビオニクス類の開発が遅れたため2009年12月にずれこむと見られていた。おまけにコストも増えて、八方ふさがりの状態になりつつあった。

 ベル社からの報告書は3月末に出た。内容は不明だが、米陸軍は5月18日このベル報告書に盛られた新提案について協議することになっている。

 一方ベル社は5月10日、軍事委員会の勧告決議に対し「開発作業のヤマはすでに越えた。ARH-70Aは確信をもって成功させる」という社長談話を発表した。「わが社はこれまで陸軍と緊密に協力しながら開発作業をつづけてきた。これまでの試験飛行の内容も、飛行性能や操縦性など満足すべき結果が出ている」と反論している。

 3機の飛行時間も最近までに600時間近くになった。ハニウェルHTS900-2エンジンも試験飛行が125時間を超えて、良好な機能を発揮している。飛行高度も作戦高度限界4,200mに達しているという。

 事故の前に米陸軍は当初のARH計画をやや変更して、総数512機を総額36億ドル(約4,300億円)で調達する予定にしていた。果たして、その通りの計画が実行されるかどうか、ベルARH-70Aの前途に黒い雲が広がりかけている。

(西川 渉、2007.5.14)

 

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