三菱MH2000ヘリコプター

 先日、日本で初めての国産ヘリコプター、MH2000が運輸省の型式証明を取ったというニュースが報じられた。そのとき、このヘリコプターがどんなものかという質問を受けたが、折良く三菱重工の説明を聞く機会があったので、そのときのメモをここに掲載しておきたい。

 MH2000は三菱重工が3年ほど前から研究と開発を続けてきた双発タービン・ヘリコプターである。機体もエンジンも三菱製で、その両方を同じメーカーが同時に開発するという例は、特に近代の航空機では世界的に例がなく、きわめて珍しいことである。そのうえ開発着手から短時間で型式証明を取得したわけで、三菱重工のスタッフの忙しさとご苦労は大変なものだったらしい。

 このヘリコプターは3年ほど前、RP-1という名前で研究がはじまった。飛行実験に入るや、たちまち報道陣の嗅ぎつけるところとなり、1994年4月16日の「朝日新聞」でスクープされた。

 正式に製品として開発することになったのは1995年初め。同年4月18日に運輸省に型式証明を申請、原型4機をつくって2機で地上試験、2機で飛行試験をおこなう計画が立てられた。飛行試験のための2機は、1996年7月29日に1番機が初飛行、合わせて300時間の試験飛行をして去る6月26日めでたく型式証明を取得したわけである。

 ただし、これはまだ「輸送TB級」という耐空類別で、勿論これで旅客輸送もできるけれども、目下「輸送TA級」の型式証明を取るための試験飛行がつづいている。おそらく来年春までには認可される見こみで、これが実現すればエンジンの片発が停止しても、そのまま飛行が続けられる安全性を獲得することになろう。

 そして来年夏か秋には量産1号機も完成し、顧客への引渡しがはじまる予定。基本価格は4億円弱。向こう10年間に100機の販売をめざすという。なお三菱重工は防衛需要にも期待していることを言明している。

 MH2000の構造は、主ローターが複合材製の4枚ブレード。尾部には10枚ブレードのダクッテッドファンがついている。降着装置はスキッド式。将来は車輪タイプもあり得るとのこと。

 機内はパイロットを含めて最大10人乗り。ほかに乗客5人分のデラックスな座席をつけたVIP仕様や、担架の搭載も可能な救急仕様などがある。客室ドアは大きなスライディング式。貨物室は容量2.24立米と非常に大きくなっている。

 なおMH2000の尾部についているダクッテッドファンは、ユーロコプター社のフェネストロンに似ているものの、特許の関係かどうか、フランスのものほど騒音が小さくない。向こうは何枚ものブレードをわざと等間隔に植えず、いわゆるオフセットにして騒音を下げている。日本が同じ方法を取るのもいいけれど、何かもっと違う方法で騒音をなくす工夫をしてもらいたいものである。三菱のことだから、何かやってくれるのではないかと期待している。

 もうひとつ、MH2000の大きな特徴は、ローターの回転数について高速モード(100%)と低騒音モード(90%)の2種類の切り替えができること。これにより市街地上空を低騒音モードで飛べば、機外騒音が5デシベルほど下がる見こみという。ただし今のところはまだ、低騒音モードの承認は受けていない。

 そのほか本機はまだ寒冷地試験も受けてなく、気象条件がきびしく制限されている。今年の冬にはそうした試験もおこない、TA級のテスト結果と相まって、新たな境地を開くことを期待したい。(西川渉、97.7.20)

 

 MH2000の主な性能諸元は次表の通りである。
 

 最大離陸重量

4,500kg

 空虚重量

2,500kg

 燃料タンク容量

1,132リッター

 エンジン型式

三菱MG5-100

 離陸出力

800shp×2

 最大速度

280km/h

 経済巡航速度

250km/h

 ホバリング高度限界

2,700

 航続距離   

780km

 航続時間

4時間

 


(斉藤実昭氏撮影、ヘリコプター・パラダイスよリ借用)


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