ロンドン消防庁のヘリコプター運用実験

ロンドン消防庁は昨年8月から9月にかけて1か月半のヘリコプター運用実験をおこなった。これからヘリコプターを導入するか否かを判断するための実験である。ただし今回は日中だけの第1段階で、今年1月には第2段階の夜間運用実験もおこなわれたはずである。
この実験の内容と結果は、日本でも新たに防災ヘリコプターを導入しようという自治体にとって参考になるのではないかと思われる。これは、その報告書の要約である。



実験の時期と費用
 ロンドン消防庁は1995年4月、ヘリコプター運用実験の実施を決めた。実際におこなわれたのは1995年8月から9月にかけての6週間であった。この6週間の運航は日中のみで、その結果が良いと判定されれば今年度中に3週間の夜間実験をおこなう予定である。この両方の実験によってヘリコプターの運用実験は完成することになる。

 実験のための経費予算は、第1段階が8万ポンド(約1,360万円)、第2段階が4万ポンド(約680万円)であった。

実験運航の目的
 実験の目的は次のような課題について答えを求めることであった。

@ヘリコプターは消防活動の効果を向上させるこ とができるか。
Aロンドンの消防活動の中で、ヘリコプターは如 何なる任務に適しているか。
B消防活動に適したヘリコプターの機材および人 材は如何にあるべきか。
C消防活動にヘリコプターを有効に利用するため に、現在の消防体制を変更する必要があるかど うか。

使用機材
 実験に使用したヘリコプターは、ユーロコプターBK117C1双発機。運航に当たったのは英国における同機の販売代理店、マクアルパイン・ヘリコプター社であった。

航空隊員の訓練

 実験運航の準備は、まずヘリコプターに搭乗する消防救急隊員の選任からはじまった。そのため消防署員の中から志願者を募ったところ、志願者だけでいっぱいになった。彼らはヘリコプター作業に関しては全くの初心者だったため、運航に先だって2日間の訓練がおこなわれた。
訓練内容は実験期間中のさまざまな出動任務に関すること、ヘリコプターのすぐそばでローター回転のまま安全に任務を遂行するための注意事項、任務遂行に必要な資器材のヘリコプターへの搭載、固縛、取り降ろしなどの要領、空対地の無線通信要領、またヘリコプターそのものが事故を起こした場合の消火と救急の方法、そしてヘリコプターに乗ってくる一般外部の人への安全注意事項の説明要領などである。訓練終了後、受講者たちがどのくらい理解したか、口頭および筆記による簡単な試験もおこなわれた。
他方、消防本部でも、実験運航の前にヘリコプターの出動手順や運航について研究調査をおこない、一般市民からの緊急電話を受け付ける職員に対して、ヘリコプターの出動手順に関する訓練を実施した。


飛行時間

ヘリコプターは、実験運航期間45日間のうち44日間が午前9時から午後6時まで飛行可能な状態にあった。この間の飛行時間は53時間10分であった。1日平均1時間10分である。年間に直せば440時間の飛行に相当する。
1日だけ飛行不能な状態になったのは、エンジン故障のためである。この回復に1日を要した理由は故障探究に時間がかかったからで、それというのも、このヘリコプターは運航者にとって初めての機種、それも一と月前から運航を開始したばかりだったからである。したがって将来は、同じような不具合が発生しても、これほど長く飛行できなくなるようなことはないと見てよい。
エンジン故障以外の飛行不能時間は合わせて4時間15分であった。原因は気象条件と航空管制で、ある日の朝は75分間も霧の晴れるのを待たなければならなっかたし、また90分間にわたって雲が低く垂れこめたこともあった。さらに航空交通管制によって出発待機を指示された時間は90分間に及んだ。
航空管制の影響が大きかったのは、今回の実験拠点がヒースロウ空港に隣接する場所だったためである。ヒースロウ空港へ頻繁に入ってくる定期旅客機と同じ空域を飛ぶために、しばしば出発を延期しなければならなかった。それに今回は臨時の実験運航だったため、緊急飛行といっても直ぐに特別許可を受けられるような体制があらかじめできてなく、通常の航空交通管制にしたがって飛行しなければならなかった。
このような航空管制上の問題は、今回はやむを得ないとしても、将来は改善の余地がある。したがって、これを差し引いて考えると、整備と気象条件による飛行不能期間は全体の2%であった。

出動指示と所要時間

火事や交通事故の発生を知らせる市民からの通報は、電話で消防本部に入ってくる。それを受けたコントロール・センターは一定の手順に従って必要な連絡を取り、消防ポンプ車、化学消防車、救急車、その他の出動を指示する。
実験期間中はヘリコプターもその一つであったが、通報を受けた実験航空隊長は出動内容把握のために、もう一度電話で詳細を問い合わせ、それから改めて隊員へ出動の指示を出し、その一方でロンドン警視庁へ着陸場所の警備を依頼するなどの手続きを取らなければならなかった。
さらに報道陣との約束で、記者室にもヘリコプターの出動を知らせなければならない。ヘリコプター実験がマスコミの注目を集めていたからである。
だが実験開始から間もなく、このような出動手続きは、大変な時間がかかることが判明した。特にこの8月は異常に暑く、また乾燥していて、消防署には緊急通報や救急要請が普段の2倍以上もあって、コントロール・センターは多忙をきわめていた。
記録を調べてみると、消防本部が緊急通報を受けてから飛行実験班に連絡が行くまでの時間が平均 4.0分、それを受けた航空隊長が詳細情報を把握してヘリコプターに出動指示を出すまでの時間が平均2.3分、合わせて6.3分の時間がかかっていた。しかし、これではヘリコプター利用の意味が薄れてしまう。
そこでコントロール・センターは実験航空隊への連絡を最初に出すこととし、4.0分の時間を2.7分まで短縮することができた。それでも緊急通報を受けてからヘリコプターの出動指示が出るまで5.0分を要する。
また出動指示が出てからヘリコプターが離陸するまでの時間は、実験第1週が平均3.5分であった。この時間は乗員が慣れるにつれて短縮された。すなわち、この時間のあいだにヘリコプターに乗る消防救急隊員は、出動目的に応じて持っていく装備を選択し、それを機内に積みこんで固縛し、自分自身が乗りこむ。その間にパイロットはエンジンを始動し、飛行態勢をととのえ、コントロール・タワーへ飛行許可(クリアランス)を求める。
ヘリコプターが離陸してから緊急現場へ着陸するまでの飛行時間は、平均10.6分であった。したがってヘリコプター出動の指示が出てから現場へ到着するまでの時間は13.3分ということになる。この所要時間は表1に示す通りである。
表1 緊急通報を受けてから現場到着までの所要時間




時 間 要 素
第1週の
所要時間
実験期間全体の
平均所要時間
消防本部が
拠点の場合
緊急通報を受けてから飛行班への通報
詳細情報入手時間
出動発令から離陸までの時間
離陸から現場上空到着までの時間
上空到着から着陸までの時間
4.0分
2.3
3.5
8.7
1.9
2.7分
2.3
2.7
8.7
1.9
2.7分
2.3
2.7
5.2
1.9
合計(緊急通報から現場到着まで)
20.4分
18.3分
14.8分

ヘリコプターの待機場所

消防本部が緊急通報を受けてからヘリコプターが現場に到着するまでの時間は、可能な限り短かくなければならない。しかし今回、臨時の実験運航ではどうしても短縮できない問題が二つあった。
ひとつは、ヘリコプターの待機場所がヒースロウ空港に隣接していたこと。そのため、通常の定期旅客機が出入りするときは、ヘリコプターはそれを待たなければならない。それに臨時の実験運航でもあり、救急機といっても特別許可を受けているわけではなかったので、通常の航空交通管制にしたがって飛行しなければならず、事故現場へ真っ直ぐ飛べないこともしばしばであった。ときには先ず反対方向へ飛び、それから現場へ向かうような指示が出ることもあった。
したがって、もしも本格的なヘリコプター救急体制または防災体制をつくるときには、特別許可を受けて真っ直ぐ飛べるようにしなければならないし、またそれは可能であろう。それによって、どのくらいの時間が短縮できるか、今のところは不明だが、少なくとも今回の実験飛行よりも早く現場に到着できることは確かである。
もうひとつの問題は、このヘリコプターの拠点が管轄区域の西の境界近くに片寄っていたことである。したがって東側から見れば遠くにあって、それだけ時間がかかる。理想的には管轄区域の中心部に近いところに拠点があれば、出動から現場到着までの平均飛行時間はもっと短縮可能であろう。
そこで表1の右欄に、ヘリコプターの拠点が消防本部にあった場合の推定所要時間を掲げておく。

通信連絡の方法

実験期間中、消防本部、実験班、ヘリコプターの間には無線通信のネットワークが設けられた。携帯用のUHF無線機も、ヘリコプターが事故現場近くを飛んでいるときは、その現場における地対空の無線連絡に有効であることが確認された。しかし、このUHFチャンネルを対空通信に使うことは、法規上できない。無線通信の問題は今後の課題として残された。

出動と現場着陸

実験期間中、ヘリコプターは 147回の出動をした。そのうち48回(33%)は現場に着陸した。この現場着陸にあたって、適当な場所がないために着陸できないようなことは一度もなかった。着陸の場所はほとんどが事故現場から 100m以内のところであった。ごくまれに道路上に着陸しなければならないこともあった。また2回だけは遠く離れた場所に着陸しなければならなかった。これは現場の警官がそのような指示をしたためで、その代わりに救急隊員は警察の車を使って現場に駆けつけることができた。
すなわち今回の実験で明確になったことのひとつは、ロンドンでは通常、ヘリコプターは事故現場などのすぐ近くに、それも道路ではないところに着陸し、消火でも救急でも迅速な対応ができるということである。
ただし現場責任者との間に無線連絡が取れなかったり、また彼らが着陸を拒否したために着陸しなかったという事例はある。現場責任者がヘリコプターの着陸を拒否したことについては、二つの理由が考えられる。ひとつはヘリコプターの支援がなくても、地上部隊だけで十分に対応できると判断した場合である。
もう一つはヘリコプターの支援内容や搭載している資器材の内容を知らない場合である。この問題は、ヘリコプターの利用が日常化するにつれて解決されよう。というのは、もともと現場責任者の防災手段の中にヘリコプターが入っていなかったからである。しかし実験運航が進むにつれて、一度でもヘリコプターの支援を受け、迅速で強力、かつ機動性のあることを知った現場責任者は、次には積極的にヘリコプターの出動を要請するものが多くなった。

出動目的

147回の出動を目的によって整理すると表2の通りとなる。最も多いのは交通事故、2番目は火災だが、44回の出動をした火災の中で30件(70%)は草地火災、13件(30%)は建物火災であった。
なお、6週間の出動回数を年率に直すと 1,200回の出動をしたことになる。
表2 実験期間中のヘリコプター出動目的

出 動 目 的
出動回数(構成比)
うち着陸回数
うち実支援回数
火 災
道路交通事故
危 険 物
人身拘束事故
その他の特殊サービ
44回(29.9%)
78 (53.1)
12 ( 8.2)
8 ( 5.4)
5 ( 3.4)
26回
14


20回



合 計
147回(100.0%)
48回
27回

空中消火
ヘリコプターからの放水は、今回の実験運航では草地火災の場合しかおこなわれなかった。草地火災は夏の季節に発生するものだが、特に今年の夏は気温が高く空気が乾燥していたために発生件数が多かった。そのためヘリコプターはしばしば火災現場の消防責任者から出動を要請された。そして地上の消防隊が接近できないようなところ、あるいは水源から遠いところにヘリコプターで水を投下をするよう依頼された。

その消火に当たって、ヘリコプターは 600リッター入りのバケットを使った。またバケットで水投下をするのが不適当な場合は、小型ポンプをヘリコプターに積んで火災現場に運んだ。あるときはホースの一端をヘリコプターで引っ張って広大な草原の中を飛んだこともある。これはあらかじめ考えてなかったような、全く思いがけない利用法であった。さらにヘリコプターを使って消防隊員を現場に送りこんだが、これが遅れていればもっと大火になったことも考えられる。

交通事故での救急
今回の実験運航にあたって、実験航空隊は交通事故を起こした車の中から人を救出するための器具を用意した。これが非常に重要な役割を果たした。それは、M25高速道路とM4高速道路が接続する地点で大きな事故が起こったときのこと。大型トラックと乗用車が衝突し、乗用車に乗っていた2人が車の中に閉じこめられ、けがの状態もひどくて事態は深刻であった。出動の際に、ヘリコプターに知らされた事故現場は間違った場所であった。しかしヘリコプター乗員は高いところから見ていて、すぐに間違いに気づき、正しい現場に着陸した。それでも現場に到着したのは地上の救助隊よりも早く、一番乗りであった。

ヘリコプター救助隊は直ちに事故の状況を判断し、救出作業に取りかかった。間もなく地上の救急隊も到着したので、ヘリコプターは別の救出器具を取りに行き、10分も経たずに大型の救出リフトを持ってきた。それによって、車の中に閉じこめられていた人が救出された。この大型器具を車で取りに行っていたのでは、とうてい間に合わず、助かる人も助からなかったであろう。というのは、この事故のために道路は大変な渋滞になっていたからである。
すなわち交通事故は、事故車みずからが道路渋滞の原因になり、救急車や支援車の到着を遅らせるという事態を招く。この実験中も、ヘリコプターはしばしば交通事故の現場へ出動したが、ほとんどは交通渋滞が起こっていて、救急車よりも先に現場へ到着し、地上救急隊が到着するまで現場での救助活動にあたったのである。

危険物事故

危険物の事故に対してもヘリコプターは有効であった。事故の通報を受けると、消防航空隊員は直ちに事故の内容に応じて、たとえば毒ガス防護服を着用し、汚染物質除去のための資器材や吸収剤をヘリコプターに積みこんで現場に急行した。
これらの用具は、実験を通じて急速に改良された。というのは実験運航をはじめて間もなく、従来の機器はヘリコプター支援のためには必ずしも適切ではないことが判明したからで、ヘリコプターで迅速に輸送できるようなものが工夫され、開発された。
もとより、ヘリコプターは誰よりも早く現場に到着し、化学物質の漏洩などを迅速に処理した。そのうちの1回は、化学的な処理に際して化学の専門家の助言が必要ということになった。そこでヘリコプターは、処理装置と消防隊員を現場に送りこむと、直ぐに専門家のいるところへ飛び、その人を連れて戻ってきた。この間30分。おそらく車を使えば、3倍はかかったであろう。
このような化学物質の漏洩事故は、ヘリコプターがなくても無論それなりの処理ができたに違いない。しかし時間がかかって漏出量が増え、処理のための人員も多数を要し、被害が大きくなる可能性が高い。また消防隊員がそこへ手を取られていた分だけ、ほかの緊急事態へ対応する手が少なくなる。

資器材搭載の方法

消防や救急のための資器材をヘリコプターに搭載し機内に固定する場合、当初は紐で固縛することを考えたが、やがて網をかぶせて固定する方が簡単で確実で早いということが分かった。

これらの搭載資器材はあらかじめプラスチック製の箱に入れて重量をはかり、持ち運びや積み卸しが簡単にできるように工夫した。また大きすぎて箱に入らないようなものは、袋をつくって入れたが、袋は扱いにくいことが分かった。将来はもっと何か工夫しなければならない。


今後の課題
(1)夜間出動の可能性

昼間のヘリコプター運用実験はおおむね成功であった。ヘリコプターは迅速な現場到着が可能であり、利用方法にも柔軟性があった。しかし消防救急活動は昼夜を分かたず必要なことで、今後ヘリコプターも夜間出動が可能かどうかを見きわめる必要がある。ただしCAA(英民間航空局)はヘリコプターの夜間飛行についてきびしい制限を設けており、特に現場着陸条件は昼間とは異なる。したがって、今後なお夜間出動の問題については十分な研究が必要である。

(2)上空指揮

ヘリコプターの用途について、もうひとつ期待できるのは上空からの指揮である。特に林野火災のような広範囲の活動が必要な場合は、全体の災害状況を上空から一望することは非常に有効である。消防当局としては、このような上空支援の要領について、目下詳細を検討している。

(3)夜間暗視装置

FLIR(赤外線暗視装置)をヘリコプターに装着し利用することも有効であろう。FLIRは暗闇でも壁の中でも、熱源を見分けることができる。したがって発火地点がどこであるかを正確に特定することができるし、残り火の有無も確認できる。

(4)サーチライト

サーチライトの効用も大きいであろう。夜間、暗闇で救急手当などをしなければならないようなとき、上空から強力な照明をすることが可能である。

(5)出動時間の短縮

昼間実験で得られた経験からすれば、出動時間の短縮が課題として残った。しかしヘリコプターの運用が日常的なものになれば、緊急要請を受ける消防本部職員ももっと迅速に判断し、ヘリコプターの出動指示を出せるようになるであろう。

(6)通信連絡の方法

今回の実験では、地対空の無線通信手段が周波数を含めて確立していなかった。これは臨時の実験であったことからやむを得ないとしても、今後ヘリコプターを日常的に使うとすれば、無線周波数の割り当てを含めて、もっと確実な通信方式をつくり上げる必要があろう。

(7)夜間運用実験

ロンドン消防庁としては、以上のような昼間実験の成果と今後の課題を踏まえて、今年度中に夜間の運用実験をおこないたい。その目的は次のような具体的内容を含むものである。
@赤外線暗視装置(FLIR)の効果テスト
A「ナイトサン」による上空からの照明効果テ スト
B事故現場に夜間着陸をしようとする場合、上 空から着陸場所の状況を見きわめることが可 能かどうか。
C夜間着陸の適地を昼間のうちに設定しておく ことが現実的かどうか。
以上がロンドン消防庁によるヘリコプター運用実験の報告概要である。これを読んで筆者の感じたことは、第1に彼らが初めてヘリコプターを使ってみて、その柔軟性と多用途性に新鮮な驚きを示していることである。この報告書でも、結論の部分で「ヘリコプターは、実験の準備段階では考えなかったような幅の広い任務と役割が遂行できる。特に夜間運用の実験に成功すれば、その機能範囲はさらに拡大するであろう」と述べている。
まさにその通りで、ヘリコプターはすぐれて柔軟な防災手段である。何か特定の任務、たとえば情報収集にだけ使えばそれで事足れりといった狭量なものではない。しかるに、日本の防災計画にしばしば見られるように、情報収集のために防振装置つきのカメラを取りつけ、テレビの生中継装置を搭載すれば、ほかのことには何にも使えなくなる。ヘリコプターの柔軟性はほとんど失われてしまうであろう。
第2に感じることは、彼らが秒単位で出動時間の短縮に努力していることである。出動目的が火事や救急ならば当然であろう。もちろん日本でも消防車や救急車はジャンと鳴れば直ちにサイレンを鳴らして走り出す。消防・防災ヘリコプターもそうした待機の態勢ができているのだろうか。
第3に短期間の実験でありながら、出動回数が非常に多い。1日3〜4回、年率に直して1,200回というのは、ドイツの救急ヘリコプター50機の平均が年間1,000回であるのを上回る。出動の対象が救急だけではないのだから当然といえば当然だし、またロンドンのような大都市ではそれだけ多くの事故や災害が起こるのであろう。
それに対して、日本の消防・防災ヘリコプターはどのくらい飛んでいるのだろうか。『消防白書』(消防庁)や『防災白書』(国土庁)を見ても、そんな数字は出てこない。今後は是非ともこうした統計を公表して貰いたいものである。
そこで、飛行回数は分からないけれども、先日のNHKテレビ「ヘリコプターはなぜ飛ばなかった」(96年1月11日)によると、全国28の自治体が持っている消防・防災ヘリコプターは年間飛行回数の 2.6%が救急、44.4%が訓練、53.0%が消火や警戒などであるという。ロンドンの出動目的の構成比にくらべて、いったい何のためのヘリコプターであろうか。
第4に留意すべきは、これらの実験から、ロンドン消防庁はヘリコプターを「災害現場責任者の片腕」と位置づけていることである。ということは、首相官邸や対策本部が高見の見物をするためのテレビ・スタンドではないということである。ロンドン消防庁のA4版20頁余の報告書には、将来計画も含めて、どこにも情報収集などという言葉は出てこない。ヘリコプターは、現場責任者の自由裁量によって、災害現場の状況に応じた直接救助活動に使ってこそ、大きな効果と威力を発揮するのである。――児玉則史

(『コミューター・ビジネス研究』第37号、1996年3月)

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