<FARE>

ヘリコプター救急の未来

 先頃HEM-Netで「ヘリコプター救急の未来」と題する小冊子を刊行した。それを、これからホームページに掲載してゆきたい。

 この文書は、アメリカの航空医療研究教育財団(FARE)が一般国民を初め、法規の制定を担当する行政官庁や議会議員向けに、ヘリコプター救急を初めとする航空医療について理解を深めてもらうために作成した啓発文書「Air-Medicine: Accessing the Future of Health Care」を翻訳・編集したものである。

 といっても単に、ヘリコプター救急の量的な普及をめざすものではない。アメリカには2006年9月現在、647ヵ所のヘリコプター救急拠点があり、792機の救急専用ヘリコプターが飛んでいた。その2年前は拠点数546ヵ所、ヘリコプター数658機だったというから、その急増ぶりがうかがえよう。

 これによってヘリコプター救急15分以内の保護下にある地域は、面積にして現在およそ20%、人口75%となっている。ちなみに日本は2006年秋の時点で、ドクターヘリ10ヵ所の保護下にある面積は14%、人口32%程度であった。日本にくらべてアメリカの普及ぶりは、国土面積を考えると大変なものである。しかし逆に、これだけ多数の救急機が飛ぶようになると、さまざまな問題が出てくる。

 特にアメリカの場合は、自由経済の良いところでもあり弱点でもあるが、全米共通の統一的な法規や基準がない。州や市町村、病院、救急搬送業者などが個々にヘリコプター救急システムを立ち上げ、事業を展開している。その経費は主として医療保険が負担しているものの、保険会社の方もここまで増えてくると給付金の増加を恐れて査定を厳しくしたり、患者を乗せていない往路の飛行は保険の対象にしないといった規定を設けたり、システム全体として種々の軋轢が生じる状況となってきた。

 さらにヘリコプターの運航自体、航空法規にしたがうのは当然だが、事業の性質上、多少の悪天候でも無理をして飛んだり、新しい参入企業や不慣れな航空従事者が増えて、近年は事故の発生も少なくない。そうなると、人を助けるはずの飛行が人の命を奪う結果となり、社会問題にもなる。

広大なアメリカの医療過疎をなくし、救命効果を高めるという目標に近づいた航空医療だが、量的な拡大ばかりが続いたせいか、ややいびつな姿をみせるようになった。これを均整の取れた状態にするには如何にあるべきか。それを説いているのが本書である。

 原著は2006年夏作成され、世界中から多数の航空医療関係者が参集する秋の航空医療搬送会議総会(Air Medical Transport Conference)で配布された。その日本語版の作成を了承していただいた財団FAREに感謝申し上げると共に、わが国の大方のご参考になれば幸いである。

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(西川 渉、2007.2.14)

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