雌鳥時をつくると

 

 

  周初というから紀元前千年、つまり今から三千年も前に書かれた中国最古の歴史書『書経』に、こう書いてある。「古人曰く、牝鶏(ひんけい)は晨(あした)する無し。牝鶏の晨するは、これ家の尽くるなり」と。めんどりが時をつくるのは不吉なことで、家が滅びるというのだ。

 この間までアメリカにも女外務大臣がいたようだが、アメリカ人の誰もが「牝鶏の晨」という教訓を承知しているとは思えない。日本でも最近は多くの人が忘れたか、知っていても知らぬふりをする。それがこんな恥さらしの騒動を惹き起した原因である。

 余り騒がしい雌鳥は、卵を生む前に羽根をむしり取ることだってあり得よう。今回はまあ「雌鳥勧めて雄鳥時をつくる」ところまで行かなくてよかったが、うっかりアメリカの真似などをして、国を滅ぼすことのないよう注意しなければなるまい。

 しかし、もうひとつ問題が残っているのは中国からの内政干渉である。『書経』を書いただけあって、さすがに彼らはよく分かっている。日本の牝鶏をけしかけて、時をつくらせようとするのだ。「靖国参拝はやめなさい」とか、教科書は書き直せとか、焚書坑儒にも似た注文を雌鳥を通じてつけてくる。われわれはもとより、雌鳥もまた中国のしたたかな手に乗らぬよう気をつけておかねばならない。

(小言航兵衛、2001.8.5)

 

 

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