<ヘリ・エクスポ2004>

ブッシュの「聖戦」


(新たに開発中のベル427I.胴体がやや伸びて計器飛行も可能になる)

 

 国際ヘリコプター協会(HAI)の年次総会のため、この1週間ほどアメリカへ出かけておりました。そのため本頁の更新ができず、読者の皆さまには「折角アクセスしたのに」と思われたかもしれませんが、これからはまた毎日更新の原則に戻りたいと思います。

 さて、HAI大会はラスベガスで開催されました。この街はご存知のとおり、スロットマシンとルーレットに始まり、トップレス・ショーやマジック・ショーから、猛スピードで突っ走る恐怖と絶叫のジェットコースターまでさまざまな娯楽施設があり、夜になっても昼もあざむくネオンの光りに包まれて平和そのものですが、どこか「戦時下のアメリカ」も感じられました。

 ひとつは空港での保安検査がきびしいこと。コート、上着、靴などを脱がされ、金属探知器のゲートをくぐる前後は裸足で歩かされます。

 ロサンゼルスで国内線に乗り換えるときも、トランクの鍵をかけずに預けるよう言われました。「ええっ!」というような顔をしたら、大きな黒人の係員が「ここに書いてあるじゃないか」と、壁に貼ってある小さな紙切れを指しました。いちいち、そんなものまで読む筈はありませんが、預けたあとでX線検査をして、怪しい影が見えたときは中を開けて調べるのだそうです。

 日本への帰国にあたって、ラスベガスでトランクを預けたときは鍵を外せとは言われませんでしたが、成田の荷物台に出てきたのを見ると腹帯が外され、取っ手に巻きつけてありました。おそらく途中でマスターキーか何かで開けたのでしょう。マスターキーであかなければ鍵を壊してでも開けるそうです。

 私の鞄の何が怪しいと思われたのか。HAI大会で集めたヘリコプター・メーカー各社のニュース資料はCDが多く、10枚以上をまとめて入れてありましたが、まさか極秘文書の持ち出しと思われたわけではありますまい。

 デジカメ用電池の充電器だったかもしれません。ロンドンでも一度ひっかかったことがあって、「これは何だ?」というのでカーテンの向こうへ連れて行かれ、トランクを開けさせられました。無論「なーんだ」ということになったのですが。

 なにしろ戦争の相手がテロですから、アメリカにとっては敵がどこに潜んでいるか分かりません。観光客に化けている可能性は充分あるわけで、ラスベガス空港だって警戒が大変なのでしょう。


(大勢の参会者で賑わうヘリ・エクスポ展示会場。
昨年のダラス大会より2割ほど多く、3日間で15,000人を超えたもよう

 もうひとつ、戦時下を感じさせられたのはHAI大会での表彰晩餐会でした。開会にあたって、まず国歌の斉唱があったのです。無論アメリカの国歌です。アメリカ人は右手を左胸に当て、殆どの人が声を出して歌っていました。

 しかし、こちらはメロディは知っていますが、英語の歌詞までは知らず、腹のあたりに両手を組んで、黙って突っ立っているほかはありません。アメリカの国歌は日本の「君が代」よりも恐らく2〜3倍の長さがあるのではないでしょうか。終わるまでの時間が無闇に長く感じられました。

 HAI(Helicopter Association International)というのは、その名が示すように「国際」ヘリコプター協会です。公式の席でアメリカの国歌を歌わせたのでは「国際的」ではないねと思った次第です。イラク戦争に反対したドイツ人やフランス人はどう思っただろうか、といったことがちらと頭をかすめましたが、ここはアメリカでもあるし、非難するつもりはありません。

 このような戦時下のアメリカを感じたのも、道中『ブッシュの聖戦』(中央公論新社、2003年12月25日刊)を読みつづけていたせいかもしれません。エリック・ローランというフランス人記者(「フィガロ」紙)の書いた本で、ブッシュ大統領、チェイニー副大統領、その他の側近たちの思想と宗教と金権体質を解き明かしたものです。

 それによると、9.11テロとアフガニスタン攻撃、イラク戦争は、彼らの権力維持のために利用されているだけで、混乱が激化すればするほど都合が良い。その混乱に向かって「聖戦」という錦の御旗を立てて進撃するわけですから、少なくとも今年秋の大統領選挙が終わるまでは戦争も終わらないでしょう。

 というのも、『アメリカ軍が日本からいなくなる』(日高義樹、PHP研究所、2004年1月5日刊)によると、戦争中の大統領は選挙に負けたことがないそうです。このまま戦争状態が続けば、ブッシュは必ず再選されるという予測を、日高氏は立てています。逆に言えば、選挙に勝つためには今の戦争を続けざるを得ず、すぐさま鉾を収めるわけにはゆかないのです。

 折から3月20日。昨年のイラク開戦から1年が経ちました。数えきれないほどのイラク人が犠牲になり、アメリカ軍にも多数の戦死者が出ました。ブッシュの選挙作戦は、まさしく血みどろの選挙戦になってしまいました。

 その犠牲にくらべれば、トランクの中を引っかき回されたり、靴を脱がされたりするくらいは、無論たいしことではありません。とはいえ、ブッシュの「聖戦」が早く終わって、もっと気楽に外国旅行ができることを願っております。


(われわれツアーの一行は、この看板のあるリヴィエラ・ホテルに宿泊。
HAI大会の会場となったコンベンション・センターから歩いて10分程度)

 ヘリエクスポのその中味は、目下整理中です。追い追いに本頁でご報告しますので、ご愛読のほどお願いいたします。

(西川 渉、2004.3.22) 

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