<野次馬之介>

青の3兄弟

 

 

 今週の英エコノミスト誌に「ブルース・ブラザーズ」(Blue's brothers)という、アメリカの映画(Blues Brothers)か役者をもじったようなうまい表題で、日本の学者3人に授与されたノーベル賞の話が出ている。

 それによると、ノーベル物理学賞は、きわめて微細なものや遙か遠くにあるものの「発見」に与えられることが多い。たとえば素粒子の発見や広大無辺の宇宙の果てに存在する星の発見といった業績である。

 ところが今年の物理学賞は、すでに実用になっている「発明」に対して与えられた。これは、ちょっと筋が違うように思う人がいるかもしれぬが、ノーベルがもともと考えた賞は「人類に多大の恩恵をもたらした功績に授与する」ということであった。青色ダイオードの発明は、まさにノーベル賞本来の趣旨に適うというのである。

 これまでの白熱電球は19世紀に発明されたが、光を発すると同時に大量の熱を発するので、無駄なエネルギーを費やすことになる。ところが発光ダイオード(LED)は半導体を使って、少ない発熱で、電気エネルギーを効率よく光に変えることができる。

 その光の色は半導体の特性によって決まる。先ず1960年代初めに赤色が実現し、60年代末ごろ緑色の発色が可能となった。しかし、これだけでは不十分で、光の三原色からすれば青色ができなければならない。この3色がそろって白色光が実現するのである。

 その実現のために窒化ガリウムの結晶をつくり出したのが赤崎勇、天野浩の両博士であった。1990年代初めの頃である。つづいて中村修二博士が、その実用化に成功する。こうして現在、発光ダイオードによる照明は、白熱電球のみならず蛍光灯にも代わるようになった。「天国のノーベルも喜んでいるにちがいない」とエコノミスト誌は書いている。

 同誌の要旨はここまでだが、『大富豪破天荒伝説』(真山知幸、東京書籍、2014年9月10日刊)によれば、スウェーデン生まれの化学者アルフレッド・ノーベルは、自分の発明したダイナマイトの製造工場を世界100ヵ所以上に設け、巨万の富を築いた。

 ところが晩年になったある日、フランスの新聞が「大勢の人を殺す方法を発明し、それによって富を築いた人物が昨日死亡した」という誤報を掲載した。みずからの死亡記事を読んだノーベルは、自分の悪いイメージを払拭するために「ノーベル賞」を着想したというのである。

 それは、自分の遺産の9割以上を基金とし、その年利を賞金とする。対象は物理学、化学、医学生理学、文学、そして国際的な平和に貢献した人という遺言が残された。この遺言について、生前のノーベルは「私の死んだあと、愛犬ベラはどこかに金が隠してありはしないかと家中を探し回るようなことはしないだろう。けれども、私の周りのものたちは遺言を読んで、きっと落胆の表情を見せるにちがいない。それが楽しみだ」と語ったという。

 これはノーベルが、自分の莫大な資産に関心を示す親類縁者たちに嫌気がさしていたためで、その人間不信が世界で最も栄誉ある賞を生んだのであった。

 ところでLED照明は、馬之介もかなり前から意識して使ってきた。ただし何故か値段の割に暗くて、明るいものを買おうとすると、どうしても高くなる。そのため、10畳や8畳の居間や書斎の照明は依然として蛍光灯を使わざるを得ない。今のところ、わが家のLEDはせいぜい読書スタンドや玄関の門灯、あるいはせまい部屋の灯りくらいしかない。

 LEDは電力消費が少なく、長持ちするので経済的であることは分かっているが、大きな部屋を明るく照らすには設備費がかかりすぎる。しかし最近は発光効率が急速に良くなってきたというから、安くて明るい照明器具を早く実現してほしいものである。

 ということで、わが家におけるLEDの本格利用はまだまだ先のことかと思っていたが、ノーベル賞関連の報道で驚いたのは、テレビやパソコンのスィッチオンを示す青い小さな光も青色ダイオードらしい。とすれば、いつの間にか身近な関係ができていたことになる。

 テレビの録画装置ブルーレイも青色光線だという。馬之介も使っているが、これを何故ブルーレイなどとヘンな名前で呼ぶのか、今回のノーベル賞によって初めて納得することができた次第。

 さらに、馬之介もときどき胃カメラを呑んだり、内視鏡の検査を受けたりするが、そこにもLEDが使われているとか。なにしろ発熱量が少ないので、長く体内にとどめておき、ゆっくりと着実な検査や施術ができるのだそうだ。

 さらに公共の場面では、交差点の交通信号がLEDだというから、いつの間にそうなったのか。また高速通信やインターネットの光ファイバーもLED光線が使われているという。その普及ぶりには驚くほかはない。

 これまでのノーベル物理学賞は中間子、量子力学、宇宙ニュートリノ、素粒子物理学など、無知な馬之介にとっては何のことやらわけの分からぬことばかりだった。しかし、LEDの受賞によって初めて心の底からお祝いできるようになった気がする。

(野次馬之介、2014.10.14)

 


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